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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第12章 - 7/06
71/92

SideStory : side Masaki & Mayuko - 2

「あ、河合君。今帰り? 珍しく早いのね」

「あぁ、武田さん。お疲れ様。そうなんだ、今日は早く帰れることになってね」

「早いって言っても、18時だけどね。ねぇ、駅まで一緒に行きましょ」

「喜んで」

「……そういう言い方はやめた方がいいんじゃない? 彼女が聞いてたら勘違いされちゃうわよ?」

「ご心配なく。紗織は僕のことを信用してくれてるから。僕も紗織のことを一番よくわかってるしね」

「あらそぉ。ご馳走様。――どっかの2人とは大違いね」

「あぁ……うん、そうかもしれないね」

「本当にもう、あの2人、いい加減にくっついてくれないかしら?」

「う~ん……そうは言ってもねぇ。僕たちは外野だから」

「でも、最近の香蓮、見てられない。河合君もそう思わない?」

「確かに、ちょっと空元気が過ぎるね」

「そうなのよ。そりゃあ、ショックなことがあったばっかりだし、だけど香蓮の性格からして心配をかけさせまいとすると思うんだけど。でも、日に日に塞ぎ込んで来てるから、私心配で……。

 実はね、この前2人っきりになったときに我慢できなくなって、どうしたのって聞いてみたの。相談に乗ろうと思って」

「うん」

「そうしたら、浅倉に嫌われたみたいって言い出すんだもの。驚いたわ。そっち?! みたいな。私、てっきりこの前のことでショックを受けてるんだと思ってたのに」

「え?」

「香蓮ね、浅倉君のことが好きなのよ。ちゃんと自覚もしてる」

「ちょっ……え? え? それ、本当?」

「何よぉ。疑ってるの?」

「そういうわけじゃないよ」

「半分、カマかけてみたのよ。浅倉君のことが好きなのね、って。そうしたら、香蓮、はっきり頷いたわ。2回もよ? なんで両想いなのに、くっつかないのかしら……?」

「……」

「何よ、河合君。何か言いたそうね」

「いや、そんなことないよ?」

「嘘ばっかり。河合君のポーカーフェイスを見破る方法、最近わかってきたんだから」

「相変わらず武田さんは手厳しいなぁ」

「そんなこといいから。香蓮と浅倉君関連のことなんでしょ? ほら、早く言う!」

「武田さん相手だと、全然誤魔化せない」

「で?」

「……僕も、浅倉から聞いただけで永野さんに確認したわけじゃないんだけどね」

「えぇ」

「永野さん、彼氏がいるらしいよ。同棲中の」

「……え? ちょっと待って。それは……あり得ないわよ。絶対!」

「僕も武田さんと同意見。でも、浅倉はそう言ってるんだ。

 あの次の日にね、気になって浅倉に電話してみたんだ。永野さんの体調も気がかりだったし。僕、てっきりそのまま永野さんの家で付き添ってるかと思ってたんだけど、なんか様子がおかしくてね。どこにいるのって聞いたら、浅倉、自分の家にいるって」

「――その気の使い方もどうかと思うけど……」

「いや、浅倉もあの頃なんか思い詰めてたみたいだから、僕、しばらく前に、ちょっとけしかけておいたんだよね。永野さんがいつまでもフリーとは限らないよって」

「……」

「駅に着いちゃったけど、まぁ続けるね」

「当たり前よ」

「うん。それで浅倉が、永野さんを家に送って行ったときに、永野さんの家に彼氏がいたって言うんだ」

「だから、それよ。彼氏だなんて何かの間違いじゃないの?」

「僕もそう思いたいんだけど」

「けど?」

「実は僕も、その『彼氏』と永野さんがデートしてるところを見たかもしれないんだよね。だから自分の意見に自信が持てない」

「かもしれない? どういうこと?」

「その女性が永野さんだっていう確証がなかったんだ。会社でのイメージと随分違う格好だったし。それに相手が彼氏かどうかもわからなかったし。でも、その次の出社日から、永野さんお化粧するようになって、それがその女性によく似てたから、あぁやっぱりあれは永野さんだったんだって思った」

「――え、ちょっと待って、ワケわかんない。じゃあ何? 香蓮は同棲中の彼氏がいるのに、浅倉君のことが好きなの?」

「うーん……あれが『彼氏』ならね。でも仲は良さそうだった。手も繋いでたし」

「もしかして、そのデートしてたかもっていうのに遭遇したとき、河合君と浅倉君、一緒にいたの?」

「さすがだね、武田さん。鋭い」

「どうりで……。しばらく前に、浅倉君が変なこと聞いてきたのよね。香蓮の男友達の話。知らないって答えたんだけど……。本当に、香蓮、自分からはそういう類の話してくれないし。それにしても、ホント最悪ね……」

「うん。僕の方が2人に先に気づいたみたいだったから、浅倉が見る前に別の方向に誘導したつもりだったんだけど、一歩遅かったらしくてね。浅倉も気が付いたらしいんだ」

「そうだったんだ」

「好きな女性が他の男性とデートしてるところに加えて、その人と同棲してるところを見ちゃったら、男ならやっぱり荒れるよ。浅倉はそれでも抑制してる方だと思う。会社にだってきちんと来てるし。それも隣の席なのに、だよ?」

「河合君は、浅倉君に同情的なのね」

「そりゃあ、僕も男だもの。女性の考え方が理解できないことだってあるよ。現に今、永野さんのことがちょっとわからなくなってる。あ、沙織は別だけどね」

「……何が本当なのかしら? 香蓮はそんな二股とか掛けるような子じゃないわ。それは河合君も知ってるでしょう? まさか、香蓮が騙されてるとかないわよね? その、香蓮の彼氏ってどんな感じの人だったの?」

「個性的なファッションセンスを持ってる人だったよ。綺麗な顔立ちで、細身の長身。浅倉よりは低そうだったけど、永野さんよりも高かった。でも、真面目そうな人に見えたけどなぁ」

「それだけ聞くとモデルみたいね」

「うーん……確かに。あ、あの人に雰囲気似てるかな。あの、今駅から出てきた人」

「え、どこ?」

「ほら、こっちに来る。切れ長の目の人。ブラックのダメージドデニム履いてる」

「あ、わかった。……今すれ違った人ね? ふぅん。カッコイイじゃない」

「――え? あー、うん」

「どうしたの?」

「あー……もしかしたら、だけど。あの人、本人……かもしれないなぁ」

「えぇっ?!」

「僕もちらっとしか見てないからうろ覚えなんだけど、印象がすごくよく似てる」

「ちょっと、何で肝心なところを覚えてないのよ……」

「ごめんね。こんなことになるとは思わなかったんだ」

「彼、どこに行くのかしら?」

「僕らの会社の方に行くみたいだね。本人だったとしたら、永野さんを迎えに来たのかな」

「それはないわ。香蓮、今日はもう帰ってるもの」

「そうなんだ。でも、この先はオフィス街しかないし、誰かに会いに来たのかもしれないね」

「河合君、追いかけるわよ!」

「えぇっ!?」


「――!! 武田さん、ストップ! 隠れて」

「きゃっ!」

「ごめん」

「河合君てば、急に腕を引っ張るんだもの」

「だって、彼が立ち止まったんだもの。これ以上近づいたら、見つかっちゃうよ」

「ここ、私たちの会社の前よ? やっぱり香蓮のこと迎えに来たんじゃない?」

「さぁ、どうだろうね? それだったら、お互いにケータイで連絡してるんじゃない?」

「あ、そっか」

「それよりも、武田さんはいつまでここにいる気?」

「決まってるじゃない、彼が何しにここに来たか、わかるまでよ!」

「……僕、彼が、その永野さんの『彼氏』って保障はしないよ? それに、ここにいるから彼の目的がわかるってわけでもないと思うけど」

「いいの」

「武田さん、そんな顔して覗いてたら、可愛い顔が台無しだよ? こんな街路樹の陰に隠れて、今でさえもう十分、怪しい人なのに」

「だって、気になるじゃない!」

「その気持ちもわかるけど……」

「いいから少し黙っててよ、河合君」

「ごめんね。――あ。武田さん、ほらアレ、今会社から出てきた人。見える?」

「あれは……浅倉君ね?」

「プレスリリース終わってから、それなりに早く帰れてるみたいだね」

「あ、見て。彼が動いた」

「本当だ」

「浅倉君に近づいて行くわね。浅倉君も気づいたみたい」

「……彼、浅倉に用があったみたいだね。それにやっぱり、彼が永野さんの『彼氏』なのかな。ほら、あの2人、初対面って感じじゃなさそうだし」

「何も聞こえないわね。2人で何話してるのかしら……」

「……」

「河合君?」

「ん? あぁ、そうだね。何を話してるんだろうね?」

「もうちょっと近付けないかしら……」

「だめだよ」

「見つかったら、忘れものしたって言えば、大丈夫じゃない?」

「そうかもしれないけど、ダメだよ」

「河合君は、あの二人のこと心配じゃないの?」

「そりゃあ、もちろん。浅倉がずっと永野さんを想い続けて来たのは知ってるもの。だけど、これは僕たちの問題じゃない。浅倉と永野さんとあの彼とで決める問題だから。僕たちが口を挟むべきじゃない」

「わかってるわよ……。でも、香蓮のことも浅倉君のことも、心配なのに変わりないわ」

「武田さんは優しいんだね」

「あ、彼が行っちゃうわ。浅倉君は残ってるわね……。本当に何を話してたのかしら? 早すぎない?」

「どうだろうね? 他の日に改めて会うのかもしれないね。今日はそのアポイントメントだけ入れに来たとか」

「そうね……」

「後は、それぞれがどうしたいか、だから」

「えぇ。もちろん、それはわかってるわ。それでも私は、できることならあの2人に幸せになって欲しいんだもの」

「やっぱり、武田さんは優しいよ」

「……」

「ま、僕はもう心配してないんだけどね」

「何で? さっきと言ってること違うじゃない」

「んー、ちょっとね。今、閃いた」

「何よ、自分だけわかっちゃった、みたいな顔して。もったいぶらずに教えてよ」

「そんな顔してもだめ。未だ教えない」

「なんでよ?」

「教えないというか、教えられない、かな?」

「だから、なんで?」

「未だ仮説だから」

「え?」

「全くの仮説だから、教えられない」

「どういうこと?」

「点在する事実を使って検証して、ある程度合ってるって証明できたら、そのときに教えるよ」

「つまり、その仮説っていうのに自信がないってこと?」

「ま、そんなところかな」

「か・わ・い・君?」

「理系の性だよ。さぁ、僕らも帰ろう。浅倉もじきに帰るよ。駅まで送るから」

「はぐらかした?」

「そうでもないよ」

「? 全然意味わかんない……」

「まぁ、週明けに話すよ」

「本当よ? 絶対だからね!」

「もしかしたら、僕の検証が終わる前に、結果の方が先に出るかもしれないけどね」

「え?」

「なんでもない」

「ちょっと、河合君!?」

「はい、帰ろう」

「もぉー!」

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