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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第3章 - 5/28
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side Daichi - 15

昼休みに入ってすぐ、オレと永野は一緒に休憩室へ向かい、コーヒーとパンを買い込んだ。

手っ取り早く昼飯済ませて、さっさと仕事に戻らなきゃなんねーしな。

席について、パンの入った袋を開ける。

あーもぉめんどくせぇ。食いながら仕事しちまおう。

右手にパン、左手にコーヒーを持ち、それをキーボードやマウスに持ち替えながらスライドショーの仕上げを進めていると、隣で食事していた永野が唐突に言った。

「で? なんで浅倉までここにいるの?」

わざわざ聞くな。

「スライドショー、なんとしても昼休み終了までに終わらせなきゃいけねーだろ? 紙面の方もまだ手を着けてねーし。時間がねーんだ」

オレは両手を広げる。それを見た永野は、ちょっと意地悪に笑った。

「お手上げ?」

ムカっ。

「まさか。全っ然、余裕ー」

余裕なんて全然ねーのに。オレってバカ。

「嘘ばっかり」永野がクスリと笑った。「無理だって思ったら、すぐに私に言ってよ? そっち手伝うから」

それだけは、意地でも絶対にさせねー。

ったく。余計な心配はいいから、お前はお前の仕事してろっつーの。


でも、その永野の言葉に奮い立たされたおかげで、オレは集中力を高めることができた。

すぐにスライドショー作りに没頭し、周りのことが一切目に入らなくなる。

だから、そいつの存在に全然気づかなかった。

ようやく気づいたのは、声をかけられたとき。


「浅倉さぁん、よろしかったらぁ、お茶、いかがですかぁ?」

ん? 浅倉……ってオレの名前じゃん。

声のした方を見る。どっかで見たことのある女子社員が立っていた。

なんだ、コイツ? 誰だっけ?

マロンブラウンの髪はウェーブがかかっていて、化粧もきちんとしている。

綺麗な人だとは思う。多分、モテるタイプだろうと勝手に想像した。

首に下げられているIDをちらりと見ると、田中と書かれていた。

田中? 田中、ねぇ……。

どっかで会ったことあると思うんだけど、全然思い出せねーや。

田中さんは、オレの横で湯呑みの乗ったお盆を手に立っている。

湯呑みの数は1つ。ふぅん。

オレはさっき買ったコーヒーを持ち、軽く上げた。

「いや、いいや。コレあるし。悪いな」

それだけ言って、オレは再びパソコンへと向かった。

ったく、せっかく集中してたのに。

一回集中力が切れると、また前の状態まで戻すのに大変なんだぞ?

えっと、さっきやってたのは……あ、ココか。グラフからだっけな。

スライドショーにグラフを挿入し、その見た目や数値を編集していく。

ラベルの位置やタイトル、数字の桁数、色分け、文字の大きさ。気にしなきゃなんねーことが山ほどある。

んーと。ま、こんなもんかな。次は、と。

手元にある、鈴木さんの資料へ目を移した。

そのとき、目の隅に何かが映る。顔を上げると、田中さんが未だ立っていた。

「何? まだ何か用?」

オレは言った。

そんなところに立たれてると、気が散るんだよな。わかんないかな。

「あ、えっとぉ……」

田中さんが口ごもる。

「お茶、余ってるんならコイツにやって」

オレは右手に持っていたボールペンで永野の方を指し、資料に目を戻した。

田中さんの動く気配がして、永野の「ありがとう」という声が聞こえてきた。

ようやく行ったか。これでまた集中できる。


「もうちょっと、優しい言い方あるでしょうに」

隣から、永野の声が聞こえてきた。

その言葉が、オレに向けられたものだとわかるのに、少し時間がかかった。

永野は仕事の手を止めていないみたいだが、ここにはオレと永野しかいない。

「何か飲みたくなったら、お前の貰うからいい」

オレも、キーボードを叩きながら答えた。

「もしかして、私のこと、水筒代わりとか思ってんじゃないでしょーね?」

永野の憤慨したような物言いに、オレは密かに我に返った。

ん? オレ、今なんて答えたんだっけ?

あぁ、思い出した。

意識はスライドショー側に向いてるから、ほとんど脊髄で答えてる感じだ。

ヤバいヤバい。意識してねーと、とんでもないこと言いそうだ。

永野が続けた。

「そんなこと言うヤツには、砂糖たーっぷりのコーヒー用意しといてやる」

「そんなことすっと、お前が困るんじゃねーの? 確か、お前も甘いの苦手だったよな」

「だから、浅倉にあげる専用のヤツを用意しとくの」

「お前、性格わりぃなぁ」

「それをアンタが言う?」

永野の方から物音がなくなった。なんか視線を感じるから、多分こっちを見てんだな。

「ったく」オレはため息をついた。「……今は時間がねーの。永野もわかってんだろ? だから、ハイ、この話題は終わり。余分なことに時間割かずに手を動かす!」

「何よ、急に真面目になって」

永野の声は不服そうだ。

オレは手を休め、目だけで永野の方を確認した。

「なんたって、明日の夕飯がかかってるしな」

オレの言葉に、永野はキョトンとしている。

おいおいオイオイ、まさかとは思ってたが、本当に忘れてたんか、こいつ?

あーショックだ。盛り上がってたの、オレだけかよ。

いや、薄々感じてはいたけど。

「もしかして、お前、忘れてた?」

諦め半分で聞いてみた。でも、返ってきた答えは意外で。

「え? あ、ううん。逆。浅倉、覚えてたんだって思って。ちょっと驚いたよ。冗談だと思ってたし」

「おいおい、冗談でもねーし、忘れるわけねーだろ?」

勢いだけでオレは反論する。

いかん、必死になるな、オレ。永野に逃げ道を用意しておいてやらねーと。

「せっかく夕飯奢ってもらえるっつーのに。ま、お前が嫌だっつーんなら、無理強いはしねーけど」

永野が嫌な思いするくらいなら、オレは行かねー。

とは思いつつ、本音では期待してるんだけどな。

「そんなことないよ」

永野の答えはすぐに返ってきた。

それって少なくとも、オレと一緒に食事行くのは嫌じゃないって事だよな。

「それじゃあ、あとはオレは頑張るだけだな」

オレは肩をほぐし、またパソコンへと向かった。

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