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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第11章 - 6/30
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side Karen - 32

真由子や河合君に、ペンションに行く日程の件を浅倉に聞いておく、と言っておいて1週間。私は未だ、浅倉にそのことを聞けないでいた。

「香蓮、浅倉何か言ってた?」

「ごめんね、真由子。未だ聞けてないんだ。なんかアイツ忙しそうでさ。声掛け辛いんだよね」

何日か前に催促してきた真由子には、そう答えておいた。


日程を聞くどころか、もう1週間、浅倉とまともに口を利いていない。

なんだか、浅倉が私のことを避けているみたいで……。

声をかけようと思った途端に席を立ってどこかへ行ってしまったり、仕事の関係で話をしていても用件が終わった途端に会話を打ち切られてしまったり。

ランチにだって、あの日からずっと浅倉は顔を出していない。忙しいんだろうけど、それはわかるけど、前はどんなに忙しくてももうちょっとみんなで一緒に過ごそうとしてくれてたような気がするんだけど。

やっぱり、私、嫌われちゃったのかな。

そんな考えが、重いしこりとなって私の胸に痞えている。この1週間で、それがだんだん大きくなってきているような気がしていた。



「あーもう! 何で私たちみたいなか弱い女性がこんなことしなきゃいけないのよっ!」

無駄に広い倉庫の中、段ボール箱に埋もれながら高田さんがついに叫んだ。

「まぁまぁ。高田さん、文句言わないの。みんな忙しくて手が離せないんだから」

私は肩で高田さんを軽く小突きながら宥めた。両手が埃まみれだから、本当は背中でも叩いてあげたいんだけどそれも叶わない。

「すみません、男手が一人分しかなくて……」

段ボールの影から聞こえてきた声は、白井君のものだ。

「白井さんが謝ることないですよ。白井さんだって、他の仕事があるのに手伝ってくれてるじゃないですか」

そうフォローしているのは万里ちゃん。白井君の隣で、段ボールの蓋を開けながら中身を確認している。


今、私たちは会社の地下にある倉庫にいる。プレスリリースで配る販促物の一部を在庫でまかなうことになったため、片付けられているというこの倉庫に来たのだ。

倉庫は、天井まで届く高さのスチールラックが図書館の列のように並べられている。その棚の中には段ボール箱が詰め込まれていた。

皆がきちんと整理してダンボールを置いていってくれればいいのに、適当に手近な空いているところに入れるものだから、目的の物がどの段ボールに入っているか探すのだけでも骨の折れる作業だった。


「せめて、鈴木さんか浅倉か、どっちか一人だけでも手が空いててくれたら、もう少し楽なんだけどね」

私はそう言いながら、足下にあった段ボールを持ち上げた。そして自分の目の高さにある棚まで上げる。

この段ボールは昔のファイルだった。段ボールの通路に面した部分に油性マジックで『ファイル』と書いておく。こうしておけば、どの段ボールを確認したかわかるし、次にここに何かを探しに来る人が助かるはずだから。

「そう言えば、浅倉さん、最近なんだか余裕なさそうですね」

白井君が言った。動かしている手を休めず、万里ちゃんが白井君に同意する。

「白井さんもそう思いました? 私もなんですよ。なんか別に態度が変わったとかじゃないんですけど……、何て言うか……何か前と違うような気がするんですよね」

「そう?」高田さんが手近な段ボールに手をかけながら言った。「私は全然そんな風に感じないけど」

私はそんな3人のやりとりを聞きつつ、ようやく見つけた目的の販促物が入った段ボールを倉庫の出入り口の方に1つ運んだ。段ボールを床に置き、ふぅ、とため息をつく。これで8つ目。同じような段ボールがあと2つあるはずだ。

今見ていた棚はもうほとんど終わったから別の棚に移ろう。白井君の後ろ側にある棚は未だ誰も見てないはずだ。

そんなことを思いながら、高田さんの隣を通り抜けたとき、高田さんに声をかけられた。

「永野さんはどう思います?」

「え、何が?」

「浅倉さんですよ。永野さんも余裕がないって思います?」

「うーん……今週末はプレスリリースだもの。浅倉にとっては初めてだし、確かに余裕はなくなってるかもしれないわね」

高田さんの質問に適当に答えながらも、私は段ボール箱の中身確認を続ける。

そのとき、腕時計が目に留った。時間を見て驚いた。17時半。この倉庫に2時間以上いた計算になる。白井君はともかく、万里ちゃんと高田さんはもう帰さなきゃ。

「ごめん、いつの間にかこんな時間になっちゃってたのね。みんなもう帰っていいわよ。後は私がやっておくから」

「でも……」

万里ちゃんが何か言いたそうな顔をしたとき、それを遮るように白井君が言った。

「あ、僕残りますよ。探してる段ボールはあと2つですよね。それなら2人で十分ですから、高田さんも万里さんも帰っていただいて大丈夫ですよ」

高田さんと万里ちゃんの2人が倉庫から出て行くと、白井君は一度伸びをして、腕まくりして、また段ボールを漁り始めた。

「ごめんね、白井君」

私が謝ると、白井君は苦笑した。

「いえいえ。永野さんだけでやるのは無理ですって。僕は一応、男ですし。永野さんは女性なんですから、もう少し人に頼ってもいいと思います」

「そうは言っても、みんなそれぞれ仕事があるもの。白井君だって、自分の仕事終えてないんでしょ?」

「締め切りまで未だ時間あるんで大丈夫です」

「それならいいけど」

白井君が確認していた段ボールを棚から取り出して、倉庫の出入り口に運び始める。

「これで、あと1つですね」

「ありがとう。本当に助かるわー」

そう言いながら、私はまた新たな段ボールを開けた。白井君は運んでいた段ボールをさっき私の置いた段ボールの上に重ねると、私の方を向いた。

「永野さん、聞いてもいいですか?」

「ん? 何を?」

「浅倉さんと、何かあったんですか?」

白井君の言葉に、どきりとした。

『何か』あったと言えばあったけど、なかったと言えば何もなかった。少なくとも、浅倉との間には。

「――何もないわよ? なんで?」

間接的には、『何かあった』に入るのかもしれない。そうは思いながらも、否定した。

それに、この胸にのしかかる重さは、一体、何?

「いえ。それならいいんです。多分、僕の思い過ごしですね。気にしないでください」

白井君は微笑むと、作業の続きに取り掛かった。

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