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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第8章 - 6/20
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side Karen - 27

披露宴会場は、2階分を吹き抜けにされた大広間のような場所だった。

基本的に立食式で、長方形の部屋の短い壁一面に料理が並び、長い壁には両方とも、椅子とテーブルが並べられていた。

部屋の中央には大きくスペースが取られ、その中の人だかりにはは鈴木さんと豊田さんがいるのが見える。

鈴木さんはゴールドベージュのタキシード、豊田さんは純白のウェディングドレス。みなが理想とする新郎新婦の姿そのものだ。


私たちは4人で、壁際に並べられたテーブル席の一角に座っている。

今日の主役2人には、さっき挨拶してきた。


「浅倉も永野さんもありがとう」

鈴木さんはとっても嬉しそうだった。

「河合君と武田さんも、手伝ってくれたんですって? 本当にごめんなさいね」

豊田さんは、この前サークルのときに見かけたときよりもずっと綺麗だ。

ウェディングドレスって、もともと女性を輝かせるものだけど、豊田さんの場合は眩しいくらいだ。

「受付を頼んだときには、こんなにたくさんの人が来てくれるとは思わなかったんだよ。実は、急遽、会場を変えたくらいなんだ」

鈴木さんは苦笑いしている。

へぇ、会場を変えたんだ。

でも、さすがと言えばさすがよね。みんなが『お祝いしたい』って集まってくるような人徳があるってことだもの、この2人に。


披露宴の進行は、幹事さんには頼まず、どうやら鈴木さん夫妻が自分たちでやることにしたらしかった。

いかにも鈴木さんらしい、お祝いに来てくれた人たちが楽しめるようなイベントがいろいろと用意されていた。

イベントとイベントの間には歓談タイムが設けられていて、ちゃんとそれまでにお料理コーナーには暖かい食べ物や冷たい飲み物が用意されている。

次のイベントは、鈴木さんとその同期仲間によるバンドライブらしい。

その準備が終わるまで、また歓談タイム。


人が多く、活気があることもあって、会場は少し暑いくらいだ。

ノースリーブのドレスで、ちょうどよかったかも。

でも、なんか、喉が渇いちゃった。

「私、ちょっと飲み物取って来るね」

「オレが行こうか?」

浅倉がそう言ってくれたけど、私はそれを制した。

私は席を立ち、お料理の置かれている場所へ向かった。その一角にドリンクコーナーがある。

ソフトドリンクはテーブルに置いてあるのを勝手に持って行ってよくて、アルコールはスタッフに頼んでその都度作ってもらう。

私がお料理の置かれているテーブルに近づいたとき、誰かに肩を軽くぶつけられてよろけてしまった。

「すみません」

すぐに、相手に謝られた。

「いいえ。そちらも大丈夫ですか?」

私が聞くと、相手の目が、私を捉えて驚いたように見開いた。そしてすぐ、キッと私を睨みつけて去っていってしまう。

えっと。今のって……会社の受付の、田中さん、だっけ。

前に浅倉にお茶持ってきてた子。

そうか、受付って総務部所属になるから、豊田さんの後輩に当たるんだ。

それにしても、怖いなぁ。睨まなくてもいいじゃない。

浅倉に冷たくされたのは、私のせいってわけじゃないでしょうに。

――ま、気にしないでおこう。


歓談タイムの料理コーナー付近は特に人が多い。ソフトドリンクのあるテーブルは、私がいる側とは反対側の隅だ。

やっと着いたのに、あいにくウーロン茶が1つもなかった。ジュースもない。スタッフさんもいないから、きっと今、グラスを作りに行ってるんだろう。

みんな、考えることは同じかぁ。喉、渇くよね。

隅の方に1つだけ、オレンジジュースがあるのが目に入った。

ま、これでいいか。

私はそれを手に取る。

みんなのいる方へ戻ろうとしたとき、スピーカーから声がした。

「みんな、今日はありがとぉー!」

鈴木さんの声だ。

その声に会場全体が、うぉおおおと吼えた。その勢いに、思わず肩を竦めてしまう。

あ、バンド演奏、始まっちゃった。

オレンジジュースを誰にもぶつけないように、こぼさないように気をつけながら、私はじりじりと真由子たちのいる方へ移動する。

会場の中央に、ちょっとスペースができていて、その中にマイクを手にした鈴木さんの姿が見えた。その肩には、ギターも掛かっている。

ドラムが1人、ギターは鈴木さん以外に2人。あ、一人はベースかな? キーボードは豊田さんだ。

「今から何曲か歌います。って言っても、歌うのは俺たちじゃなくて、ここにいる誰か。クジ引くんで、指名された人はここに出て来て一緒に歌うこと! 俺たちを祝えー!」

鈴木さんが手に持った箱を掲げている。

もしかして、鈴木さんってば結構酔ってるのかしら? いつもならあんな口調しないのに。でも、演奏するから祝いの歌を歌えって、言ってることはメチャクチャだけどなんかおもしろいかも。


ドラムとベースがロールを鳴らし、鈴木さんがクジを引く。

再び大歓声。

「武田真由子ぉ!」

うわ、真由子、トップバッターじゃない。

真由子が人ごみを掻き分け、笑顔で鈴木さんのもとへ行く。

頬がほんのりと赤い。ちょっとアルコールが入ってるみたいだ。

真由子って歌が上手いんだよね。それに、見た目も可愛らしいし。こういう場にはちょうどいい、盛り上げ上手な子かも。

鈴木さんが真由子に何かささやき、真由子がうんうん、と頷く。

「鈴木さん、豊田さん、オメデトーございますっ! 武田真由子、力いっぱいお祝いしますーっ!」

真由子が叫び、曲の前奏が始まる。

会場が沸き上がる。


――のはいいんだけど。

困ったな、これ以上動けなくなっちゃった。


演奏が始まってから、中央のスペースに人が増えちゃったせいで、河合君と浅倉のいるテーブルに行くのに、人の壁ができてしまっていた。

飲み物も手に持ってるし、ドレスも着てるし、この人ごみを抜けるのはやめておこう。

私は、とりあえずこの曲が終わるまでその場で待つことにした。

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