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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第9章 - 6/21
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side Karen - 29

目を覚ますと、見慣れた、自分の部屋に居た。

自分の部屋の、ベッドの上。


あれ? 私、いつ家に戻ったんだっけ?

服も……着替えてる、みたいだし。


身体を起こすと、ひどい頭痛に見舞われた。

何コレ。頭がガンガンする。

その原因を突き止めようと、私はおぼろげな記憶を辿った。

鈴木さんの結婚式に行って、受付して、2人を祝福して、真由子が歌って、ジュースを飲んで、その後――そこで思考が停止する。

寒くもないのに、体が震え始めた。


怖かった。

すごく怖くて、触れられてるのが気持ち悪くて。


私は自分の肩を抱き、両膝を胸に寄せた。身体を小さく丸めて、無理矢理自分自身を抑え込む。それでも。

どうしよう、震えが止まらない……。

いつもなら記憶が完全に飛ぶくらいの量のお酒を飲んだのに、今回に限って覚えてる。ひどく断片的だけど。

――忘れたいのに。

そのとき、部屋のドアが開いた。

「あ、香蓮、起きた?」

「翔……」

翔は枕元まで寄り、ベッドに腰を下ろした。私の両手を肩から外すとしっかり握ってくれる。ここは安全だよ、とでも言うように。顔を上げると、翔は優しく微笑みかけてくれた。

その表情が、私の記憶を刺激した。『あの』後。昨日、最後に私が見たもの。

気を失いかけてたせいか、ちょっと記憶が曖昧だけど、これだけは覚えてる。


あの、とっても優しい瞳。あれは、誰だっけ?

私のよく知ってる人だったはず。

私を温かく包んでくれた。

ほら、思い出すだけで安心できる。

あれは……あれは、浅倉、だった。と思う。多分。

アイツがあんな目するなんてね。

なんだろう。なんだか、あの瞳だけは忘れたくない。


あの浅倉の瞳を思い出すと、さっきまでの震えが嘘だったかのように落ち着いてきた。

「調子は?」

翔の問いかけに答えようとして頭を上げた瞬間、またひどい頭痛がした。

「頭、痛い……」

「んーやっぱり、二日酔いか。まぁ、それだけなら今日一日ゆっくりすれば治るだろ。水と薬持ってくるな」

翔はいったん部屋を後にする。そしてすぐにコップと錠剤の薬を持って戻ってきた。

「あ、そうだ。香蓮、明日会社行ったら、ちゃんと浅倉さんにお礼言っとけよ? 浅倉さん、香蓮のこと送ってくれたんだからな」

再びベッドに座り、私にそれらを手渡しながら翔が言う。

「そう、なんだ」

「浅倉さん、心配してたぞ?」

「――浅倉に、何か聞いたの?」

「いや、何も。あぁ、そういえば、えっと……マサキさんとタケダさんも心配してるって伝言受けたっけな。ちゃんと伝えたぞ」

私は翔が持ってきてくれた薬を、水と一緒に喉の奥に流し込んだ。

空になったコップを、翔は私から取り上げるとベッドの隣にあるデスクへと置いた。

「それで? なんでアルコール飲めないはずの香蓮が、二日酔いなんかになったんだ?」

翔からしてみれば、至極当たり前の質問だよね。でも、心配してくれるのは嬉しいけど、正直、あんまり話したくない。

「――オレンジジュースの、はず、だったんだけどな……」

やっと発した声は、自分でもびっくりするくらいに頼りないものだった。

私の答えに、翔は少し難しい顔をした。私の言った少ない情報から私の身に起こったことを推察しているらしい。やがて、寄せていた眉根が開いた。

「……あぁ、なるほどね。そりゃ多分、ファジーネーブルだな。確かにオレンジジュースみたいな見た目してるもんな。知らなきゃ間違えて飲むってこともあるか」

翔は腕を組んでうんうんと頷いている。納得してくれたのかな。

「でも、それだけじゃねーよな? さっき俺が部屋に入ったとき、香蓮震えてただろ? 何か怖い思いしたんだろ。今までそんなこと一度もなかったもんな。何があった? 事と次第じゃ、俺、浅倉さんぶっ飛ばす」

そう言った翔の目は厳しい。ただでさえちょっと切れ長で取っつきにくい印象を与えるのに、今の表情には本当に凄味がある。これは多分、本気だ。

「ま、待って。違うの。浅倉は関係ないよ。むしろ浅倉は助けてくれて――あ」

「助けた?」

これじゃ『何かあった』って自分で言ってるのと同じじゃん。私のバカ。私はまた俯く。

翔が隣で大きなため息をついた。翔が私の頭をふんわりと撫でる。心地いい。

「香蓮がどうしても言いたくなかったら言わなくてもいいよ。なんとなくだけど、今ので想像できたし。無理矢理聞き出そうとしてごめんな」

うん、わかってるよ、翔。ありがと。心配してくれたんだよね。

浅倉にも、それにきっと河合君や真由子にも、心配させたはずだ。頭が痛くて電話は無理だろうから、後でケータイでメール送っておこう。

「ようやく笑ったな」

翔が安心した、と言う。そう言えば、私、いつの間にか微笑んでる。

「それにしても、俺、ビックリしたよ。香蓮、結婚式の披露宴つってただろ? 2次会、3次会って続くだろうから帰ってくるのは夜遅くなるなーって思ってたのに、えらい早い時間に玄関で音がしてさ。おかしいなぁと思って出てみりゃ、お姫様抱っこされてるんだもんな」

……おひめさま?

「誰が?」

「香蓮が。他に誰がいるってんだよ?」

だよね。ってちょっと待った。私をお姫様抱っこできるような人っているの?

無理でしょ、男性並みの身長だもん。重いし。

「えーっと……誰に?」

「浅倉さん。ってか、さっき俺、浅倉さんが送ってくれたって言ったよな?」

「なんで?」

「そりゃ、香蓮が一人じゃ動けなかったからだろ?」

翔は、何言ってんだとでも言いたげな表情で私を見る。

そうなんだ、浅倉が私を。

「すげぇよな。浅倉さん、香蓮を下から3階まで階段で運んでくれたんだぜ? 俺、玄関で交代したんだけど、玄関からベッドまでっつーすげぇ短い距離を運んだんだけなのにメチャクチャ疲れてさ。香蓮、重すぎ」

私はムッとする。重い自覚はあるけど、他人に言われるとなんか不愉快だ。

「怒る元気があるなら大丈夫だな」翔はそう言うと立ち上がった。「ま、今日はゆっくり休んで。家事は俺がやるよ。後輩の子に仕事代わってもらったからさ。昼飯できたら、起こしに来るな」

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