side Daichi - 18
「ねぇねぇ、開発部ってどんな仕事してるの?」
永野が聞いてくる。
「オレはプログラマーだったからな。SEが作ったプログラムの設計図を見て、その通りにプログラムを書くのが仕事だったんだ。それが担当のSEによって設計図がわかりやすいとかわかりにくいとかあってさ、結構大変だったんだぜ?」
「文章が下手で、何を言いたいのかよくわからない、って感じ?」
「んー、まぁそんなもんだ」
さすがに、プログラム仕様書の話をしてもわかんねーもんな。
それよりも、今は、永野といることを楽しみたい。
「ふーん……。河合君も同じような仕事してたの?」
「あ、正紀はそのSEだよ。一緒のプロジェクトになったことはねーけど」
「河合君は、そういうの書くの上手そう」
「らしいな。正紀と同じチームだった他のプログラマーが言ってた」
「やっぱりねー。几帳面そうだもん」
「そうなんだよ。性格出るんだよな」
オレの言葉に相槌を打ちながらも、永野はサラダを口に運ぶ。
まったく。器用なヤツだ。
いつもと同じ自然体の永野。
2人っきりっていう状態に、内心緊張していたオレの気持ちが解れて行く。
そんな風に思いながら話をしていると、店員がまた新しい料理を持って来た。
入れ替わりで、空いた皿を永野が店員に渡す。
細っせぇ腕。
「お前、そんな腕でよくあんなに強いショットが打てるな」
もちろん、テニスの話だ。永野のテニスは上手すぎて、とてもじゃないが敵わない。
女性ならではの技巧ももちろんだが、パワーテニスもできるのがコイツの強みだ。
「私、結構、筋肉あるんだよねー」
そう言いながら、永野はテーブルの上に腕を伸ばした。
オレは、つい、その二の腕あたりを掴んでしまう。
やっぱり、細せぇ。もうちょっとで、オレの親指と中指が一周しちまう。
「細っせぇな。こんな細ぇのに、どこにあんな力があんだか」
「こないだ、電器屋さん行ったんだけどね。ほら、ああいうところって、健康グッズコーナーってあるじゃない。なんとなく、体脂肪率量ったんだよね」
永野が自分の腕を眺め、思い出しながらのように言う。
「おぉ」
「そしたらね、体脂肪率、15パーセントだった」
「マジで? それって男性並みじゃね?」
「そうなの?」
永野の目が丸くなった。
「一般的な成人女性は、20~24パーセントだって聞くけどな。男で10~15パーセント」
「そーなんだ」
「まぁ確かに、柔らかくはねーな」
オレは掴んでいた手で、永野の腕を揉んでみた。
女性独特の柔らかさってヤツはほとんど感じない。それでもオレは全然かまわねーんだけど。
「うるさいなぁ」
永野が慌てたように腕を引っ込めた。オレはつい笑ってしまう。
腕を掴まれた時点で気づけ。
「何よ?」
「いや、なんでもねーよ」
永野の目線が、オレの手元を捉えた。
「浅倉、まだ飲むでしょ?」
「ん? おぉ」
オレのグラスはほとんど空だ。
永野が暖簾から顔を外に出した。店員を呼んでるんだろう。
そんなん別に気を使わなくてもいいのに。
それよか、永野と話してたいのに。
っつーか、オレを酔わせたら自分自身が危なくなるかもしれないとか、全然考えてねーよな?
オレはメニューを開いて、さっさと自分の飲む酒を決めた。
「お前も、何か飲む?」
ソフトドリンクのページを開き、永野にメニューを渡す。
永野のウーロン茶も空になってるからな。飲めねーヤツは、やっぱりちょっと可哀想だ。
永野がメニューを見ながら考えている間に、店員が来てしまった。
とりあえず、オレは自分の酒を注文する。
店員はオレの注文をメモに取ると、永野の方を向いて待った。でも、永野は顔を上げない。
コイツ、もしかして気づいてねーとか?
「永野は?」
オレは声をかけた。永野が、え? という表情で顔を上げる。
やっぱり気づいてなかったな、コイツ。疲れてんのかな。
「あ、ごめん。じゃあ……この『柚子水』っていうの、お願いします」
永野が告げると、店員は笑顔で会釈して、暖簾の向こうへ消えた。
オレは永野を窺うように覗き込む。
「お前、大丈夫か? 疲れてんじゃね?」
「ううん、そんなことないよ。だいじょーぶ」
永野は笑顔で言った。
屈託のない笑顔だけど……、本当に無理してるんじゃねーだろうな?
「ならいいけど。お前、ただでさえ仕事が忙しそうだからな。いろんなヤツにいろんなこと頼まれてるだろ? オマケに、今度は鈴木さんの2次会受付まで」
「それは浅倉だって一緒じゃん」
「それは……」
オレが口を開きかけると、さっきの店員が飲み物を持って戻って来た。
オレたちの前にそれを置くと、再び暖簾の向こうへ消える。
永野は嬉しそうに柚子水のグラスに口を付けた。
オレが鈴木さんの2次会の受付を引き受けたのは、お前がやるって言うからだよ。
鈴木さんのことが好きなお前が、辛い思いするってわかってるのに、一人にしておけねーんだよ。
放っておけねーんだよ。
それくらい、わかれよ。
オレは、新しい酒を一口だけ飲むと、口を開いた。
「――お前さ、本当に、いいのか?」
「何が?」
永野がキョトンとした顔で聞く。
「いや、だから、鈴木さんのヤツ」
「え?」
「2次会の受付。本当にやるのか?」
「は?」
お前なぁ……いい加減、オレの言わんとすることくらい、気づけ!
「だから、大丈夫なのかって」
オレ自身がだんだんワケわからなくなってきた。




