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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第3章 - 5/28
33/92

Side Story : side Masaki & Mayuko - 1

「あれ? 香蓮は?」

「浅倉と永野さんなら、今週は来れないってメールが来てたよ。月末処理に役員プレゼンの準備が重なっちゃって、忙しいみたいだね」

「ホント? 午前中は打合せがあって、メール確認できなかったから……。返信できなかった。悪いことしちゃったな」

「大丈夫だよ。それくらいで怒るような2人じゃないし」

「そうだけどね。まぁ、席戻ったら返信しておくわ。――あぁ、そうか。ってことは、今日のランチは私と河合君の2人っきり?」

「そうなるねぇ」

「ちょうどよかったかも。私、河合君に聞きたいことがあったのよね」

「武田さんが僕に? ちょっと怖いね」

「失礼ね」

「あはは、冗談だよ」

「本当かしら……。まぁいいわ」

「それで、何を聞きたいの?」

「浅倉君のコト」

「浅倉? 何かあったの?」

「ううん、そうじゃなくて。あの人、絶対に香蓮のこと好きよね?」

「――いきなり核心を突くんだね」

「まどろっこしいの、あんまり好きじゃないんだもの」

「うん、武田さんってそんな感じがする。見た目と本性にかなりギャップがあるんだよね。僕はそういうストレートな話し方する人、好きだけど」

「もしかして、話を逸らそうとしてる?」

「いや、そんなつもりはないんだけど」

「今は、私のことはどうでもいいの。ねぇ、どう思う?」

「うーん、僕も武田さんと同意見かな」

「やっぱり、河合君もそう思うわよね?」

「浅倉がハッキリとそう言ったわけじゃないけど、そう見えるよねぇ」

「そうなのよね。浅倉君の言動見てると明らかにそう思えるのよね。周りに女の子が群がってても完全に無視してるのに、香蓮にだけはちょっかい出してるんだもの。それに、いっつもいつの間にか香蓮の隣にいるし」

「あー、それは、僕のせいかもしれない」

「えぇ? それって、どういうこと?」

「あの2人のポジションが隣同士になるように、さり気なく誘導してるって言うか……」

「……」

「武田さん? どうかした?」

「――河合君って、いつもにこにこ清ました顔してるクセに、意外と侮れないのね」

「それはどうも。褒め言葉として受け取っておくよ」

「そうしておいて。問題は香蓮よね。あの子、浅倉君のコトどう思ってるのかしら?」

「武田さんは、あの2人にどうなって欲しいの?」

「そりゃあ、あんなに浅倉君が一途に想ってるんだもの。2人がお付き合いを始めたら素敵だなって思うわ。だけど、こうやって同期で過ごすのが楽しい分、余計に、もし2人の関係が拗れちゃうのは嫌だって思っちゃうのよね。だって、そうなったら、こうやって過ごすこともなくなっちゃうかもしれないでしょう?」

「そうだよねぇ。僕もそう思う。多分ね、浅倉も僕たちと同じ気持ちだから、何もアクションしないんだと思うよ。『できない』って言った方が正しいかな」

「……」

「僕が知る限り、もう3年は片想いしているはずだから」

「えぇっ? そんなに前から?」

「僕が気づいたのが、だけどね。もしかしたら、本当はもっと前から好きだったんじゃないかなぁ」

「私が気づいたのは、1年くらい前だよ……」

「そりゃ、僕と武田さんじゃ、浅倉と一緒に過ごしている時間が全然違うもの。僕は去年度まで同じ部署にいたから、本当に一日中一緒にいたようなものだし」

「……せめて、香蓮が浅倉君のことをどう思っているかがわかればね。でも、香蓮は、鈴木さんのことが好きみたいだからなぁ」

「うーん……どうだろうね」

「何? 河合君、何か知ってるの?」

「ううん、残念ながら、何も知らないよ」

「なんだ。じゃあ、そんな思わせぶりな返事しないでよ」

「ごめんごめん」

「はぁ」

「――でもね。実は、僕、あんまりあの2人のこと心配してないんだ」

「えっ? なんで?」

「あの2人、よく似てるもの」

「似てる? どの辺りが?」

「秘密」

「か・わ・い・君?」

「怖いなぁ。せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」

「そんな風に言ってもダメ。言ってくれるまで、引き下がらないんだから」

「まったく、武田さんには勝てないなぁ」

「いいから、教えなさいよ」

「わかったよ。だからそんなに凄まないで」

「……」

「これは、あくまでも僕の見解だよ? 僕の思い違いかもしれないし」

「うん」

「僕から見るとね、浅倉も永野さんも、2人とも相当鈍感なんだ」

「え?」

「まぁ、永野さんの方が圧倒的に上だけど。こんなこと言うのは気が引けるんだけど。永野さんって、異性関係について、救いようがないくらい鈍いじゃない」

「うん」

「ハッキリ言うなぁ」

「いいから続けて?」

「はいはい。多分ね、その鈍感なのって、自分に向けられている気持ちに対してだけじゃなくって、自分の気持ち自体に対しても当てはまるんじゃないかなぁ?」

「そう?」

「なんとなく、そう思うんだよね。一見すると、永野さんは鈴木さんのことを好きだと思っているように見える。まぁ、確かに、そう思えてしまう要素がたくさんあるからね。だけど、僕には、それは恋とは違うように思えるんだ」

「じゃあ、何なの?」

「うーん、単なる『憧れ』?」

「憧れ、ねぇ。もしそうだとしたら、香蓮は誰が好きなの?」

「もし彼女の中に既に恋愛感情が芽生えているなら、彼女自身にとって、最も意外な人だろうねぇ」

「もしかして……浅倉…君?」

「さぁ、どうだろうね? こればっかりはわからないよ。未だそういった感情自体を持っていないのかもしれないし。ただ、僕はそうだったらいいなとは考えているし、本当に勝手な考えだけど、多分そうだろうなって思ってる」

「え? えぇえっ!? じゃあっ!」

「それがねぇ。残念ながら、浅倉も相当鈍いんだよね」

「嘘」

「本当。浅倉って、異性が自分をどう見ているのか、意外と気づいてないんだよ」

「あんなにモテるのに?」

「そう。他の女の子たちの気持ちに気づけなくなるくらい、永野さんに惚れてる」

「なっ……!」

「あ、武田さんでも赤くなるんだ」

「もう! 私のことはいいって言ってるでしょ!」

「あはは、ごめん。ま、そんなワケで、僕は2人がお互いの気持ちに早く気づいてくれるように祈ってるんだけどね。あんまり大っぴらにならないように、さり気なく力添えもしてるつもりなんだけどなかなか上手くいかないね。特に、永野さんの鈍感さには、本当に脱帽するよ」

「そうだったんだ」

「恋愛感情って、いくら想い合っていても、周りからの押し付けじゃ上手くいかなくなっちゃったりするから、やっぱり本人たちがなんとかしないとね。それに本当に僕の思い込みだったら申し訳ないし」

「なるほどねぇ……了解。香蓮が変な方向に暴走しそうになったときだけ、方向修正するよ」

「頼むね。僕は男だから、きっと永野さんはあんまり話したがらないと思うんだ。でも、武田さんになら、自分の気持ちに気づいたとき、いろいろ話してくれるかもしれない。少なくとも、浅倉の気持ちは、僕たちの想像通りだと思うから」

「わかったわ。そういうことなら任せて」

「あ、予鈴だよ。そろそろ部署に戻ろう」

「うん。それじゃ、また明日ね」

「また明日」

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