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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第8章 - 6/20
57/92

side Karen - 28

*** Notice ***

今回、少し暴力的な場面を含みます。

苦手な方は、このページを読まずに次ページへお進みください。

それにしても暑い。喉、渇いた。

もぉいいや、ここで飲んじゃえ。

私は、真由子の歌う姿を眺めながら、オレンジジュースのグラスを一気に煽ろうと傾けた。


あれ? なんか変わった味がする。

これ、オレンジジュース、だよね?


すぐに飲むのを止めた。

グラスを見る。私以外に誰かが飲んだ形跡はない。

でも、この後味は。それに、この身体の感じは。

あ、これ、もしかして、お酒……?

しまった、と思っても、もう遅い。

私、どれくらい飲んだ?

グラスに残っている量を確認する。2口、3口……ううん、もっと飲んだ気がする。

ヤバい。とにかく、座れるところ、探さなきゃ……。

喉の奥が熱い。それが身体中に回るのも時間の問題だ。


運よく、今いるところのすぐ脇に、披露宴会場の出入り口があった。

とりあえず、会場を出よう。

せっかくのお祝いの席だもの。具合の悪い顔で、あそこにいるわけにいかない。

ロビーの方まで行けばソファがある。そこで休ませてもらおう。

お水貰って座っていれば、なんとかなる、はず。

私は手近なテーブルにグラスを置くと、そっと披露宴会場を出た。


歩いてる間にも、どんどん気分が悪くなっていく。

この角を曲がればロビーに着くというところで、私は壁にもたれた。


あと少し、だけど。ちょっと、ここで、休もう。

身体が、変だ。くらくら、する……。


「ねーねー、君、永野さん、だよね?」

誰? 私に声かけてるの?

何で私の名前知ってるの?

私、今、それどころじゃないんだけど。

「へぇ、美人じゃん」

誰? 何か私に用? 何で声かけてくるの?

「あー酔っぱらっちゃってるねぇ……」

見ればわかるでしょ。放っておいて。

頭が痛い……。クラクラする。

本当に、私、何を飲んだんだろう?

ジュースだと、思ったんだけど。

「そう邪険にしないでよ。こんなところに一人いるってことはさ、暇なんだろ?」

何、コイツ? 何で肩組んでくるの?

馴れ馴れしい。気持ち悪い。触らないで! 放して!

私が行きたいの、そっちじゃないんだってば。座りたいんだから。

「暇なんだったらさ、オレたちで、このままフケちゃわない?」

そんな馴れ馴れしくしないでくれる?

私、アンタなんて知らないんだけど。

ホント、お願いだから放して。触らないで。一人にして。

蹴っ飛ばしてやりたいのに身体が動かない。立ってるのがやっと。

頭が痛い。身体が重い。耳が遠い。

なんか、視界まで、変。ぼんやりする。

気を抜いたら膝が折れちゃいそう。

「永野さんて、聞いてた話より随分大人しいんだねぇ。ねぇ、どうよ?」

そんなに顔寄せないで。気持ち悪い。吐きそう。

嫌。イヤ。気持ち悪い。嫌。嫌だってば。

「決められないんなら、俺が決めちゃうよ?」

何? 何言ってるの?

そんなに引っ張らないでよ。痛いってば。

嫌だって言ってるでしょ? そっちには行きたくない。

アナタ誰? なんで私に構うの?

なんで馴れ馴れしくするの? なんで私と肩組んでるの?

すごく嫌な気分。

なんか、気持ち悪い。私に触れないで。吐きそうになる。

頭が痛い。割れそう……。

私を放っておいて。休ませて。

嫌。吐きそう。気持ちが悪い。クラクラする。

この人が側にいると、不快感が倍増する。

ちょっと、何?

そんなに押さないで。

ヤダ。やめて。嫌だってば。

何? 嫌。 何するの? どこ行くの?

私をどこに連れてくの?

ちょっと!

そっちは嫌なの。痛いよ。

行きたくない言ってるでしょう?

嫌、嫌だってば。なんでやめてくれないの?

なんか、怖い。

怖い。コワイ。嫌。嫌。ヤダ。やめて。

頭が痛い。気持ち悪い。吐きそう。やめて、放して!

助けて! 誰か!

嫌、ヤダッ! 嫌、嫌、嫌、嫌、嫌ッ!!!


「香蓮!!!」


私を呼ぶ声。私の、よく知ってる声。


強引に組まれていた肩が解ける。

別の方向から強く引っ張られる。

不快な感覚が消えて行く。

目の前に、誰かの顔がある。私を覗き込んでる。


――あ…さ……くら…?


なんでそんな顔してるの?

何かあったの?

すごく辛そう。――ううん、怒ってる?


暖かい手を肩に感じる。浅倉の手だ。

あぁ、ホッとする。



視界がおぼろげになって行く。だんだん闇に覆われて行く。


浅倉が私を見てる。

何か言ってる。


その瞳。すごく、優しい――




そこで、私の意識は完全に途絶えた。

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