表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第4章 - 5/29
39/92

side Daichi - 19

「ごめん、何の話?」

コイツ、本当にわかってねぇ……。

「何の話って……。お前、鈴木さんのこと、さ。その…す……」

ダメだ、言えねー。

永野が不思議そうな顔でオレを見る。

オレは目を合わせていられなくなって、自分の手元に視線を移した。

言え、オレ。

今聞けなかったら、きっと後悔する。


「す、好き…なんじゃ……ないのか?」


……。

オレは、静かに待った。どんな返事でも受け入れるつもりで。


――永野からの返事はない。


「違うのか?」

オレはもう一度聞いた。そっと永野を窺うと、呆けた顔でオレを繁々と眺めていた。

そして。

「えっと、ちょっと待った。何がどーなったら、そーなるの?」

ようやく永野の口から出て来た言葉がコレだ。

オレ、相当勇気出して聞いたんだけど。

「いや、別に、なんとなく……」

オレは再び永野から目を逸らす。


本当は『なんとなく』なんかじゃねーよ。

いつもお前を見てるからだよ。だから、お前が鈴木さんを目で追ってるのが嫌でも目に入んだよ。


永野がため息をつくのが聞こえた。

「違うよ。確かに、鈴木さんのこと、カッコイイと思うよ? 仕事もできて、優しくて、みんなに頼られて。憧れてるって言うのかなぁ? だけど、それだけ」

オレは永野を見た。永野はあっけらかんとしている。本気らしい。

「第一、鈴木さんには豊田さんがいるじゃん。あの2人はセットがいいの。豊田さんに惚れ切ってる鈴木さんがいいの」

「あっそ。……そう言うもん?」

「そーいうもんなの」

永野はそう断言すると、再び柚子水に口を付けた。


――オレの勇気を返せ。

でも。嬉しい。

オレは、にやけそうな顔をなんとか抑えつつ、話題を別に移した。



永野といるのが楽しくて、オレはときどき腕時計に目をやりつつも、時間のことを口に出せずにいた。

また時計を見る。12時前。さすがに、やばいよな。

永野を見ると、テーブルに肘を乗せ、頬杖をついてちょうどオレの方を見ていた。

あ、やべぇ。かわいい。

オレは慌てて目を逸らせた。

アルコールには強い方だけど、一応オレも酔ってるからな……。これ以上一緒にいると、オレ自身が何をするかわかんねー。

「そろそろ帰るか?」

オレの言葉に、永野が自分の腕時計を見てちょっと驚いた顔をした。全然時間を考えてなかったらしい。

「そうだね」

永野が身体を起こした。

「――すまん、ちょっと、行ってくる」

店を出る前に、オレはちょっと用を足しに席を立たせてもらうことにした。

今夜中に何回か行っていたから、場所はもう覚えていた。

店の中は、随分客が減っていた。それでも未だ3割くらいは席が埋まってそうだ。

繁盛してるんだな、この店。

料理の味も良かったし、酒の品揃えもオレ好みだったし。また来れたらいいと思う。

永野を待たせるわけにもいかないから、オレはすぐに済ませて席に戻った。

ちょうど永野が帰り支度を終えたところだったらしい。

「お待たせ。じゃあ、行くか」

「うん」

永野は開いていたバッグを閉じると立ち上がった。

オレは先に会計を済ませちまおうと思って、レジへと向かう。

財布を取り出してレジにいた店員に話しかけようとすると、背中をポンと叩かれた。

「浅倉、もう終わってるよ」

永野はそう言って店の出口へ向かう。

「は?」

オレは意味が分からずにその場で固まった。

レジの店員が申し訳なさそうに、小声でオレに告げる。

「あの、先ほど、あちらのお客様がお会計を済まされまして……」

はぁ?!

何勝手に支払いとかしてんだよ、永野のヤツ!!

っつーか、気を使わせないように相手がいない間に支払うとか、ベタな方法してんじゃねーよ。

そういうのって、普通、男がするもんだろ? とことん男前なヤツだなお前は!!

オレは店員に例を言うと、急いで永野の後を追った。永野は既に店を出ている。


店を出ると開口一番にオレは永野に詰め寄った。

「お前なぁ、勝手に支払とかしてんじゃねーよ」

「だって、奢るって約束だったじゃん」

たいして気にしている様子もなく、永野が平然と言う。

「だからってなぁ」オレはため息をつく以外にない。「いくらだった?」

「まぁいいじゃん。気にしない気にしない」

永野は笑顔でオレの肩をポンポンと叩くと、駅の方向へ歩き始めた。

お前はバカか!? 気にするわ!

好きな女に奢れられる男ってどうよ?

はぁ……。

顔を上げると、永野の背中が見えた。振り返りもせず、一人でのんびりと歩いて行く。その距離が広がっていくのが嫌で、オレは走って追いかけた。

追いつきざま、オレは永野の肩に腕を回す。

「じゃあ、せめて家まで送らせろ」

「そんなのいいって……」

永野が少し眉根を寄せた。そんな顔するなよ。

「また即断かよ。お前なぁ、ちょっとは学習しろって」

オレはそう言うと、組んでいた肩を外した。

やばい、やばい。オレ、ちょっと酔ってるな。いきなり肩組んだりして。

気づかれないように、隣を歩く永野を窺う。

よかった、特に機嫌を損ねたとかはないらしい。


永野がそれ以上何も言わなかったから、オレは勝手に永野を家まで送ることに決めた。

下心とかじゃなくて、ただ単に、深夜に永野を1人で歩かせるのが、すっげぇ嫌なだけだ。

週末だし、電車だって混んでるだろうし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ