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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第5章 - 6/07
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side Karen - 20

「終わり?」

翔が道具をケースの中にしまい始めたのを見て、私は聞いてみた。

「うん。化粧はね。はい、鏡。見てみ?」

翔が大きな手鏡を渡してくれた。

化粧は、っていう言葉に一瞬引っかかったけど、まずは鏡だ。

覗き込むと、初めて見る自分がそこにいた。

「うわ……」

思わず声が出てしまう。

「どーよ?」

いつの間にか、翔は私の後ろに回っていて、今度は髪に櫛を通し始めた。

「すごい」

としか言いようがない。

自分の化粧している顔は見慣れていないはずなのに、ケバケバしく見えない。すごく自然で、でも顔全体の印象がはっきりした気がする。女性らしい感じになった。

「だろ? まぁ、オレはメイクよりもヘアの方が得意だけど、これくらいならできんだよ。

香蓮って素肌が綺麗だよな。普段全然化粧しないけど、その分変に肌をいじってないからかね? 薄ーくファンデーション塗って、ペンシルでアイライン入れて、ベージュのアイシャドーとコーラルピンクのチークを塗っただけ。唇ははリップグロスな。本当はマスカラもやりたかったけど、ビューラーのゴムがダメになっちゃってたから、それはまた今度ってコトで」

説明しながらも、翔は慣れた手つきで私の髪をまとめていく。

「はい、できた」

翔が私の両肩をポンと叩いた。

手鏡じゃ見難い。私はリビングの隅に置いてある姿見の前に移動した。

鏡の中の私は、またさっきとは違って見えた。

「ホレ、今日の服に似合うだろ?」

私の髪は、顔の周りと襟足に少しだけ束を残して、それ以外の髪は全部左耳の後ろあたりでルーズに束ねられていた。それをふんわりとお団子にしてシュシュで結って、飛び出した毛先は扇のように散らされている。

確かに、翔の言うとおり、今日の服に似合っている。けど。

「香蓮? どうした?」

動かない私を見て心配したのか、翔が隣に立つ。

「なんか、私じゃないみたい」

正直な感想だった。

「そうか? 俺は香蓮らしいと思うけど。香蓮はそこらのヤツよりもずっと美人だと思うぜ? だから、ちゃんとそれを活かさないと」

「……」

「大丈夫、似合ってるから。さ、今度こそ行くぞ」



お化粧やヘアアレンジしたのって、多分、就職活動していたとき以来だ。

あのときも翔がいろいろやってくれたっけ。練習を兼ねてとか言って。

なんだか久しぶりすぎて恥ずかしい。

すごく他人の目が気になる。


家を出てしばらくは、自分では見えない、自分の外見が気になって仕方がなかったけど、渋谷に着いたらすぐにそれどころじゃなくなった。

翔とのお買い物は、私の想像していたよりもずっと大変だったから。


翔ってば、お店、何軒回れば気が済むワケ?!


お店に入って、ドレスを見て、目ぼしいものを絞り込んで、何着か試着。

そのたびに、店員さんの「よくお似合いですよ」「お綺麗です」攻撃。

翔はそれを適当に受け流して、何も買わずに店を出る。

その鮮やかな手腕に、我が弟ながら感心する。

「翔、何軒見る気?」

何回かそのローテーションを繰り返した後、私は聞いてみた。未だ午前中なのに、早くもげっそりしてるよ、私。

「なーんか、しっくりこないんだよな。やっぱり香蓮は可愛い系じゃダメなんだな。今度は綺麗系のブランドに行ってみるか」

「まだ行くの?」

「当たり前だろ? 次はここの4階な」

「もうすぐお昼だよ?」

「そんなん後々。どのみち、この時間帯じゃ、どこも混んでて入れないだろうし」

えー! 私、もぉ疲れたよー……。

翔に頼めば早く終わるかなって思ったのに。もしかして、失敗だったかも。


そんな調子だから、手早くなんて決まるわけがない。

もうすぐ2時になるという頃に、やっと翔はカフェで遅めの昼食を取ることを許してくれた。

「お腹空いたー。死んじゃいそう」

注文したものを待ちながら私はお腹を押さえて机の上に突っ伏した。そうしてないと、お腹が鳴っちゃいそうだ。

「ま、だいたい絞ったし、喰ったらもう一回見に行こうな」

憔悴しきった私とは対照的に、翔はにこやかだ。

「絞ったって……決まってないじゃん」

「そうでもねーよ? 俺の中では3着の内どれにしようかなって感じ」

いつの間に……。全然そんな素振り見せてなかったよね?

え、じゃあ、もしかして、もうちょっとで終わる?

――という私の期待は甘かった。

「ドレスが決まったら、次は靴だな。それと、アクセサリーだろ? 小物だろ?」

「え」

「香蓮、持ってないだろ?」

そりゃ、まぁ、持ってませんけど。

「ま、ドレスが決まれば、後はすぐだから」

「……はい」

ダメだ、翔がこの笑顔をしてるときは逆らわない方が身のためだ。

私の今までの経験がそう答えをはじき出す。

「そういや、披露宴って何時から?」

「確か夕方だったと思う。それまで、身内だけで結婚式とお食事会するんだって。披露宴って言っても1.5次会だし、ご親戚の方々は来ないみたい」

「そういや、そんなこと言ってたな」

「うん。あ、でも、私はちょっと早めに会場に行かないといけないんだ」

「なんで?」

「受付やることになっちゃってるの」

「香蓮、1人でか?」

「ううん、浅倉と」

「浅倉さんって、香蓮がよく『ムカつく』って言ってるヤツ?」

「そ。最近はそーでもないけどね」

「……へぇ」

翔はちょっと驚いたみたいだ。

私、浅倉のこと、そんなにムカつくって言ってたっけ?

まぁ、確かに前はよくムカついてたけど。でも、最近はそうでもない。

それよりも、浅倉のちょっとした気遣いや優しさに気づくことの方が多くなった気がする。

なんでか、よくわからないけど。

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