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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第3章 - 5/28
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side Daichi - 14

パソコンとの睨めっこ勝負に負けたオレは、ついに両腕を上げて伸びをした。

数日前、ぜってーに、木曜の午前中までにこの仕事を終わらせてやるって決心した。

それから、かなりのハイペースで仕事を進めて来たおかげで、自分でも驚くくらいの量をこなしたと思う。

ご褒美があるとこんなにも違うもんなのか、と自分でも呆れる。

ただ、その分疲れが溜まっちまってる。業務効率が落ちてきているのを自分でも感じている。

うー、首が痛ぇ。

首を左右に倒すと、骨の鳴る音がした。


でも、今日がその木曜日。

なんとしても終わらせねーと。


「浅倉」

隣の席からの声が近づいてくる。

永野だ。昨日オレが仕上げた書類のチェックを終えたらしい。

「チェック終わったよ。全部OKだった」

それを聞いて心底ホッとした。

先月に一度は教えてもらった仕事。ミスしないようにすっげぇ注意した。

くだらないっちゃくだらないが、永野の前では仕事のできる男でいてーんだ。

「マジで? よかった。サンキュー」

オレは永野の差し出してくれた書類を受け取る。

「じゃあ、課長に承認もらって提出しておいて」

「おぉ」

永野の目線は、オレじゃなくてオレの後ろを捉えていた。

ん? あぁ、パソコンのディスプレイ見てんのか。

ちょうど、鈴木さんの資料作ってるからな。

当の鈴木さんは、今、取引先さんに会いに行っちまってる。

この件以外の案件もいくつか抱えてるらしく、今いないのは、オレが作ってる資料の件とは別件のはずだ。

それにしても、時間かかってんな。すぐ戻るって言ってたはずだけど。

ま、今戻って来られても、資料は完成してねーんだけど。


「それって、プレゼンの?」

永野がオレに問う。

「あぁ。今日の昼までに終わらせねーと」

スライドショーと紙面の資料の作成。

永野がオレとの食事の約束への交換条件として出してきたもの。

その〆切が、今日の昼だ。

正直言って間に合いそうにねぇけど。でもせめて、スライドショーだけでも終わらせたい。

「そこまで気にしなくっていいよ?」

「そういうワケにはいかねーだろ?」

今になって、気にしなくていいとか言うなよ。

っつーか、コイツ、もしかして、オレとの約束忘れてる?

――コイツの場合、十分にあり得るから厄介だ。

「お前だけじゃなくて、鈴木さんにもチェック入れてもらわなきゃなんねーし。午後には鈴木さん帰ってくるんだろ? それに、準備が終わるのは、早ければ早いほどいいしな」

鈴木さんは、オレが作ったファイルにさらに手を加えて、プレゼンの完成度をより高めようとするはずだ。

だったら、できるだけ早く、オレの作業を終わらせた方がいいに決まってる。

「どこまでできた?」

「あとちょっと」

永野の問いに、オレは曖昧に答えた。

永野が腰を屈めて、オレの肩越しにディスプレイを覗く。

そんな格好じゃ疲れるだろ。ちょっと見せて、くらい言えよ。

オレは立ち上がって、椅子を永野の方に向けた。

永野はその意味を察してにっこり笑い、オレの椅子に腰掛けた。机に寄り、マウスに手をかける。素早い操作でスライドショーのソフトウェアを繰った。

「さっすが、操作慣れしてんなー」

オレは感心して呟く。

永野はオレの声が聞こえなかったかのように、視線を動かさず、次々とスライドを切り替えていく。

隅から隅までチェックされてるっつーのは、ドキドキするもんだ。

オレは右手を永野の座る椅子の背もたれに、左手を机に置いて、永野が見つめるディスプレイを一緒に覗きこんだ。

「すごい」永野の呟きが聞こえてきた。「こういう資料は初めて作るって言ってなかったっけ?」

そう言いながらも、永野は未だマウスを動かし続けている。

「あぁ、初めて。だから、前回、お前と白井君が作ったっていうファイルを参考にさせてもらってる。白井君がわざわざ送ってくれたからな」

「あ、なるほどね。とりあえず、今できあがってる分は、思ってたよりもずっと綺麗に仕上がってるよ。予想外」

永野がオレの方を振り向いた。

ん?

その表情が一瞬だけ妙に強張るのを、オレは見逃さなかった。

永野がさり気なく、身体をオレから離していく。それを見て、オレは今の永野の表情の意味を理解した。

つまり、近づき過ぎたってことだ。

「予想外ってひでぇ言い方だなぁ。人がせっかくがんばってんのに」

オレはそう言って身体を起こし、もう一度伸びをした。

さり気なく、永野と距離を取るために。

「それにしても、すっげー神経使うんだな、この作業」

「そりゃ、社長や取締役の方々が見る資料だもの。神経使って当然でしょ?」

永野が立ち上がる。

「思ってたよりずっと難しい。ちょっとナメてた。もうちょいかかりそうだ」

「手伝う?」

「いや、いい。お前はお前の仕事をやれよ。それが終わっても未だオレができてなかったら、そのときは頼む」

「わかった」


――とカッコつけてみたものの、終わりそうもねーんだよな、これ。

仕方ない、今日の昼休み潰して進めるしかねぇか。

休憩室に行きゃ食えるものも売ってるし、飯はなんとかなるだろ。

正紀にメールしといた方がいいかな。

メーラーを立ち上げる。すると、新着メールの送信者の中に永野の名前を見つけた。

宛先は、オレと正紀と武田さん。

なんだ?


  subject : (T_T)

  body : ごめん、今日・明日はランチ無理


なんだ。永野もヤバイんじゃねーか。そんな状態で、人のこと手伝うとか言ってんじゃねーよ、まったく。

でも、昼休み、永野がここにいるんなら、オレの仕事がはかどりそうだ。

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