side Karen - 24
もともと私は、女性らしさのカケラもなくて。
背だって、男性並みに高くて。
テニスをさせたら男性と肩を張り合えるほどで。
気も強いし負けず嫌いだし、可愛げなんてものも全然持ち合わせてなくて。
恋愛だって、ほとんどまともにしたことなくて。
このままずっと、一人でも平気だって思ってた。
でも、公私共に憧れていた先輩が結婚するとなると、ちょっとだけ寂しい気持ちが生まれたりする。
そして、とっても仲のいい2人を見ていると、生涯の伴侶って呼べる人がいるのって羨ましいな、とも思ったりもする。
週末。私はまたテニスサークルに参加している。
って言っても、私は、今日はのんびりと見学するだけにさせてもらった。
女性って、いろいろあるんだよね。
少し貧血気味だし、身体がだるい。
これが来週じゃなくてよかったって思っておこう。
休もうかなぁとも思ったんだけど、真由子が「香蓮が来ないなら私も休もうかなぁ」なんて言うんだもの。
今日は河合君も来れないって言ってたから、そうしたら、浅倉が一人になっちゃって、可哀想じゃない?
河合君は、今日、彼女さんの誕生日なんだって。だから誕生日デートするって言ってた。
河合君の彼女さんって、どんな人なんだろう。彼女さんの前でも、あんな風に、ゆったりとして落ち着いてるのかな。
そういえば、私ももうすぐ誕生日だ。
翔はどうするんだろう? 一緒にお祝いできるといいんだけど。
あ、翔は翔で、彼女とデートするかな。聞いておかなきゃ。
「疲れた」
浅倉だ。私の座っていたベンチの隣に、どかっと腰を下ろした。
「あれ? 真由子は一緒じゃないの?」
確かさっきまで、浅倉と真由子が一緒に組んで試合してたはず。
「武田さんなら、向こうの試合の審判頼まれて行っちまった」
「あ、ホントだ」
浅倉の示す先、高い椅子の上に、真由子がちょこんと座ってるのが見えた。
薄手の長袖ジャケットにお揃いのズボン、サンバイザー。日焼け対策はバッチリという格好。
今日は曇ってるから大丈夫だよって私は言ったけど、曇りの日こそ紫外線対策はしなきゃいけないんだって、逆に真由子に怒られちゃったんだよね。
「さすがに鈴木さんは今日、来てないね」
「結婚式、来週だろ? さすがに無理だろ」
私の言葉に、浅倉が言った。
結婚式まで1週間。怪我をしちゃいけないから、この週末、鈴木さんはサークルを休むって言ってた。
鈴木さんのいないテニスサークルは、やっぱり、雰囲気が違う。
鈴木さんの存在感の大きさを改めて感じる。
「そういえばさ、私たちって、何時に会場に着いてなきゃいけないのかな? 浅倉、知ってる?」
鈴木さんに受付を頼まれて以来、ほとんど何も聞いてない。
会費制の披露宴だから、来場予定者の出欠を取って、会費を集めて、それくらいしかやることはないと思う。
それでも、他の参加者よりは早く着いてないとばつが悪いものね。
「永野、鈴木さんから聞いてねぇの?」
「うん」
「鈴木さんがそーいう用件伝え忘れるなんて、実は結構テンパってんだな」
「浅倉に言えば伝わるって思ったんじゃない?」
「もしかしたらそうかもなぁ。あぁ、で、一応、17時半に来てくれってさ。開場が18時で開宴が19時だから、まぁそんなもんだろ」
「17時半、ね」
ダメだ、忘れそう。
私はバッグから手帳を取り出した。
滅多に見ない手帳だけど、書いたって記憶は残るだろうから書かないよりもマシだし。
見開きで1月の手帳。6月のページを開く。
6月20日の欄、『鈴木さんの結婚式』と書かれた上に『17:30集合』と書き込む。
逆算していくと……16時に家を出れば間に合うよね。
そうだ、翔にも言っておかないと。
また、メイクアップとヘアアレンジをしてくれるんだって。
一人じゃできそうにないから、せっかく言ってくれてるんだし頼むことにしている。
だから、翔に16時にはセットが終わるようにお願いしなきゃね。
「じゃあ、17時半に現地集合でいいよね?」
バッグに手帳をしまいながら浅倉に言う。
あれ? 返事がない。
顔を上げて浅倉を見た。
浅倉はぼーっとしていた。なんだか、焦点が合ってない感じ。
「浅倉?」
浅倉の目の前に、手をかざして上下に動かしてみる。
「ん? おぉ」
あ、やっと気づいた。
「聞いてた?」
「いや、すまん。なんだっけ?」
「17時半に現地集合でいいんだよね?」
「そうだな。それでいいんじゃね? あの式場、駅から近かっただろ?」
浅倉はそう言いながら、自分のバッグからペットボトルを取り出した。
蓋を開けて勢いよく飲んで行く。
そりゃ、試合した後だしお水欲しいよね。
あ、もしかして、真由子、水分補給せずに審判やってるのかな。
だとしたら、真由子も喉渇いてるはず。ペットボトル、持って行ってあげよう。
私は立ち上がって、真由子のバッグの上に乗っていたペットボトルを手に取る。
そこで、何か違和感を覚えた。
あれ?
浅倉って、いつも、私が飲んでるペットボトルを横取りしてなかった?
バッグの上に置いておいたのを勝手に飲んだりとか。
「ねぇ、浅倉」私は聞いてみた。「もしかして、浅倉って、いつも自分でもペットボトル持って来てるの?」
浅倉が、私の方を見て、口からペットボトルを外す。
「ん? 持ってきてるけど。それがどーかした?」
え? そーなの?!
いつも勝手に私のペットボトル飲むから、持って来てないんだと思ってたのに。
「じゃあ、なんでいつも私の飲むのよ?」
「……趣味?」
そんなこと、趣味にするなー!
最近ちょっと見直してたけど。
やっぱり、こいつ、ムカつく。




