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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第5章 - 6/07
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side Daichi - 22

「ただのお節介……かな」

「何でそんなお節介焼くんだよ?」

「永野さんって、すごく綺麗だよね。全然お洒落しないからほとんどの人が気付いてないみたいだけど。でも、いつも首の後ろで結ってる髪を下して、きちんとお化粧したら、周りが放っておかないだろうね」

何が言いたいんだ、コイツは。

正紀は自分のコーヒーを一口啜る。ソファから身をかがめてコーヒーカップをローテーブルに置き、オレを見上げた。その顔からは、いつもの微笑みが消えていた。

「ねぇ、浅倉。もしも僕が『永野さんのことが好きだ』って言ったら、どうする?」


オレは、自分の中で熱がスゥと冷めるのを感じた。

一切の雑音が消える。

永野のことを好き? 正紀が?

すごく冷静に正紀を見つめた。正紀もそのままの表情でオレを見つめ返す。


どのくらい、そうしていたか。

「なーんてね」正紀がまたにっこりする。「冗談だよ」

オレは正紀を見つめ続けた。

「そんな怖い顔しないでよ。僕には紗織がいるの、知ってるだろ?」

正紀のことばに、オレはようやく肩の力を抜いた。

いつの間にか、息を止めてた。


そして、あることに気づく。

そうか。オレ以外にも永野のことを好きなヤツがいるかもしれねーんだ。

いつまでも永野が一人でいるわけじゃねーんだ。

っつーか、今、永野ってフリーなのか?

永野の男関係ってどーなんだ? そういや知らねぇんだけど。鈴木さんじゃねぇってことはわかったけど。

アイツ、その手の話題は全然出さねぇし。こんなに長い時間一緒にいるのにな。

まさか、男、いねぇよな?

もし、いたら。そしたら、オレはどうする?

どうしたらいい?



コーヒーを飲み終わると、店を出て正紀と2人で大通り沿いを歩いた。

正紀が、本屋に行きたいっつったから、そちらの方へ向かう。どうやら専門書が欲しいらしい。

専門書を扱ってるような大きな本屋は、この先の大きな交差点を越えたところまで行かなきゃなんねーんだよな。

何が悲しくて男2人で肩並べてなきゃいけねーんだ。永野と歩いてる方がずっと楽しい。

正紀と歩きながら、テニスのこととか仕事のこととか話したけど、どっかでずっと永野のことを考えてるオレがいた。

さっき、思いついちまったことが気がかりだった。

週末が明けたら、永野にそれとなく聞いてみよう。

いや、その前に武田かな……。アイツなら永野から何か聞いてるかもしんねーし。

交差点まであと少しっつーところで、歩行者信号が点滅し始めた。

「あーあ。間に合わなかったな。それとも、走るか?」

オレは、隣にいる正紀を見た。

正紀は横断歩道の方を見てはいたけど、信号よりも他のことに気を取られてるみたいだった。何かを目で追ってる。

ただ、その表情は、正紀にしては珍しいものだった。何事にも動じないコイツが、なんっつーか、驚いてる? オレの声にも気づいてねーな、こりゃ。

「正紀?」

「ん? あぁ、ごめん」

正紀がオレの方を向く。さっきの妙な表情は既に消えて、いつもの微笑みが戻っていた。

「どうかしたか?」

「ううん、どうもしないよ? あのさ、ちょっと欲しいCDがあったの思い出したんだ。先にそっち寄ってもいい?」

「ああ、別に構わねーよ?」

確か、少し戻ったところに大手のレコード屋がある。

「ごめんね」

正紀が方向を変えて歩き出した。横断歩道とは別の方向へ。


それにしても。

正紀のヤツ、何見たんだ? 明らかに驚いてたよな、いっつも余裕かましてるコイツが……。

止せばいいのに、オレは気になっちまって、さっき正紀が見ていた方に視線を送る。


信号の手前の雑踏の中、ひときわ目を引く一組のカップルがいた。男女とも背が高くて、芸能人かモデルみたいだと思った。

どうやら、男が女の手を引いて、急いで信号を渡って来たところらしい。2人の手は繋がれていた。

男の方はオレよりも少し背が低いくらいか? 女性が騒ぎそうな、美形男子特有の何かを醸し出していた。体つきも細くて、流行りのアイドルみたいだ。着ている服はデザインが奇抜だが、不思議とそいつに似合ってた。肩には紙袋。そこに描かれているロゴから、女の荷物を持ってやってるんだって想像するのは容易だった。

女の方は、下向いてるから顔がわかんねー。ふんわりした印象のトップスに脚のラインを強調するようなジーパン。長そうな髪を斜めに緩く結い上げていて、その毛先は散らされている。隣に立つ男よりは低いが、女性にしては背が高そうだ。

視線を感じたのか、男がオレの方を見た。


男と目が合う。

その男の刺すような瞳に、オレはたじろぐ。

――なんか、睨まれた?


男の脇で女が顔を上げた。笑顔で、男を小突きながら。

綺麗な顔立ちの女だ。オレは一瞬見惚れた。

そして。


永野……?!


反射的にオレは身を翻した。

数歩先に正紀の後ろ姿が見えた。その後を追いかける。


なんだ、なんだ、なんだ? なんだったんだ、今の?

今見た情景が目に焼き付いて離れねー。

あれは、永野だった。

確実に永野だった。

髪型はいつもと違ったし、多分、化粧だってしてたけど、あれは、永野だ。

オレがあいつを見間違えるわけねー。

じゃあ、隣にいた男は誰だ?

永野がアイツと手を繋いでた。

それに、あの永野の笑顔。明らかに、普通以上の人に見せる顔だ。

あの男は、永野にとって、特別なのか?


そっから先は、もうよく覚えてねー。

気がついた時には、オレは家にいて、酒を飲んでいた。

いくら飲んでも、全然酔えなかった。

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