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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第8章 - 6/20
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side Karen - 26

「浅倉様、永野様、大変お待たせいたしました」

ロビーのさらに奥から、正装した男性が大股歩きでやってきた。

「申し訳ありません。会場の方で慌しくしておりまして」そう前置きして、彼は続けた。「私、当館のチーフをしております荻野と申します。本日は受付をしてくださるとお聞きしております。よろしくお願いいたします」

落ち着いた、礼儀正しい物腰。忙しくても、目の前の相手にはそれを感じさせないって、さすが、プロだなぁ。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

私と浅倉も挨拶する。

「受付用のテーブルと椅子はこちらでご用意いたします。お2人分かれて2つの受付になさいますか? それとも、1つの受付にして、出欠と金銭管理とを手分けされますか?」

「あー、じゃあ、後者で」

浅倉が答える。

確かに、1人だと、出欠チェックとお金の受け渡しを同時にできる自信ないな。途中でわけがわからなくなっちゃいそう。

「承知いたしました。入り口側にございますクロークは、お客様皆様がお使いいただけますので、お荷物の多い方にはご案内くださいませ。他、何か必要なものはございますか?」

「筆記用具って貸していただけます?」

私が聞くと、荻野さんはにっこりした。

「もちろんございます。ボールペンでよろしいですか? では、テーブルと一緒に用意させます。また何か気づいたことがございましたら、スタッフにお申し付けくださいませ」

荻野さんは会釈して下がる。そして早速、歩いていた男性スタッフを数名呼んで、受付の席を用意してくれた。

浅倉と並んで座る。

真正面は式場の出入り口の扉。なんか変な感じ。

「じゃあ、お前、金管理やってくれよ」

浅倉はそう言いながら、私の目の前にレターケースくらいの大きさの箱を置いた。

「なぁに、これ?」

「お釣り用の千円札だって」

「あ……」

確かに、会費はちょっと半端な金額だったから、お釣り必要だよね。

言われるまで気づかなかった。さすが、鈴木さんだ。

「オレも全然気づかなかったんだけどな。鈴木さん、ちゃーんと用意してくれてんの。ホントあの人、よく気配りしてくれるよな」

浅倉は参加者リストを目の前に置き、眺めている。

「参加者リストもすげーんだよな。会社の人とそれ以外の人とでリストを分けてあって、しかも電話帳みたいにアイウエオ順でも紙変えてんの」

私の方へ見てみな、とリストをよこす。

リストはちゃんとパソコンで作られていて、見た瞬間に、鈴木さんらしさを感じた。

まず、文字の大きさや字体からしてわかりやすい。

リストの上部には、50音表の列がタグのように付けられていた。

それに、結構人数も多い? ざっと見積もっても、100人近く来るみたい。

「結構来るのね」

「だな。サクサク受付していかねーと、開演時間、おしちまう」

「みんな、ちょっと早めに来てくれるといいんだけど」


時計を見る。未だ18時前だ。そろそろ人が来始めてもいい頃。

そう思っていたら、出入り口の扉が開け放たれた。

「香蓮、浅倉君、来たよー」

そう言いながら入ってきたのは真由子。その後ろには河合君もいる。

真由子はたくさんのレイヤーが入ったミニスカートのワンピースだ。やっぱり可愛い。

河合君はオーソドックスなスーツ。見慣れてないから別人みたい。

そう言おうとして口を開けた瞬間、真由子の声がロビーに響いた。

「うわっ、香蓮、めちゃくちゃ綺麗!!」

ま、真由子っ! 声大きいから!!

クロークにいる会場のスタッフさんたちが、くすくす笑う。あぁ、恥ずかしい……。

「もしかして、僕たちが一番?」

「そう。でもなー、結構来んだよな。2人で受付して間に合うんかな」

「香蓮ー、下向かないでよぉ。見せて見せて?」

河合君と浅倉で会話し、私は真由子に懇願されてる。

きっと傍目から見たら変な光景だ。

「何人くらい来るの?」

「ざっと100人」

「ねぇ、香蓮ってばー」

「真由子、わかった、わかったってば」

「1人当たり36秒で受付処理? それは辛いでしょ」

「……普通、そーいう考え方しねーよ。正紀、お前、とことん理系だな」

「こっち向いて? うん、やっぱり香蓮、すっごく素敵」

「真由子、恥ずかしいから……」

「武田さん、僕たちも手伝おうか」

「受付の手伝い? いいわよ」

えぇっ?! 真由子、今の河合君と浅倉の会話、聞いてたの?!

私に向かってずっと話しかけてたから、聞いてないと思った。


式場のスタッフさんにお願いして、受付席をもう1セット作ってもらう。

結局、男性グループと女性グループに分かれて受付に座った。


結果的に、本当にそれでよかったと思う。

受付は18時を10分も過ぎると、あっという間に長蛇の列になってしまった。

それでも、あと5分で開演っていう時間には、なんとか全員にロビーの奥にある披露宴会場に入っていただくことができた。

「ありがとう、真由子。本当に助かった」

「ううん。なんんか私も楽しかった。なんか、面白いくらいに男女の列が分かれたね」

「そうだった?」

私はみんなから集めた会費と出欠名簿とを照会して、金額の確認をする。

あ、お釣りとして預かっているお金も差し引かなきゃ。

「うん。私たちの方は男性ばっかり。河合君と浅倉君の方には女性ばっかり並んでた」

「そうなの? 全然気づかなかった」

真由子、よくそんなの見てる余裕があるなぁ。

私は、お預かりするお金と、お釣りと、そればっかり気になっててそれどころじゃなかったのに。

「終わったか?」

浅倉と河合君が近づいてきた。ちょうど私もお金を数え終わったところだ。

「うん、ありがと」私は浅倉から、精算したお金を預かる。「あ、みんな、先に中入ってて? 私、お金を預かっていただかなくちゃ」

「うん、じゃあそうするね」

私は、お釣りとして鈴木さんが用意してくれた分と会費の分を別々の封筒に入れて、クロークのところに立っていらした荻野さんのところへ行く。

「これ、よろしくお願いいたします」

「承知いたしました。金庫にてお預かりいたします」

ふぅ、ようやく終わった。

今日は楽しませていただこう。

「あの、永野様」荻野さんが小声でささやく。「浅倉様が、お待ちでいらっしゃいますよ?」

「え?」

振り返ると、ロビーの奥の方、披露宴会場へ向かう通路の手前で、浅倉がこちらを見ていた。

そんな睨まなくってもいいじゃない。だいたい、私、先に行っててって言ったのに。

私は荻野さんに会釈し、小走りで浅倉の方へ向かった。

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