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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第8章 - 6/20
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side Daichi - 26

鈴木さんの披露宴当日は、本当に梅雨明けしてねーのかよって言いたくなるくらいの快晴だった。

まったく。オレの気持ちは全く晴れねぇっつーのに。


『翔』って男のことを武田に聞いてみたが、そんなヤツの存在は聞いてないそーだ。ショック受けた顔してた。なんか悪いことしたな。

武田も知らないなんて……マジで誰だよ、翔って。

手を繋いでいた二人の姿が思い出される。

あー、なんかイライラする。

オレは、ワイシャツの首に指をかけ、ネクタイを少し緩めた。

1.5次会とはいえ、会場が普通の結婚披露宴会場だっつーから一応スーツで来たんだけど、どうやら正解だったらしい。ハウスウェディング用の洋館は、気後れするほど異国風で、スタッフは皆タキシードを着ていた。

遅刻しないようにと早く家を出たせいで、永野との待ち合わせ時間よりも1時間近く前に会場に着いちまったオレは、とりあえず中に入らせてもらってエントランスに設置されていたソファに座っている。


そろそろ30分くらい経つか?

暇だ……。

永野、早く来ねーかな。

最近、多少化粧するようになったけど、相変わらず服はいつもジーパンなんだよな。

でも、さすがの永野も今日はドレスアップしてるはずだ。ワンピースとか着て来るだろ。どんな風に変わるのか楽しみだ。

あ。まさか、今、その姿であの翔ってヤツと会ってるんじゃねーだろうな……?

オレは再び自分の中に生まれかけたイライラを、なんとか押しとどめた。

大きくひとつ息をつく。

はぁ。一人でいると、どーも考えが悪い方に向いちまう気がする。オレって、こんなに嫉妬深かったか?

気を紛らわせたくて、オレは自分の脇に置いていた小箱を手に取った。

この小箱は、今日ここに来てから会場のスタッフを通じて鈴木さんから渡されたものだ。今日の参加者リストとお釣り用の千円札の束が入っているらしい。

エントランスの入り口を見た。未だ永野が来る様子はない。

少し迷ったが、オレは、小箱の中から今日の参加者リストを取り出した。

先に受付の段取りとか決めちまおう。

参加者リストは、ホチキスで右上を綴じてあるものが2部用意されていた。A4用紙で各20枚ほど。つっても、1枚1枚にぎっしり詰め込まれてるわけじゃない。かなり大きいサイズの明朝体で一人ひとりの名前とフリガナが書かれている。

リストの上部にはタグが付けられていた。どうやら、電話帳のように50音別、且つ、会社の人とそれ以外の人、という分け方でリストが作られているらしい。

はー……やっぱり鈴木さんは細かいところまで気が利く。

それにしても、けっこーな数が来るみてーだよな。

指でなぞりながら人数を数えてみる。

ざっと100人、ね。受付時間が1時間だろ?

――これって二人でやるには結構キツいんじゃねぇの?

頭の中で、オレと永野の役割をシミュレーションしてみる。

二人いるから、どっちかが出席確認やって、もう一人が金銭管理やればいいよな?

腕時計を見ると17時15分。そろそろ永野が来る頃だ。オレは参加者リストを折り畳むと箱の中に入れた。


ソファに再び身を沈めた時、エントランスの正面の扉が開いて誰かが入って来た。

逆光になってて誰なのかわからねーけど、シルエットからして多分女性だ。

扉が閉まりその女性の容姿がだんだんハッキリしてくる。

シルバーのサンダルから伸びる脚はすらりと長く、ドレスのスカートが膝から上を隠している。

薄く透け感のあるドレスは肌馴染みのいい色の布を幾重にも重ねたようなデザインで、胸の膨らみを囲むようにルーズにドレープが取られている。直接は見えなくても細い手足が身体のラインを却って想像させた。

ふわふわの巻き毛は、耳の後ろ辺りでいったん纏められた後で肩や背中に落ちている。

女性はクロークで何か話し始めた。ジャケットを預けるらしい。

額にかかっていた前髪を女性が片手で払い除けた。一瞬、横顔が見えた。かなりの美人だ。

今日の参加者の中に、あんな美人がいるのか。男どもに大人気だろうな。

そんなことを考えていると、その女性がオレの方を向いた。そして口を開く。

「浅倉、ごめんね。お待たせ」

え、オレ? なんでオレの名前を知ってる?

それとも、アサクラっていうスタッフでもいるのか?

女性がオレの座るソファーの方へまっすぐ近付いてきた。向こうは立っていてオレは座ってるから、ポジション的に当然見上げる形になる。

女性がまた口を開いた。

「浅倉? 聞いてる?」

これって、間違いなくオレに言ってるよな?

誰だっけ? 声は聞いたことあるんだよな……。

女性を見つめる。そして、気づいた。

もしかして……。

「お前……永野、か?」

オレの言葉に、その女性は険しい顔をした。

「私じゃなきゃ、誰だって言うのよ?」

「いや。いつもと、全然違うから」

慌てて否定しながら、ようやくオレは確信する。こんな言い方するヤツは、間違いなく永野しかいねー。

「馬子にも衣装とか言いたいの?」

「そーじゃねーよ」

挑戦的な目線をくれる永野に対抗すべく、オレはソファーから立ち上がった。


馬子にも衣装だ? とんでもねー。逆だ、逆。

魅力的過ぎて困るっつーの。着飾るとこんなに変わるもんなのか?

できれば、今のお前を他の誰の目にも触れさせたくねーよ。どっか、オレだけが知ってる場所に閉じ込めときたいくらいだっての。

ホント、お前の違う面を見るたびにどんどん惹かれちまう。これ以上オレを惚れさせてどーするつもりだ、お前は?


――なんて、そんなクサイことをオレがさらりと言えるわけもなく。

オレは肩の力を抜いてため息交じりの笑顔を永野に向けると言った。

素直なオレの気持ちを込めて。一言だけ。

「綺麗だ」

永野が目を見開き、一瞬動きが止まった。そしてすぐにオレから目を逸らせる。

そんな永野を見て、オレも急に恥ずかしさがこみ上げる。体温が一気に上昇した。

今更、言っちまったもんは取り消せねーんだけど。

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