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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第8章 - 6/20
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side Daichi - 28

披露宴会場の中は思っていたよりも広くて明るかった。

そして、一応1.5次会ってだけあって高砂すらない。まぁ立食パーティーみたいなもんだ。

代わりに座りたい人のために、壁際の一部には机や椅子が設置されていた。


今日の主役、鈴木さんと豊田さんは会場の中央にいる。会社内外の友人たちと写真撮ったり歓談したり、終始笑顔が絶えない。

オレたちは披露宴が始まってすぐに2人に挨拶を済ませてしまった。

もっと長く2人の近くにいてもよかったんだけど、鈴木さんにだって同期や学生時代の仲間の方が気楽なはずだし。

確かに、オレたちだってそうだもんな。鈴木さんとは親しいけど、それよりも正紀といる方が遙かに楽しい。何より必要以上に気を使わなくて済むもんな。

そういや、さすがに受付の件は謝られた。参加者を募っている内に予想以上に人が集まることになってしまい、鈴木さん自身も人手不足かなと心配はしていたらしい。正紀と武田に手伝ってもらったと告げると、ほっと胸をなでおろしていた。驚いたのは、参加人数が膨れ上がったことで、予定していた会場をわざわざ変更したらしいってコトだ。


今、オレと永野、正紀、武田の4人は、会場の隅の方で4人掛けのテーブル席を文字通り『占領して』いる。先に入っててくれた正紀と武田が、親切に席だけじゃなくて飲み物まで確保しておいてくれた。

オレはテーブルを挟んで永野の向かい側になる位置に座ったが、なんか眩しくて正面を直視できなかった。

仕方ないからグラスビールを口に含みながら、会場の中央にある人だかりを眺める。

色とりどりのドレスに身を包んだ女性たち、スーツ姿の男ども。

オレは、その男どもの目が、さりげなく永野の姿を捉えてることを感じた。当の永野は全然気付いてる様子もねーけど。

問題は、あいつらの内の何人が実際に永野に声をかけるか……だな。受付のときも今も、永野は椅子に座ってるから、実際の背の高さはあいつらにはわかんねーと思うし。

ヒール履いた永野なら、軽く175cmくらいになるだろ? それ見たら、声掛けられなくなる男、多いだろうな……。

人が多いせいか、季節のせいか、会場内は結構暑く感じる。スーツのジャケットを脱いじまいたいくらいだ。

「私、ちょっと飲み物取って来るね」

永野の声に、オレは思わず振り向いた。

手にしていたウーロン茶のグラスが早くも空になっている。永野も暑いって思ってるんだな。

「オレが行こうか?」

オレは永野に声をかけた。一人で行かせたくねーし。

永野はそんなオレの気持ちに気づくことなく、つーか多分、オレの親切心だとでも思ったんだろうけど、軽く手で制すると、さっさと席を離れてしまう。

オレは仕方なく永野の後ろ姿を見送ることになった。

「浅倉君、そこは『行こうか?』じゃなくて『行くよ』でしょ?」

武田のダメ出しにオレは反論する気にもなれない。

「まぁいいじゃない。代わりに目を離さないようにしてれば」

一応正紀がフォローを入れてくれた。

オレはとっくに永野をずっと目で追っている。

さっきまで永野のことを気にする素振りをしていた男どもが一瞬色めき立ったが、永野の近づくとともに表情に落胆の色を浮かべる。ヒールを履いた状態とはいえ、やっぱり自分よりも背が高い女性には声をかけられないからだ。

わかるよ、その気持ち。男には男のプライドってもんがある。

運のいいことに、オレはヒールを履いた永野よりも背が高い。


永野がドリンクコーナーに辿り着いた。

永野は酒飲まねーから、ソフトドリンクを選ぶはずだ。ソフトドリンクはテーブルにグラスに入った状態で並べられていて、勝手に持って行っていいってことになっている。

それにしても、人が邪魔してドリンクテーブルの状態が見えねー。どけよお前ら。邪魔だよ。

永野の様子からして、ちょうどテーブルにドリンクがないみてーだ。

オレも行こうかな……そう思って、オレが椅子から立ち上がりかけた時、永野が振り返った。あ、あったみてーだ。オレは椅子に座り直した。

くすくすと押し殺した笑い声が聞こえてくる。正紀と武田だった。

コイツら……。

オレが二人を睨むと、武田は堪え切れなくなったようで声を上げて笑い始めた。

笑い事じゃねーっつーの、ったく!


ちょうどそのとき、会場いっぱいに鈴木さんの大声が響いた。

「みんな、今日はありがとぉー!」

参加者たちもそれに反応して声を上げる。

鈴木さんのいるはずの方向、つまり会場の中央を見ると、さっき以上に人が集まっていた。その中央に、マイクを持ちギターを肩から提げた鈴木さんの姿が見える。あぁ声はスピーカーから流れてたのか。どうりで大きいわけだ。

鈴木さんの隣には人の頭の間からなんとか純白ドレスが確認できた。多分豊田さんだ。その反対側の隣にはドラムセットも。どうやら、バンド演奏をするらしい。

そんなことを考えてる内に人だかりは大きくなり、オレたちがいるところとドリンクコーナーを分かつ程になってしまった。

慌てて永野の姿を探す。

その人ごみの向こう側、壁際にその姿を何とか見つけ出した。手に何かのグラスを庇うように持って、鈴木さんのいる方を向いている。人の壁のせいで、バンド演奏終わるまで戻って来れそうにねーな……。

ただ、背が高いってこういうときは便利かもしれねー、などとつい思う。頭が出る分見つけやすい。

「今から何曲か歌います。って言っても、歌うのは俺たちじゃなくて、ここにいる誰か。クジ引くんで、指名された人はここに出て来て一緒に歌うこと! 俺たちを祝えー!」

また鈴木さんの大声が会場に響く。それに呼応して歓声が上がり、同時にドラムロールが始まった。

しばらくして再び大歓声が上がる。

「武田真由子ぉ!」

いきなり身近な人間の名前が響き、オレは驚いて武田を見た。

武田は飲みかけたビールグラスを口に付けたまま、目を大きく開いている。

「私?」

「そうみたいだよ」

正紀が言い、武田は鈴木さんの方を振り返る。

「私、行ってくるね」

武田はすぐに状況を把握したらしい。笑顔を残してテーブルから去っていった。


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