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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第14章 - 7/11
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side Karen - 38

お店を出て、駅の方へと足を向ける。

土曜日の夜八時半。未だ帰るには時間が早いせいか、街自体が賑わっていた。

私の手には、紙袋が提がっている。中身はホールケーキ。結局食べきれなくて、持って帰るために包んでもらった。

「家まで送る」

浅倉はやっぱりそう言って、私と同じ電車に乗った。さすがに今日は空席がたくさんあった。2人並んで座って、来週末の長野旅行を如何に楽しむかで盛り上がる。

もうすぐ私の降りる駅に着くというところで私は立ち上がった。

「じゃ、また会社でね」

私がそう言うと、浅倉は眉間に皺を寄せる。

「いい加減に学べっつーの。家まで送るって言ったろ?」

「未だ9時過ぎだよ? 大丈夫だって……」

そんな会話をしている内に電車が止まった。浅倉が立ち上がる。

「ったく、本当に可愛くねぇなぁ。つべこべ言わずに、お前は素直に送られときゃいーの」

浅倉は私の頭にぽんと手を乗せると電車を降りていく。私もその後に付いて電車を降りた。

改札を抜け、家の方へと並んで歩き出す。

私が隣を見上げると、浅倉もそれに気づいて私の方を向いた。

「ん? どうかしたか?」

「ううん、なんでもない。相変わらず背が高いなぁって思ってただけ」

そう言って私は微笑んで見せたけど、実際には違うことを考えてた。

私、結局未だ、自分の気持ちを浅倉にちゃんと伝えてない。さっき勢いで言っちゃったけど、あれじゃ伝わってないよね。翔がせっかく2人で会えるように図ってくれたのに。

なんとなく、無言になってしまう。

「「あのさ」」

浅倉と私、声を同時に発してしまった。

「ごめん、何?」

私が言うと

「いいよ、大したことじゃねーし。お前が先に……」

この会話に覚えがあって、私は噴き出した。

「前にもしたな、こんな会話」

そう言って浅倉も笑う。浅倉も覚えてるんだ。一頻り笑った後、私は立ち止まった。少し後ろにいた浅倉の足音も止まる。

――今なら、言える気がする。

「永野?」

「浅倉、さっき、私が何て言ったのかって聞いたでしょ? あれ、思い出したよ」

「ん?」

「好き」

私は振り返って、浅倉を真っ直ぐに見た。街灯に照らされた浅倉は凍ったように動かない。ただ、私を凝視していた。

「浅倉が好き」

一言だけ告げて、私はまた前方に向き直り歩き出す。別に、返事が欲しいわけじゃない。気持ちが伝えられれば、それでよかったから。

なんだか、スッキリした。

マンションがすぐそこに見える。今夜はゆっくり眠れそうだ。翔にお礼言わなきゃ。誕生日プレゼントありがとって。

数歩も歩かない内に、後ろから浅倉が駆けて来る音が聞こえてきた。浅倉の左腕が、私の左肩に回った。

「お前なぁ、ちったぁ待てって。言い逃げかよ?」

私の右肩の上から浅倉の声がした。

「別に、逃げてないわよ」

浅倉が眉根を寄せ、右手で眉間を押さえた。前、見えてるのかな。

「浅倉、そんな歩き方してたら転ぶよ?」

そう言った私の目の隅に、マンションの光が映った。私と翔の部屋に灯りがついている。

「あれ?」

思わず声が出ちゃった。

翔、いるの? リカちゃんと会ってるんじゃなかったっけ? てっきり出かけてるんだと思ったのに、家デートしてるの?

いいや、せっかくだし、一緒に誕生日祝っちゃおう。ケーキもあるし。

「寄ってく?」

浅倉に聞いてみた。どうせ祝うなら、大勢の方がきっと楽しいもの。

「いや、それはまずくねぇか?」

「大丈夫よ。翔もリカちゃんもいるし。あ、リカちゃんって言うのは翔の彼女ね」

そう言いながら、私はマンションの玄関へと入って行く。

「いや、だから……」

浅倉は何かぶつぶつ言ってたけど、結局ついて来てくれた。

階段を上って家の玄関の鍵を開ける。

「ただいま」

「――あ、おじゃまします……」

靴を脱いで先に上がる。浅倉が少し困惑した表情のまま、後に続いた。

私の声が聞こえたらしく、玄関の奥にあるリビングの扉が開いて翔が出てくる。

「香蓮? ちょい、早過ぎだ…ろ……」

私の後ろに立っている人物を認め、翔の言葉が小さくなっていった。浅倉が翔に向かって会釈する。

「浅倉さん? 香蓮、呼んだの?」

「そうよ。浅倉、遠慮しないで上がって? 翔、リカちゃん未だいるんでしょ? ケーキ持って帰って来たよ。みんなで食べよ」

私は翔の脇をすり抜けて、リビングへと入る。翔がそのすぐ後について来た。

「いや、いるけどさ。って言うか、それがわかっててなんで帰ってくるんだよ、香蓮!」

「なんでって、ここ私の家じゃない。帰って来ちゃダメだった?」

「そうじゃなくて。リカは実家住まいなの。なんでわかんないかなぁ?」

翔が何か言ってたけど、私は台所へ直行して、とりあえずケーキを冷蔵庫に入れる。リビングの方を見ると、リカちゃんがテーブルの前に座って、苦笑していた。その視線の先には、翔と浅倉がいる。どうやら、翔が浅倉に何か話しかけているみたいだ。浅倉の表情が少し狼狽えてる。何言われてるのかしら?

「お帰りなさい、香蓮さん。早かったんですね」

リカちゃんがとことこと台所へ歩いて来た。そして私の隣まで来ると、少し背伸びして私の耳に口を寄せた。

「あれが、『浅倉さん』ですか?」

「えぇ、そうだけど……なんでリカちゃんが知ってるの?」

思わずリカちゃんの顔を見る。リカちゃんはにっこり笑った。

「翔君に聞きました。かっこいい方ですね」

なんとなく翔と浅倉の立ってる方を向いた。ちょうど向こうの2人もこっちを見ていたから、お互いに見合う形になった。

「おい、リカ! 酒買いに行くぞ。みんなで飲むには、多分、足りねぇだろ」

翔が言った。何、その投げやりな言い方。すっごい不機嫌な声なんだけど。

「うん」

リカちゃんが翔の方へ歩く。翔は私の方を見ながら続けた。

「香蓮、俺たちコンビニ行ってくるから、ちょっと摘める物用意しといて」

「わかった……」

なんだかよくわからないけど、どうも翔は怒ってるみたいで。私は逆らわない方がよさそうだと判断した。

翔がリカちゃんを伴って玄関の方へと消えた。

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