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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第6章 - 6/11
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side Daichi - 24

オレは、バカだ。

今は、プレゼンのことだけ考えて集中してなきゃなんねーのに。他のことに気を取られるなんて。

――お前のせいだよ、永野。


永野は、相変わらず会議室の出入り口前で立っている。

グレーのパンツスーツに身を包み、髪は上半分だけを結って背中で垂らしている。

オレの代わりにプレゼンを続ける部長と、重役たちの方を向くその姿は、背筋が伸びていて、凛としていて、純粋に美しいと思った。



「浅倉君、ちょっといいか?」

重役プレゼンの会議が終わった直後、会議室の中でオレは部長に呼ばれた。

言われなくても、用件はだいたい想像がつく。

プレゼンの最中のミスの件だろう。

他ごとを考えていて質問を聞き逃して、答えられなくて、部長にフォローしてもらうなんて、前代未聞だ。

結果的にプレゼンに対する承認はもらえたけど、プロセスとしては最悪。

あんなにがんばって準備したのに。

まぁ、悪いのはオレだし。いいわけするつもりはねー。

オレが取れる責任なら、きちんと取らなきゃなんねーな。始末書でも報告書でも反省文でも何でも、書いてやるよ。

部長が会議室の隅の方へと誘導し、オレたちは壁の方を向いた。

「申し訳ありませんでした」

部長が切り出す前にオレは謝った。本当にそうするべきだと思ったから。

「君は、重役プレゼンは初めてだ、と言っていたね?」

「はい」

「初めての人間が緊張するのは当たり前だ。焦ることもあるだろう。僕から咎めるつもりはない」

オレが口を開きかけると部長はそれを制した。

「だがね。君が初めてであろうとそうでなかろうと、相手はそう見てくれない。それだけは覚えておくといい」部長はそこで一息ついた。「僕は一応、普段の君の仕事ぶりを見ていたつもりだ。だから、今日のプレゼンを君に任せたいと鈴木君が言ってきた時に、大丈夫だろうと思って承諾したんだが……ここ数日で、君は少し変わったね。最近の君からは、集中力がほとんど感じられない。期待していたんだが……残念に思うよ」

部長はそれだけ言うと、オレの方をぽんと力強く叩いた。そして、離れていく。

怒られる方がマシだった。

両脇に下ろした掌に爪が食い込んだ。強く。


足音が近づいてきたことに気づく。見ると、永野が手にフキンを持ったままオレの方へ歩いて来ていた。会議室の後片付けのとして机を拭いていたらしい。

「お疲れ様。無事に終わったね」

どうやら、オレと部長の会話は聞こえてなかったみてーだな。

「あぁ、一応な」

とは答えたものの、オレは自嘲気味に笑った。

全然『無事』じゃねーよ。

目の前に永野がいるのに、すぐ手の届く所にいるのに、オレの頭の中で永野とあの男がチラつく。手を繋いでいたところが鮮明に思い出される。

永野が他の男に奪われるなんて。

それを黙って見ているだけなんて。

嫌だ。

って、ダメじゃん、オレ。今、部長に釘を刺されたところだっつーの。

永野とオレがどうなろうと、仕事に手を抜いていい理由にはなんねー。

「大丈夫?」

「ん?」

永野はオレの事を心配してくれてるらしい。

最近のオレ、そんなに変か? この超鈍感な永野にまで心配されるなんて。

オレの顔を覗き込む永野は、髪を結っているせいで、額があらわになっていた。

その額にオレの印を残したのが、もう何年も前みてーに感じる。

「浅倉、なんか、変」

永野が言った。

もしお前がわかるくらい変なんだとしたら、それはお前のせいだよ、永野。お前が責任取りやがれ。

オレは、永野の額に軽くデコピンをかましてやった。

「痛ッ!」

永野は両手でおでこを押さえた。

まぁ、そんなに大袈裟にリアクションするほど痛くはないはずだ。突然で驚いたみてーだけど。

「ひっどい! 何?!」

永野が憤慨している。

その表情が面白くて、オレは堪え切れずに笑った。

「いや、なんかやってみたくなった」

「あのねぇ。それだけの理由で、デコピンする?」

「まぁいいじゃん」

なんだ、『それだけの理由じゃない』ってわかってんじゃねーか。

なんであともう一歩、想像力を働かせないかな。そしたら、オレの気持ちくらいすぐに推測できるだろ?

「さすがにちょっと疲れちまったからさ。笑ったら疲れが取れるかなって思って」

オレの口が適当な答えをこぼす。

「どうかしたのかい?」

鈴木さんがやってきた。その顔は晴れ晴れしていて嬉しそうだ。

「いえ、なんでもないっす」

オレは答えたが、永野は何か言いた気だ。

そのまま成り行きで3人で話す。途中からは、鈴木さんの惚気話だったが。


ちょっと前までは、すっげぇ鈴木さんを意識してたのにな、オレ。

鈴木さんのことが片付いたとたん、今度は、別の正体不明な男のことが気になり始めちまった。


2人で食事に行って以来、オレはさらに永野のことを好きになっちまった気がする。

そうじゃなくても、これ以上永野のことを好きになることはないって思ってたのに。それをあっさりと覆された。

永野が簡単に触れさせるから。

お前が無防備にあんなことさせるから、こうやってオレが悩むんじゃねーか。

触れなきゃよかった。

そうすりゃ、あんなことしなかったはずだ。

いや、したかったのはオレなんだけどな。


オレは、このまま、お前の隣にいてもいいのか?

友達としてしか、いちゃいけねーのか?

堂々巡りなオレの思考。でも、帰着点はいつも同じだ。

永野のことが好きだということ。


鈴木さんと豊田さんみたいに、オレと永野が祝福されるような日が、いつか来るんだろうか。

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