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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第11章 - 6/30
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side Karen - 33

それからすぐ、最後の段ボールが見つかった。

やっとこの埃っぽい倉庫から出られると喜んだのも束の間。地上階へ運ぶという段階で予想していなかった事態が発生してしまった。

「嘘でしょ?」

私は『調整中につき使用禁止』と書かれた紙を凝視したまま立ち竦んでしまった。

地上階と地下を繋ぐエレベーターは、大きな荷物の搬入出ができるように業務用の特別なものが設置されている。つまり、普段社員が使っている地上階同士をを繋ぐエレベーターとは別に設けられているのだけど、その業務用エレベーターにこんな注意書きの紙が貼ってあったのだ。

地下の倉庫に降りたときは階段を使ったから、全然気付かなかった……。

段ボールは10箱。さて、どうしよう?

「困りましたね。これっていつまでに必要なんでしたっけ?」

白井君の質問に、私の口が答える。

「明日の朝イチでプレスリリースの会場に向けて発送するの。だから今日中に伝票を書かなきゃいけないのよね……」

そう言いながら白井君の方を向いた。私が次に何を言い出すのか既に想像がついているみたいで、白井君は苦笑いだ。

「了解です」

私が口を開くよりも早く、白井君はそう言った。やっぱり私が何を考えてるのか、わかってたか。

「ありがと。それじゃ、とりあえず地上階まで」

「はい」

白井君は明るく返事をすると、ダンボールを乗せていた大型の台車を階段の方へと動かし始めた。そして階段下まで来ると、白井君は台車の上の1箱を軽々と持ち上げて早速登り始める。私も段ボール箱を持ち上げた。

さっきこの段ボールを探してた時に、それなりに体力を使っちゃってたみたいだ。まだ1箱目だというのに腕に疲労を感じた。1回に2箱以上運べる重さじゃない。単純計算で、1人5往復かぁ。大丈夫かな、私。

「永野さん、僕、先に行って、上に台車用意しておきます。ゆっくりで構いませんから、無理しないでくださいね」

白井君の声が聞こえてきた。見ると、階段の途中で白井君が振り返って私の方を心配気に見ている。

「だぁいじょーぶよ! これでもテニスで鍛えてるんだから」

私はそう言って笑って見せたけど、終わるころにはヘトヘトだろうな、きっと。

私が歩き出したのを確認すると、白井君は足早に上へと登って行く。すぐに私の視界から消えた。


やっぱり男の子(って言ったら白井君に失礼かな)は違うなぁ。社会人になってからテニスサークルくらいでしか運動してないもの。現役でテニスやってた頃は、私もこのくらい平気だったのに。

初めはそんな負け惜しみみたいなことを考えていたけど、登っていくにつれて腕が痺れてきた。

白井君はもうとっくに上に着いて、台車を探しに行っているんだろうな。

そう言えば、現役でテニスしてたのって何年前かしら? 大学を卒業するまでだとして……もう4年も前?! そんなに経ってるんだったら、そりゃあ体力落ちるわよね。それからは遊びみたいなテニスしかしてないし。4年間ずっと、真由子や河合君や浅倉と……。

そこまで考えたとき、急に疲労を感じた。

私は足を止めて手すりにもたれかかると「ふぅ、ちょっと休憩」と、ひとりごちた。

上まで、もう少しだ。あと4往復分あるけど。がんばろう、私。


そのとき、上の方から足音が聞こえてきた。近づいて来る。降りて来る。

白井君? でも台車を用意するって言ってた割には早過ぎるし、それにこの足音、一人じゃないみたい。

「永野さんっ?」

突然呼ばれて見上げると、驚いた顔の鈴木さんと少し眉を顰めた浅倉が階段を駆け降りて来ていた。

「浅倉、永野さんの持ってやって。俺は下にあるやつを運ぶから」

鈴木さんはそう言い残して私の前を素通りしていく。

「あ、はい」

浅倉は返事をして、私と同じ段の、私の目の前で止まった。

なんだか、久しぶりに真正面から浅倉を見る気がする。相変わらず、背が高いな。見上げちゃう。

浅倉は無表情だったけど、目に私に対する気遣いの色が見えた。

「ほれ、オレが運んでやるから」

浅倉が私の抱えている段ボールに手を伸ばす。服に隠れててもわかるがっしりとした腕。

私、この腕にお姫様抱っこされたんだ。こんなに逞しいもの。確かに、浅倉にとってはなんでもないことなのかもしれない。

私が段ボールを抱えるように持っていたせいもあって、浅倉の指先が私の腕に触れた。

その途端、身体がびくんとなる。

自分でも、吃驚した。

はっとして浅倉を見上げると、少し目を見開き、次に目を細めた。

咄嗟に私は言った。

「あ、いいよ、大丈夫。もうちょっとで上に着くし、この1箱くらい自分で運ぶ」

「……大丈夫か?」

「うん、ありがと。下にあるのをお願い」

私はそう言って浅倉に笑いかけ、また階段を登り始めた。

なんだろう。顔が熱い。浅倉が触れた部分も。火が出そうだ。

それなのに、段ボール箱はなんだかさらに重くなったみたいだ。私の腕を圧迫する。ちょっと――ううん、かなり辛い。でも今は、背中越しに浅倉の視線を感じるから、立ち止まりたくない。

お願い浅倉、早く下に行って。

私の祈りが通じたのか、やがて、後ろから浅倉が階段を駆け下りていく音が聞こえてきた。

ようやくほっとする。


でもまた、胸の痞えが大きくなった気がした。


地上階に着くと、ちょうど白井君が台車の上に段ボールを載せていたところだった。私を見て不思議そうな顔をしつつも、私の持っている段ボールを受け取り、台車に積む。

「あれ? 永野さん、鈴木さんと浅倉さんに会いませんでした? 永野さんが一人で運んでるって言ったら、2人とも慌てて降りて行ったんですけど……」

「あぁ、会ったわよ。それがどうかしたの?」

「いや……持ってもらわなかったんですね」

「あと少しでここに着くところだったもの」

「そうですか」白井君が苦笑する。「永野さんて本当に男前ですね。憧れます」

「オトコマエ?」

それって誉めてないよね、白井君。あんまり嬉しくない……。

「まぁ、後は男性陣に任せて、永野さんは先に戻っててください」

白井君が続けた。

「そういうわけにはいかないわよ」

「でも、腕が真っ赤です」

白井君の視線の先、袖の捲くられた私の両腕は、段ボールの重さで赤く染まっていた。

「これくらい、大丈夫よ」

そんな押し問答をしていると、下から鈴木さんが段ボールを抱えてやって来た。

「白井の言うとおりだよ、永野さんはもう戻ること。伝票だけ書いておいてくれればいいから」

そう言いながら、鈴木さんは台車の上に段ボール箱を置いた。

「でも、皆さんそれぞれ仕事がある中やってますし、私だけ先になんて上がれません」

「じゃあ、課長代理としての上司命令ってことで」

そう言われて反論することもできず憮然とする私を見て、白井君はまた苦笑し、階段を下りて行った。

「……わかりました」

「いい返事だ。じゃあ、伝票だけ頼むね」

「はい。すみません、鈴木さん。ありがとうございます」

私が礼をしたのを見て鈴木さんまで苦笑する。そして白井君を追いかけるようにまた階段の下へと消えて行った。

私は仕方なくフロアに戻るべくエレベーターの方へと向かった。

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