side Karen - 28
*** Notice ***
今回、少し暴力的な場面を含みます。
苦手な方は、このページを読まずに次ページへお進みください。
それにしても暑い。喉、渇いた。
もぉいいや、ここで飲んじゃえ。
私は、真由子の歌う姿を眺めながら、オレンジジュースのグラスを一気に煽ろうと傾けた。
あれ? なんか変わった味がする。
これ、オレンジジュース、だよね?
すぐに飲むのを止めた。
グラスを見る。私以外に誰かが飲んだ形跡はない。
でも、この後味は。それに、この身体の感じは。
あ、これ、もしかして、お酒……?
しまった、と思っても、もう遅い。
私、どれくらい飲んだ?
グラスに残っている量を確認する。2口、3口……ううん、もっと飲んだ気がする。
ヤバい。とにかく、座れるところ、探さなきゃ……。
喉の奥が熱い。それが身体中に回るのも時間の問題だ。
運よく、今いるところのすぐ脇に、披露宴会場の出入り口があった。
とりあえず、会場を出よう。
せっかくのお祝いの席だもの。具合の悪い顔で、あそこにいるわけにいかない。
ロビーの方まで行けばソファがある。そこで休ませてもらおう。
お水貰って座っていれば、なんとかなる、はず。
私は手近なテーブルにグラスを置くと、そっと披露宴会場を出た。
歩いてる間にも、どんどん気分が悪くなっていく。
この角を曲がればロビーに着くというところで、私は壁にもたれた。
あと少し、だけど。ちょっと、ここで、休もう。
身体が、変だ。くらくら、する……。
「ねーねー、君、永野さん、だよね?」
誰? 私に声かけてるの?
何で私の名前知ってるの?
私、今、それどころじゃないんだけど。
「へぇ、美人じゃん」
誰? 何か私に用? 何で声かけてくるの?
「あー酔っぱらっちゃってるねぇ……」
見ればわかるでしょ。放っておいて。
頭が痛い……。クラクラする。
本当に、私、何を飲んだんだろう?
ジュースだと、思ったんだけど。
「そう邪険にしないでよ。こんなところに一人いるってことはさ、暇なんだろ?」
何、コイツ? 何で肩組んでくるの?
馴れ馴れしい。気持ち悪い。触らないで! 放して!
私が行きたいの、そっちじゃないんだってば。座りたいんだから。
「暇なんだったらさ、オレたちで、このままフケちゃわない?」
そんな馴れ馴れしくしないでくれる?
私、アンタなんて知らないんだけど。
ホント、お願いだから放して。触らないで。一人にして。
蹴っ飛ばしてやりたいのに身体が動かない。立ってるのがやっと。
頭が痛い。身体が重い。耳が遠い。
なんか、視界まで、変。ぼんやりする。
気を抜いたら膝が折れちゃいそう。
「永野さんて、聞いてた話より随分大人しいんだねぇ。ねぇ、どうよ?」
そんなに顔寄せないで。気持ち悪い。吐きそう。
嫌。イヤ。気持ち悪い。嫌。嫌だってば。
「決められないんなら、俺が決めちゃうよ?」
何? 何言ってるの?
そんなに引っ張らないでよ。痛いってば。
嫌だって言ってるでしょ? そっちには行きたくない。
アナタ誰? なんで私に構うの?
なんで馴れ馴れしくするの? なんで私と肩組んでるの?
すごく嫌な気分。
なんか、気持ち悪い。私に触れないで。吐きそうになる。
頭が痛い。割れそう……。
私を放っておいて。休ませて。
嫌。吐きそう。気持ちが悪い。クラクラする。
この人が側にいると、不快感が倍増する。
ちょっと、何?
そんなに押さないで。
ヤダ。やめて。嫌だってば。
何? 嫌。 何するの? どこ行くの?
私をどこに連れてくの?
ちょっと!
そっちは嫌なの。痛いよ。
行きたくない言ってるでしょう?
嫌、嫌だってば。なんでやめてくれないの?
なんか、怖い。
怖い。コワイ。嫌。嫌。ヤダ。やめて。
頭が痛い。気持ち悪い。吐きそう。やめて、放して!
助けて! 誰か!
嫌、ヤダッ! 嫌、嫌、嫌、嫌、嫌ッ!!!
「香蓮!!!」
私を呼ぶ声。私の、よく知ってる声。
強引に組まれていた肩が解ける。
別の方向から強く引っ張られる。
不快な感覚が消えて行く。
目の前に、誰かの顔がある。私を覗き込んでる。
――あ…さ……くら…?
なんでそんな顔してるの?
何かあったの?
すごく辛そう。――ううん、怒ってる?
暖かい手を肩に感じる。浅倉の手だ。
あぁ、ホッとする。
視界がおぼろげになって行く。だんだん闇に覆われて行く。
浅倉が私を見てる。
何か言ってる。
その瞳。すごく、優しい――
そこで、私の意識は完全に途絶えた。




