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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第1章 - 5/24
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side Daichi - 4

「英児? 何してるの、こんなところで?」

不意に女性の声が聞こえてきた。

声のした方を見ると、ちょっと離れたフェンスの向こうに、こちらを見ている女性の姿があった。

「あ、志保」

鈴木さんの表情で、その女性が誰なのかすぐにわかる。

愛しのフィアンセってやつだ。確かに綺麗な人だ。お淑やかで。

永野も、化粧してドレスアップして、黙って控えめに笑って座ってたら、引けを取らないくらい美人なんだけどな。

永野には条件が厳しすぎるか……。

鈴木さんは、小走りでフェンスの方へ行ってしまった。

きっともう、オレたちのことなんか忘れちまってるんだろう。

「いや、浅倉と永野さんに、俺たちの披露宴の受付をお願いしてたんだ」

「そうだったの」

隣に立つ永野をそっと窺い見る。

永野は、鈴木さんと豊田さんの方を見つめたまま、無言で佇んでいる。

そりゃ、辛いよな。

好きなヤツが、自分じゃない人と結婚することになったってだけでも相当キツいだろうに、その仲睦まじい様子をまざまざと見せつけられてんだもんな。

自然と両の拳が硬くなる。

右手の中でラケットのグリップが軋んだ。

「――永野?」

オレは永野に声をかけた。永野は動かない。聞こえてないのか?

「おい、永野。行くぞ?」

永野の身体がびくんと揺れた。

「え? あ、ごめん。ぼーっとしてた」

照れ笑いにも見える永野の表情は、どこか悲しげで。

オレはとにかく永野を鈴木さんから遠ざけないと、という思いに駆られた。

「鈴木さん、オレたち行きますねー」

言いながら、オレは永野の両肩を持ち、回れ右させる。

「あぁ。それじゃあ、さっきの件頼むな」

背中を追ってきた鈴木さんの声に、オレは手を上げることで返事した。


永野がオレを見てくれたら。

どんなによかったか。

オレだったら、絶対、永野に辛い思いなんかさせねーのに。


正紀と武田の座るベンチへと、2人で戻る。

永野は無言だった。

こんなとき、なんて声かけていいのかわからない。

デリカシーとやらを持ち合わせていないのは、自分でも承知だ。

どうでもいい話題しか思いつかない自分に腹が立つ。

この沈黙がとてつもなく重いものに感じた。

それでも勇気を出して、声帯を震わせる。

「「あのさ」」

永野とオレ、同時に声を発してしまった。

「ごめん、何?」

永野がオレに聞く。

別にどうしても話したいことがあるわけじゃない。あの沈黙が嫌だっただけだ。

オレは、笑っている永野の方が好きだから。

「いいよ、オレは。お前が先に言えよ」

「じゃあ遠慮なく」

永野が一呼吸置く。

どんな言葉が出てきても、オレは驚いたりしないように心して構えた。

なのに。

「あのさ、浅倉って、身長いくつ?」

あいつの口から出てきた言葉は、オレの想定を遙かに上回っていて。

「は?」

オレは聞き返さずにはいられなかった。

「身長。聞こえなかった? し・ん・ちょ・う」

最後の1回は余分だ。

自分の表情が険しくなっていくのがわかる。

好きなヤツのあんなところ見せつけられて、お前がショックを受けてるだろうと思って、せっかく人が気を使ってやってんのに。

そりゃ、心配してくれって頼まれたわけじゃねーけどさ。

どんだけ鈍感なんだよコイツは!?

なんか、頭痛くなってきた……。

オレは皺だらけの眉間に左手を当て、呟いた。

「ったく、お前は……」

ホント、オレの気持ちなんてどーでもいいんだな。


「どうかした?」

何故か、下方からの視線を感じた。

なんだ? 下になんかいるのか?

見ると、永野がオレを覗き込むようにして見上げている。

その無防備な上目遣い、ヤメロっつーの。

いい加減にしねーと、襲うぞ。

もちろんそんなことできねーから、オレは左手で永野の顔を覆ってやった。

「ふぇっ?」

オレの片手だけで、両目の視界を奪えてしまう。

永野って、顔、小せぇんだな。

長い髪は柔らかいし、肌は信じられないほど滑らかで。

ふとした時に感じる、永野が女性であるという事実。

そしてそれに気づくたびに、オレは自分の気持ちを自覚する。

オレは、永野が好きだ。

「189」

オレは言い、手を離した。

これ以上触れていたら、オレが変になりそうだ。

永野が目をこする。その瞳がオレを捉えた。

「189センチ? でかッ!」

「悪いか?」

「いや、私が見上げなきゃいけない人って少ないから、どれくらいあるんだろうって思っただけだよ。浅倉もさっき何か言いかけてたよね? 何だった?」

今、それを聞くか。

「……もういい」

オレは永野から視線を外し、ベンチの方へと歩を進めた。

――ったく、このお嬢さんは……オレを煽るのがホント上手い。

これが、惚れた弱みって言うやつなのか?

でもさ、永野。

いつまでもオレの一方通行だとしたら、それって結構残酷じゃね?

それだったら、オレに一目惚れなんてさせてんじゃねーよ。

そう思ったら、何か仕返ししたくなった。永野にとっちゃ、ホント理不尽だろうけど。

「あ、そうだ」オレは立ち止って振り返る。「お前さ、女だって言い張るなら、ちょっとは化粧ぐらいしろよ」

永野の眉が攣り上がった。

「うるさいなぁ、アンタには関係ないでしょっ!」

同時にオレの背中は、バッシィィンといういい音を鳴らしていた。

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