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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第8章 - 6/20
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side Karen - 25

昨日まで降っていた雨が嘘みたい。

やっぱり、日ごろの行いがいい人の門出は、神様も祝ってくれるのかな。

梅雨真っ只中にもかかわらず、6月20日、鈴木さんの結婚式当日は、誰もが驚くほどの快晴になった。

未だ17時過ぎだけど、夏至と数日しか変わらないから日は長い。


私は、式場の最寄の駅で電車を降りた。

気のせいか、さっきから周囲の注目を浴びてる気がする。

私、変、かな。

ちゃんと翔に全部やってもらったんだけど。

この前翔と一緒に買いに行ったドレスとネックレス、アクセサリー。ストッキングはちょっとラメが入ったものを選んで、シルバーのピンヒールのサンダル。

それと、腕には同じくシルバーのスパンコール・バッグと薄手のジャケット。

ノースリーブのドレスだけじゃ帰る時間には寒くなっちゃうと思って持ってきた。


そうそう。メイクアップとヘアスタイリングは、わざわざ翔の働く美容院にまで行ったよ。

だって翔が勝手に予約入れちゃうんだもん。

確かに、やってくれるって言ってたけど、てっきりこの前みたいに家でやってくれるんだと思ってたのに。

メイクは翔の同僚の女の子がやってくれた。翔はヘアアレンジ担当。

「本当だ。永野君のお姉さんて、メイクのしがいがありそうですね」

へー。翔って、職場では『永野君』って呼ばれてるんだ。

「だろ? あ、香蓮、今日はちょっと巻くから。パーマじゃないから安心していいよ」

翔はそう言いながら私の髪を湿らせて、少量ずつ毛束を取り、クルクルと何かに巻き付けていく。

「どうします? キュート系? それとも、クール・ビューティ?」

「え? えーっと……」

それ、ニホンゴ?

私がうろたえていると、翔が勝手に答えた。

「香蓮、今日はちょっと可愛い感じにしてみようぜ。髪も巻くし、ドレス着てるしな」

「了解」

鏡の中、どんどん変わっていく自分の姿は本当に信じられなくて。

「はい、終わり」

と翔が言ったときには、呆然としていた。

なんかこの前翔にやってもらったときと、また全然違う。

髪の毛、こんなにふわふわになってるの、生まれて初めてだ。

それに、メイクって、こんなに変わるものなの?

「髪は、ハーフアップのアレンジにした。パーティだし華やかな感じにしといたから」

「メイクもそれに合わせて、ちょっとパール効かせてみたんですよ。素肌が綺麗だから、ファンデーションはすっごく薄く付けただけです。後は、アイラインとピンクベージュとブラウンのアイシャドウ、それにセパレートタイプのマスカラ。睫も長くてしっかりあるから、付け睫用意しておいたんですけど結局使うのやめちゃいました」

これは夢? 現実? ってゆーか、コレ、誰?

しばらく、鏡を見つめる。

「なんだかモデルさんみたいですね」

メイク担当の女の子が言った。

「これ、私?」

思わず口からこぼれてしまった言葉に、2人が笑い出す。

だって、まるで別人だよ。私がこんな女っぽいわけないじゃん。

いや確かに、私が動くと鏡の向こうの人も動くけど。

「そーだよ、香蓮。だから俺、いつも言ってるだろ? 香蓮は綺麗だって。それを活かせってさ」


そして、美容院の人たちに送り出された後、今、電車で駅に着いたところ。

相変わらず、周囲の目は気になるけど、もぉいいや。

ちゃんとプロの人たちがこれでよしって言ってくれたんだし、式場にさえ着けば、こんなみんなの目に晒されなくて済む。

そうよ、だから、早く行こう。


駅から式場までは、歩いて3分ほど。本当に近い。

ハウスウェディングの式場は、ヨーロッパを意識しているのか白い洋風の建物で、門から見える入り口の扉も大きかった。

うわ、ちょっと圧倒~。

門をくぐって入り口に近づくと、その脇にスタッフの方が待っていてくれた。

「永野様でいらっしゃいますか?」

「はい」

「浅倉様はもうおいでになっています。中へどうぞ。チーフより説明がありますので」

そう言って、扉を開けてくれる。

外が晴れているせいで、中が余計に暗く感じる。

中に入るとすぐ左手にクロークがあった。声をかけてくれたので、ジャケットを預かってもらう。

そのクロークの奥はロビーのようになっていて、ソファとテーブルが幾セットか置かれている。

そのソファに、見慣れた人影を見つけた。

いつもと違うのは、スーツを着てるところ。

この前の役員プレゼンのときにも思ったけど、スーツを着てる浅倉はなんだかホストみたいだ。

浅倉は、私の方を不思議そうな表情で見ている。

「浅倉、ごめんね。お待たせ」

私が近づいても、浅倉はその表情のまま動かない。

「浅倉? 聞いてる?」

「お前……」ようやく浅倉が口を開いた。「永野、か?」

失礼な。私は眉根を寄せた。

「私じゃなきゃ、誰だって言うのよ?」

「いや」浅倉が瞬きする。「いつもと、全然違うから」

浅倉でもわかんないなんて、やっぱり私、似合ってない?

「馬子にも衣装とか言いたいの?」

「そーじゃねーよ」

浅倉がようやくソファから立ち上がった。

それまで私が見下ろしていたのに、一気に見上げる形になる。私、ヒール履いてるのに。

やっぱり大きいんだ、浅倉。

浅倉が私に微笑みかけた。

「綺麗だ」


  どきん


まさか、そんなことを言われるとは思っていなくて。

心臓がひとつ大きく脈打ち、一瞬、息が止まる。

なんでコイツは、その表情でそんな恥ずかしいことを普通に言うかな。

いつもみたいに、冗談とか、軽い感じで返してよ。

私まで、恥ずかしくなるじゃない。

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