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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第2章 - 5/25
25/92

side Karen - 11

「何飲んでんの?」

突然、浅倉が手を伸ばして私の持っていた紙コップを取り上げた。

抵抗する暇もない。

「あっ」

私が声を出したときには、既に浅倉はもうコップに口を付けていて。

「ッ!? なんだ、これ? 甘っ!」

予想外の味だったらしい。

慌てている浅倉。その姿があまりにも普段と変わらなくて、逆に落ち着いてきた。

ごめん、浅倉。アンタの不幸を笑ってるわけじゃないんだけど。

「何って……ココア」

「ココアだぁ?」

「血糖値が足りなくなっちゃって」

「お前、そういうことはもっと早く言え。オレが甘いの苦手だって知ってんだろ?」

「私が言う前に、浅倉が勝手に飲んじゃったんじゃん」

浅倉は、甘いものを食べたとは思えないような渋い表情で、私にカップを差し出した。

それを受け取るとき、一瞬、浅倉の指に自分のそれが触れた。


  どきん


その瞬間、心臓が大きく脈打った。

身体が熱くなり、鼓動も早まる。


だから、何なのよ?

どーしちゃったのよ、私?

相手は、浅倉だよ? いつも一緒にいるじゃん。

何を今更ときめいてんのよ?

? ときめいて???

ないないない。絶対にない。

あり得ないから!


私は、言うことを聞かない身体を落ち着かせようと、またココアを一口飲んだ。

「珍しいな」

「何が?」

「永野、いつもペットボトルとかをオレが勝手に飲むと、その後絶対に、口付けねーか拭くかするだろ? あれ、実は結構傷ついてるんだよね、オレ的には」

「――ッ!!」

浅倉の言葉に、思わず咽返った。

しまった。

身体がおかしくて、そっちの方に気を取られてた。

口に手を当て、ケホケホと咳をする私の背中を、浅倉がさすってくれる。

ってゆーか、気安く触れるな。

なんでかわかんないけど、身体が熱くなるから。

「ん、ありがと、もう、大丈夫だから」

息を整えてなんとか言い切る。

「無理すんなって」

「大丈夫だからッ!」

私は浅倉の手を撥ね除けた。浅倉が驚いて目を見開く。

その隙に、急いでソファから立ち上がった。

今は、これ以上ここにいたらいけない気がする。

このままだと、なんか私、変になっちゃいそうだ。

「私、もう戻るよ。未だやらなきゃいけない仕事がたくさんあるし」

言いながら、足下に落ちていた靴を履く。

そのまま振り返らずに立ち去ろうとした――


「ッ、ちょっと! 浅倉?」

動けない。

私の腕を、立ち上がった浅倉が掴んでいた。

私は振りほどこうともがいた。でもびくともしない。

浅倉は無言だ。

なんか、雰囲気が怖い。私、怒らせた……?


「お前さぁ、無理しすぎじゃねぇの?」

深いため息と共に吐き出された浅倉の声は、言葉の乱暴さからは信じられないほど優しくて。

自然と、抵抗を止めてしまう。

同時に、腕を掴む力が緩んで、外れた。

「無理だったら無理って、大丈夫じゃなかったら大丈夫じゃないって言えよ」

「……」

「オレの前でくらい、肩の力抜いてくれてもいいんじゃねぇの?」

「でも……」

「『でも』じゃねーの」

私は俯いた。浅倉の視線が痛い。

それに、なんか身体が変だ。全身が熱い。

「仕事じゃ未だ全然頼りにゃなんねーだろうけど、なんか体調がおかしいときとか、不調なときとか、そんくらいならオレでもちょっとは役に立てると思うんだよね」

私は恐る恐る顔を上げる。

浅倉が優しく微笑みかけてくれていた。

その表情に私はほっとすると同時に、自分の中に落ち着かないものを感じた。

そして、その感覚がまた私の身体をさらに熱くさせる。

「ほら、オレ一応、お前の同期だし?」

浅倉はそうおどけた調子で続けた。

私も、何か言わなきゃ。

「――あ、浅倉?」

私が声を発する。

「ん?」

「さっきはごめん」

「別に。気にすんな」

「もう取り乱したりしないから、安心していいよ」

「……」

「浅倉って、優しかったんだね」

「知らなかったんか? ったく、気づくのおせーよ」浅倉は肩を落としてため息をつくと、私に背を向けた。「――帰るか」

「そうだね」

歩き出した浅倉が、休憩室を出る直前に立ち止まる。

通せんぼされた。

なんでそこで止まるかな?

「――永野」

浅倉が声を発した。

私からは、浅倉の背中しか見えなくて、その表情はわからない。

「何?」

「オレ、がんばるからさ。お前からしたら今は全然仕事もできねーし、頼りないだろうけど、ちゃんと全部覚えるからさ。鈴木さんみたいになるからさ。そしたら、本当に、オレんとこ頼って来いよ」


それだけ言うと、浅倉は私の方を振り返らず休憩室を出ていった。

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