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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第13章 - 7/10
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SideStory : side Sho - 2

俺の名前は、永野 翔。

今日現在、26歳。今度の週末に、双子の姉、香蓮と一緒に27歳になる。


その節目を目前に、この前、ある事件があった。

香蓮が、憧れの先輩とやらの結婚式に参加した日だ。


俺が、朝から香蓮を変身させた満足感に満たされながら1日を過ごし、夕食をのんびり食べていたときだ。

玄関の方で鍵の開く音がした。俺は初め、香蓮が普通に帰って来たと思ったんだ。結婚式に行くって言ってた割に、えらく早い時間に帰って来たなぁと訝しんだけど。

でも出迎えてみて吃驚した。そこにいたのは、香蓮をお姫様抱っこした男だったから。そいつの腕の中で、香蓮はかなり具合悪そうに気を失っていた。肌が赤く染まっている。酔っ払ったらしい。

香蓮はアルコールが全然ダメだ。慣れとかじゃなくて、体質的に弱い。

しっかり者の香蓮が外でこんな風に酔っ払うことなんて今までなかったし、男に連れ帰られるなんて、それこそあり得えない。

俺は思わずその男を睨んだ。もしその男が故意に香蓮をこんな風にしたなら、殴る程度で済ませるつもりはなかった。

でもその男は、俺や香蓮に対してすごく誠意の籠った態度を示した。

香蓮がこうなったのは、この人のせいじゃなさそうだ。

そして、ふと気付いた。

こいつ、この前香蓮と買い物に行ったときに、俺たちの方を見てたやつじゃん。


そのとき、俺は直感的に思った。パズルのピースが当てはまったみたいに。

ひょっとして、この人があの『浅倉さん』……か?

そう思って改めてその男を見てみる。俺よりも高い身長、がっしりした体格、長めの髪。香蓮が言っていた『浅倉さん』の特徴が当てはまっていた。

そうとわかれば、話が早い。

どのみち、近々会わせてもらおうと思ってたところだったし。

なんだよ、香蓮。『浅倉さん』がこんなイケメンだって一言も言ってなかったじゃん。

これは、相当モテるだろう。

俺は警戒を解くと、浅倉さんから香蓮を受け取って部屋まで運んだ。


余談だが、香蓮は重かった。ただでさえ背が高いのに、気を失ってるから尚更重く感じた。たった数メートルの距離を運んだだけなのに、腕が痺れた。

浅倉さんは、こんな状態の香蓮を、1人で連れて帰ってきてくれたのか。

この部屋はマンションの3階。マンションにはエレベータがないから、タクシーを降りてからここの部屋までずっと抱き上げて歩いて来たってコトだ。会場からタクシーに乗るまでだって、同じようにしてくれてたはずだ。

信じられねぇ……。


ただの同僚にはそこまでしないよな。

やっぱり、浅倉さんは香蓮に好意を持ってくれてる。香蓮を大切に思ってくれてる。

あの人になら、香蓮を任せてやってもいい。


俺は香蓮をベッドに寝かすと浅倉さんを待たせていた玄関に戻った。名前を確認したら、やっぱり『浅倉さん』だった。疲れてるだろうと思って上がって行くように言ってみたが、浅倉さんは帰って行った。

そのとき、浅倉さんの様子が少しおかしかったことに、俺は気づくべきだったのかもしれない。でも俺はそのとき、そこまで気が回らなかった。香蓮の体調や、次の日に起きてきた香蓮の語る『浅倉さん』のことに気を取られてて。

そう。ようやく、香蓮が自分の気持ちに気づいたんだ。

2人が上手く行く日は近い、そう思った。


でも、世の常と言えばそれまでだけど、なかなか期待通りに物事は運ばないものだ。

その後、香蓮はだんだん元気がなくなっていった。

表面上は変わらないように見せかけてるけど、俺が見てないところでよくため息をついているのを、俺は知っている。

いつも香蓮が言っていた「浅倉、ムカつく」って話も聞かなくなった。

それどころか、会社での話をあまりしなくなった。

どうも何かがおかしい。


それとなく香蓮に聞いてみた。

香蓮があまり話したがらなかったせいで情報が途切れ途切れだったが、なんとなく状況は掴めた。

どうやら、浅倉さんと上手くいっていないらしい。喧嘩したとかそういうわけじゃなくて、あの日を境にどうもギクシャクしてるらしいんだ。

好きな男に冷たくされてつらいだろうに、香蓮はそれでも気丈に振舞っている。

なんとかしてやりたい。

だいたい、浅倉さんは、そんな薄情なタイプの男には見えなかったけどなぁ。急に態度が変わるなんて、何か原因があるはずだ。香蓮はその原因は自分にあると思っているらしいけど……。


俺はあの日のことを思い返した。そして、ふと、あることに気づく。


もしかして、浅倉さんは、俺のこと知らないんじゃないか?

俺のことを、同棲中の彼氏だとか、そういう勘違いをしてるんじゃないか?


俺は香蓮からしょっちゅう聞いてたから、浅倉さんのことをよく知ってるつもりでいたけど、香蓮はそれと同じくらい、会社で家族のことを話したりしてるだろうか?

……あんまり想像できない。

そりゃ、『双子の弟がいる』ってくらいは話したかもしれないけど。でも、香蓮の性格からして、こんなマンションでその弟と2人で暮らしてるとか、わざわざ話さないと思うんだ。

香蓮にとっては当たり前のこと過ぎて。そういや、俺も同僚に言ってないし。俺にとっても、香蓮と暮らしてるのは当たり前のコト過ぎて、何とも思わないもんな。

だけど、そう考えれば、浅倉さんの態度の辻褄が合う。

一度その考えに思い当たったら、それが真実な気がしてくる。

好きな女が、他の男と買い物に出てるのを目撃した直後に、その男と一緒に住んでるっぽいという状況を知ったら。もしリカにそんな男がいたら、俺だって平静を保てる自信がない。


――ってことは、香蓮が悩んでるの、俺のせいじゃん!


まぁ確かに、俺ももう少し気をつけるべきだったんだよなー。

Tシャツにトランクスなんて恰好で、浅倉さんと会っちまったしなー。

真っ先に名乗っておくべきだったよなー。

まさか、浅倉さんが勘違いするなんて思わないもんなー。


はぁ。まぁ、こうなっちゃったものは仕方ない。

香蓮のためだ。

なんとかしてやる。

俺がヒトハダ脱いでやるとするかね。


ったく、香蓮も香蓮だ。27にもなって自分の恋愛に人の手を煩わせるなよな。いや、まだ26だけど。


でも『浅倉さん』。

香蓮を泣かせたら、承知しねぇからな。


なんたって香蓮は、俺にとって大切な姉貴だからな。

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