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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第6章 - 6/11
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side Karen - 23

私が会議室に着いたときには、もう鈴木さんと浅倉がパソコンとプロジェクターの接続を完了させ、スライドショーの最終チェックをしていた。

私はフキンを持ってきて、役員の方々の座る机を拭く。そして、その1席1席に資料を置いていった。

後は、小さなペットボトルのお茶と、メモ用のボールペン。

最後に、もう一度椅子と資料とお茶とボールペンの数を数える。

よし、ばっちり。

後は、役員の方々が来るのを待って、プレゼンが無事に終わるように、会議室の隅で祈るだけだ。


今日の私は、いつものジーパンじゃない。グレーのパンツスーツだ。

役員さんの前に立つから、今日はフォーマルな格好にした。

髪は翔がごくごくシンプルなハーフアップって言う髪型にしてくれてる。就職活動してたときと同じ髪型だ。

昨夜、家で、明日は役員プレゼンがあるって話をしたら、今朝、翔が結ってくれたんだ。


振り返ると、椅子に座ったまま難しい顔をしている浅倉が目に入った。

そっと側に寄る。

「浅倉?」

「ん?」

浅倉が私に笑顔を向けてくれた。そんな余裕ないはずなのに。

「がんばって。真由子もさっき、がんばれって言ってた」

「おぉ、サンキュ。――さすがに緊張するな」

「浅倉は初めてだからなぁ」鈴木さんもやってきた。さすが、余裕の笑顔。「ま、打ち合わせ通りにやれれば大丈夫だよ」

「はい」

そこへ、部長と課長もやってきた。それぞれ、下座席へと腰を下ろす。

一気に部屋の中が緊張した空気になる。


「さ、そろそろ時間だから、永野さん、お迎え頼むね」

部長が落ち着いた声で言い、私は会議室の出入り口の扉を開け放ち、廊下に出た。

いらっしゃる役員方をお出迎えするためだ。

しばらくして、役員の方々が次々と会議室へとやってきた。

私は一人一人に会釈をしながら会議室の中へと促す。

最後の一人がいらした後、私は会議室の扉を静かに閉めた。




――終わった。

ようやく。

息が詰まるかと思った。

はぁ。酸素が美味しい。


何度やっても慣れない、役員プレゼン。

今回は、まぁ、結果オーライだと思う。

途中で、浅倉が詰まってしまったけど、部長と鈴木さんが上手くフォローしてくれたし。

浅倉は、初めて役員さんの前でプレゼンするのに、あれだけできたんだから十分だと思う。


私は役員さんたちが去った後、また机を拭き上げながらちらりと会議室の隅を窺った。

部長と浅倉が、何か話している。あいにく、私の位置からは2人の顔がちょうど見えない角度だから、何を話してるのかわからないけど。

多分、ねぎらいの言葉を貰ってるんだろう。

鈴木さんは鈴木さんで、課長と一緒に資料を見ながら話していた。

途切れ途切れに『CM』とか『写真』とかいう単語が聞こえてくるから、これから広告を打つための業者様を選定する話をしてるんだと思う。

部長が会議室から出て行くのが目の隅に映る。浅倉の方を見ると、一人ため息をついていた。

「お疲れ様」私は浅倉の方へ寄って行く。「無事に終わったね」

「あぁ、一応な」

浅倉は笑顔だったけれど、なにか他の苦いものが混じっているように見えた。

何、その表情? プレゼン、上手く行ったんじゃないの?

役員さんからはゴーサイン出てたよね?

なんか変だよ、浅倉。

「大丈夫?」

思わずそう声をかけてしまった。

「ん?」

「浅倉、なんか、変」

そう言ったとたん、いきなりデコピンを喰らった。

「痛ッ!」とっさに両手でおでこを押さえる。「ひっどい! 何?!」

こっちは心配してやってるのに!

普通、いきなりそういうことする?!

無言で憤慨する私を見て、浅倉が肩を揺らして笑う。

「いや、なんかやってみたくなった」

「あのねぇ。それだけの理由で、デコピンする?」

「まぁいいじゃん。さすがにちょっと疲れちまったからさ。笑ったら疲れが取れるかなって思って」

それで、私にデコピン……。

全っ然意味わかんないっ!

「どうかしたのかい?」

鈴木さんがやってきた。いつの間にか課長もいなくなってる。

「いえ、なんでもないっす」

剥れる私とは対照的に、浅倉が笑いながら言った。

「浅倉も永野さんもお疲れ様。おかげで役員さん方の承認も降りたし、無事に売り出せそうだよ」鈴木さんは最後にとっても嬉しそうに笑った。「これで、安心してオレも結婚式を迎えられる。今日のプレゼンが上手くいかなかったら、きっと志保に叱られてたよ。『結婚式があるからって仕事を疎かにしちゃだめでしょ!』ってね」

そうか。鈴木さんの結婚式まで、もう10日を切ってるんだ。

役員が相手じゃ仕方ないとはいえ、そんな時期まで仕事に手を抜かないだなんて、鈴木さんって本当にすごい。それをサポートできる豊田さんも尊敬する。

「豊田さんって怒るんスか?」

浅倉が目を丸くしている。

確かに。あの豊田さんが怒る? 想像できない……。

いっつもコロコロと微笑んでいて、たおやかで、『淑女』っていう言葉がぴったりだもん。

「そりゃ怒るよ。怒ると怖いんだ、志保は」

そうは言いながらも、鈴木さんは目尻が下がりっぱなしだ。

よっぽど嬉しいんだ。今日のことも、無事に結婚式を迎えられそうなことも。


そりゃ、そうだよね。

好きな人と、結婚できるんだもの。


――好きな人、かぁ。

私には、縁のない話だ。

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