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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第4章 - 5/29
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side Karen - 16

金曜日。今日は、朝から怒涛の如く時間が過ぎて行った。


浅倉は、昨夜、根性で紙面の資料も完成させたらしい。

完成させてから帰ると言い張る浅倉に、申し訳ないなぁとは思ったけど、昨日は帰らせてもらった。翔が早番で、夕食も早く作らなきゃいけなかったし。

そして今朝。

出社してすぐ、鈴木さんに呼ばれた。浅倉と一緒に。3人で打合せがしたいと言う。

内容はもちろん、プレゼンのこと。

最近、鈴木さんは早く帰宅する分早く出社していて、朝、皆が来る前に仕事を片付けているらしい。

鈴木さん、今朝は出社してからずっと、昨夜の内に浅倉が提出していたプレゼン用の資料を確認していたそうだ。

早速のフィードバック・ミーティング。

プレゼン資料は概ねOKをもらった。多少の修正は入ったけど、それは仕方ないと思う。いつものことだ。

それよりも何よりも、鈴木さんが一番注目したのは、浅倉の作ったスライドショーの完成度の高さ。

そりゃそうだよね。あんなにすごいもの作るとは、私も思わなかったもん。

そしてトントン拍子に話は進み、『経験のため』と言う理由で、浅倉も、来週の重役プレゼンに参加することになってしまった。

そしてさらに打合せを詰める。

プレゼンをどう進めるか。どのタイミングで何を言うか。それぞれの役割は。

私の役割は、裏方全部。

まぁ、重役プレゼンに関してだけ言うと、裏方が一番楽だ。

プロジェクターセットが完備されている会議室を予約して、紙の資料を人数分印刷して製本、必要に応じてお茶を出す。後は、会議前に机を拭いて、資料を席に置いて、終わり。

プレゼンをする側の方が、よっぽど大変だと思う。特に、精神的に。

役員クラスが、10名近く並ぶ中、プレゼンするんだもの。

私は、お金もらってもやりたくないわ。


打ち合わせが終わった後、簡単に会議室の机を拭き、椅子を揃えてから廊下に出る。

鈴木さんは次の会議があるとかで先に戻ってしまったけど、浅倉が手伝ってくれた。

「なんか、エライことになっちまったなぁ……」

隣で浅倉がぼやく。

「何言ってんの。浅倉が開発したプロジェクトなんでしょ? がんばって」

「開発したっつっても、中のプログラムの一部を書いただけだしなぁ」

浅倉は両腕を頭の後ろに組み、天井を仰いでいる。

まだ、実感が湧かないんだろうな。

「そりゃ、1人で1つのプロジェクト全部なんて、できるわけないじゃない。みんなで知恵を出し合って、ようやくお客さんに届くのよ?」

「そーなんだよなぁ。最近、ようやくそれがわかってきた」

「今頃? 遅くない?」

「しゃーねーだろ? ついこないだまで、パソコン相手に仕事してたからな。マーケティング企画部に来て、ようやく会社の中で仕事をしてるって思えるようになった」

そんなもんなんだ。

私はマーケティング企画部しか知らないから、開発部がどんな風に仕事をしてるのか知らないよ。

「――そういう話は、今夜、トコトンしよう」

「だな。っつーか、お前、仕事大丈夫なの?」

「うん、バッチリ」

昨日がんばったから、残りの仕事はあと少し。

夕方には終わるはず。

「そんじゃ、夕飯も大丈夫だな?」

「うん」

浅倉の念押しに、私は大きく頷いた。



「「かんぱーい」」

私たちは、お互いにジョッキを打ち付けた。

カチンと気持ちのいい音がする。

って言っても、私のジョッキの中身はウーロン茶。

お酒は、家の外では飲まないようにしてる。弱いからね。一緒に行く人に迷惑をかけちゃいけないから。

向かいに座った浅倉はもちろん生ビール。

早速口につけて飲んでる。喉仏が上下してるのが見える。


1時間ほど前。仕事を片付けた私たちは、17時には会社を出た。

そして、浅倉が前に『行ってみたいと思ってる』って言ってたお店に来ている。

一応飲み屋さんなんだけど、お料理の種類が豊富で、美味しいんだそうだ。

河合君に教えてもらったそうで、浅倉も初めて来るって言ってた。

私は飲めないから、お料理がきちんとあるお店は嬉しい。

私たちは、テーブル席に通された。周りを背の低い壁と暖簾で囲まれていて、なんだか個室みたい。

お店はかなり賑わっていて、よくこんな席に入れたなぁって思うくらいだ。


「失礼します。特製ぱりぱりサラダと出汁巻き卵になります」

しばらくして、頼んだお料理が少しずつ運ばれてきた。

確かに、どれもこれも美味しそう。

「おぉ、美味そうじゃん」

「食べよ食べよ。私、お腹空いてるんだー」

私はそう言いながら、取り箸を用意して、浅倉のと自分のお皿にお料理をある程度取り分けた。後は自分でやってもらおう。

「いただきまーす」

出汁巻き卵に大根おろしを乗せて、口へ運ぶ。

うん、美味しい。

ふんわりしてて、出汁が効いてる。鰹出汁かな?

やっぱり美味しいものを食べると、笑顔になっちゃうよね。

浅倉はそんな私を見て呆れ交じりの微笑みを浮かべ、そして自分も箸を取った。


そう言えば、浅倉と2人でこうやって食事するのって、随分久しぶりだ。

何年か前のクリスマスに、真由子に約束をドタキャンされて以来?

確か、そうだったはず。なんだか懐かしい。

「こうやって、会社以外で2人で会うのって、久しぶりだね」

「ん? あぁ、そうだな。どれくらいぶりだっけな?」

「んーと、真由子に彼氏ができたときだから……一昨年の冬、かな」

なぜか『クリスマス』って言葉を口にできなかった。

なんか、その言葉は、特別な感じに聞こえるから。

「じゃあ、あれから、もう1年半くらい経つのか?」

「そうなるね」

「早ぇもんだなー」

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