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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第6章 - 6/11
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side Karen - 22

「ねぇ、香蓮。最近、ちょっとお化粧してる?」

「あ、うん。わかる?」

「うん。すっごい似合ってる。実は前から言おうと思ってたんだけど、タイミング掴めなくって」

一緒にいるのは真由子。そしてここは会社の休憩室。

今日は真由子のいる経理部のフロアの休憩室だ。

さっき書類を届けに経理部に来た後、真由子が「香蓮、ちょっと休憩しよ?」って誘ってくれて、そのまま2人で休憩室に来ている。


翔との買い物は、もう数日前の話。とぉっても疲れたけど、なんとか無事に終わった。


翔のツレさんが営んでるアクセサリー屋さんって言うのは、素敵なお店だった。

男性向けのハードなものから女性向けの可愛らしいものまでいろいろ揃っていた。1点1点手作りしているらしい。

私はそこでまたあのドレスを着せられ、靴やバッグまで身に付けた上で、その格好に似合うアクセサリーを選んでもらった。

パールを基調とした3連のロングネックレスと、同じタイプのイヤリング。

デザインも凝っていて、イヤリングもネックレスもアシンメトリー。でも不思議とトータルで見るとバランスがいい。


あんな、丸1日かけてコーディネートを完成させるなんて、今まで一度もしたことがなくて、私にとっては新鮮な体験だった。

なんかね。オシャレするのも楽しいかもって思えたし。

お化粧したりとか、アレンジで髪型を変えたりとかって、女性ならではだもんね。

帰りの電車でそんなことを話していたら、翔がそれならまずは化粧から勉強しろって言い出して。

翔の持っているお化粧道具を少し譲ってくれて、さらに使い方も教えてもらった。


そんなワケで、私は今週に入ってから、少しだけお化粧をし始めた。

ファンデーションとアイシャドーとチーク、そしてグロス。

自分でやるのは全然慣れてないから、すっごく薄くしか施してないけど。

翔はもっといろいろと教えたそうな感じだったけど、これ以上は朝の時間帯に余裕がなくなっちゃいそうだし、私が覚えられそうになかったから、遠慮させてもらった。

それでも真由子が気づいたって事は、ちょっとは印象が変わったのかな。


「やっぱり、香蓮は綺麗系なのね。お化粧したらきっと綺麗だろうなぁってずっと思ってたのよ? 今日はスーツ着てるけど、ワンピースとか着せたいー」

「ま、真由子……恥ずかしいからあんまりそういうことは大きな声で言わないで?」

真由子がにっこり笑って頷いてくれた。

「ごめんね。本当に、綺麗だなって思ったから。マーケティング企画部のみんな、ビックリしてるでしょ?」

「どうなんだろ? 化粧って言ってもたいしてしてないし、中身は前のまんまだもん」

まぁ確かに、今まで全然会社にお化粧して出てきたことなんてなかったから、初めは驚いただろうけど……。

そこでふっと思い出した。月曜日の朝の浅倉。

私を見るなり、一瞬だけ眉をひそめた気がする。すぐにいつもの浅倉に戻ったけど。

アイツなりに驚いてたのかも。

「そうそう、浅倉君。なんだか最近、ちょっと変じゃなぁい?」

急に真由子が浅倉の話を出す。

ちょうど浅倉のことを考えていたところだったから、私は持っていたコーヒーを落としそうになってしまった。

「そ、そぉ?」

隣で仕事してるけど、特にそんな感じは受けなかったな。

「うーん……なんとなくなんだけどね。ほら、お昼休みに会うでしょ? でも最近、話してても上の空って感じのときがよくあるから」

「そういえば、そうかも」

よく、『あ、ごめん、聞いてなかった』って言ってる気がする。

「でしょう? でも、理由がわかんなくって」


浅倉、先週はずっと機嫌よかったから、そんなことあんまり気に留めてなかった。

もしかして、役員プレゼンが近付いてきてたから落ち着かないのかな。

まぁそうだよね。私たちも入社5年目で中堅にさしかかってるとは言え、浅倉はマーケティング企画部に異動してきて未だ2ヶ月半も経ってないんだもんね。

だとしたら、今日で終わりのはず。役員プレゼンは今日の夕方からだし。

そうだ、そろそろ準備にとりかからなきゃ。

部署に戻ったら、浅倉に声かけてあげよう。私、浅倉のOJT担当でもあるんだし。


「多分、今日、鈴木さんと一緒に役員プレゼンするからじゃないかな。だから、落ち着かないんだよ」

そう心配気な表情を浮かべる真由子に言いながら、私は胸にツキンという痛みを感じた。

真由子は可愛くて、よく気が利いて。

いつも面と向かってる私よりも、浅倉の変化に早く気づいて。

すごいなって思う。

心からそう思ってるのに、なんだろう、このスッキリしない感じは。

「そういえば、お昼休みにそんなこと言ってたよね」

「じゃあ、そろそろ戻るね。私もプレゼンを手伝わなきゃいけないんだ」

私は立ち上がった。

「そっか。がんばってね」

「ありがと。浅倉にも伝えとくね」


休憩室を出て、私はため息をついた。

はぁ。ダメだな、私。精神面のケアもOJT担当の仕事なのに。

真由子はきっと、浅倉のことを私に気づかせたくて休憩に誘ったんだ。

なんか、落ち込む。


マーケティング企画部のあるフロアに着き、席に向かって歩いているとちょうど向かいから浅倉がやって来た。

今日はさすがにスーツを着てネクタイをしていて、なんだか別人みたいだ。

廊下ですれ違う女子社員達が、頬を染めてちらちらと浅倉を見てる。これに本人が気づいてないのが不思議だ。

「おぉ、永野、探してたんだ。そろそろ会議の準備するぞ」

「あ、ごめんね。鈴木さんは?」

「もう行っちまったよ」

「わかった。浅倉、先行っててもらえる? 私もすぐ行くから」

資料はもう必要部数印刷してあるし、乱丁や落丁がないかどうかも確認してある。

ノートパソコンとスライドショーの方は浅倉が用意しているし、あとは、会議室にあるプロジェクターと飲み物の手配だけ。

私は小走りで席に戻ると、紙の資料を抱えて会議室へと急いだ。

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