表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第4章 - 5/29
40/92

side Daichi - 20

オレの予想は的中して、電車はかなり混んでいた。

都心からちょっと遠いところに住んでるヤツらにとっちゃ、この時間帯が終電だからな。

電車に乗り込むと、オレは永野をドアの脇の壁際に立たせた。

オレはそれに向かい合わせで立ち、ドアと壁の境目にあるスタンションポールを握った。

こうすれば、永野が他の人に潰されたりしないからな。

それにしても。

結構な至近距離。しかもオレ、酔ってる。

永野は、知ってか知らずか――いや、コイツのことだから絶対にわかってねーけど――さっきから上目遣いでオレのこと見てくるし。

それ、かなりキツイんですけど。

残った理性を総動員して耐えてるオレ、自分でもすげぇと思う。周りの人の目がなかったら、何をしでかすかわかったもんじゃねー。


永野が降りる駅に着くと、幸いにもオレたちがいる側のドアが開いた。

「じゃあ、おやすみ」

永野がそう言って電車を降りる。オレもその後に続いてホームに降りた。

オレの背中の後ろで、電車の扉が閉まった。

永野の表情が「え?」っつってる。ホント、わかりやすいなー、コイツ。

「ちょっ、浅倉!?」

永野の焦っているのがよくわかる。

「家まで送るっつったろ?」

オレは笑顔で言い、永野の背中を押して階段へ向かった。

「そんなのよかったのに。私の家、すぐそこだよ?」

押されるがままに歩きながらも、永野が反論する。

「そうは言ってももう夜遅いからな」

「だからって、なんで?」

なんでって……この状況で、普通聞くか? だいたい、もうすぐ1時だぞ?

「オレ、一応男だし。女が一人で歩くよか、安心だろ?」

あ、今はオレに送られる方が安心じゃないかもしれねーけど。まぁ、敢えてそれは言わなくていいか。

「そうじゃなくてっ!」

「『まぁいいじゃん。気にしない気にしない』」

未だ永野が何か言いたそうだったから、オレはさっきの永野の口真似をしてやった。

案の定、面白くなさそうな顔してやがる。ホント、わかりやすいのな。


他愛もないことを話しながら、永野と一緒に歩いた。

酔った身体に、夜風が気持ちいい。

時間も遅いから、そんなに大きな声じゃ話せねーけど、なんだかそんなどーでもいいことまで楽しい。

ずっと気になってたんだ、鈴木さんのこと。

オレの中で、ずっと重く圧し掛かってた。

でも、永野が鈴木さんのことを好きじゃないって断言した。

今はこうやってただの同僚として隣にいるけど、つまり、オレにもそれ以上になれる望みが出てきたってことだ。


10分ほどして、永野があるマンションの前で立ち止る。

「ここか?」

確かに駅から近い。オレはそのマンションを見上げた。結構いいトコに住んでるみてーだ。

「うん。ここの、303号室」

「へぇ。いいとこじゃん」

「送ってくれてありがと」

「いーえ。結局奢られちまったしな。せめてこれくらいはしねーと」

「奢るのは約束だったでしょ?」

「オレは奢られるつもりなかったんだよ。『奢れ』とは言ってねーだろ?」

「そーだっけ?」

「そーなの!」

「……」

「……」

なんとなく、会話が止まった。

このまま帰るべきなんだろうけど、なんとなく、足が動かない。

いや、違うよな。動きたくねーんだよな。

永野の隣が、心地よくて。永野の隣にいたくて。

「――電車、なくなっちゃうよ?」

永野が言った。

「あぁ、そうだな」

「駅まで、戻れる?」

「あぁ」

そう返事をしたときオレはふと気付いた。永野の左目の下のところに、ゴミ付いてら。

「あ、永野? ――ゴミついてる」

「ん?」

オレは手を伸ばして永野の顔に触れる。永野が目を瞑った。

化粧も何も施していない、素肌の頬。すごく、柔らかい。

一瞬、理性が飛んだ。


気がついたとき、オレは。

永野の額に一つ、唇を落としていた。


オレが頬から手を離すと、永野がゆっくりと目を開き、不思議そうな表情でオレの方を見た。

「それじゃ、おやすみ」

オレはとっさにそう言い、永野に背を向けた。

「あ、うん。おやすみ……」

背中越しに永野の声が聞こえた。

オレは逃げるように足早に来た道を歩き出した。――振り返れなかった。


多分、人生でこんなに早歩きしたことないってくらいのスピードで歩き続けた。

そして、角を曲がったところで今度はピタリと足が止まる。


オレ、今、何した!?


ふっとその瞬間を思い出し左手で口元を覆う。そのままオレは、力尽きたようにその場にしゃがみ込んだ。


あ、あぶねー!

なにしてんだ、オレ。


別れ際の、永野の表情が思い出された。

オレの事を見上げる澄んだ瞳。

一瞬で頬が熱くなる。っつーか、身体中が熱い。

オレは頭を抱えた。そうしてないと、気持ちが溢れちまいそうだった。


永野の隣にいたい。

永野と一緒に笑っていたい。

永野をずっと守っていきたい。


もう充分知ってたけど、改めて再自覚する。


――オレは、永野が好きだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ