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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第2章 - 5/25
22/92

side Daichi - 13

なんとなく2人一緒にエレベーターで降りる。

さすがに階段で降りるには、ちょっと距離があるし。


それにしても、この沈黙が重い。

こないだの、鈴木さんと豊田さんの仲睦まじい姿を見せ付けられたとき以上。

永野と2人でいて、こんなの初めてだ。

だいたいいつも、オレか永野か、どっちかが話してんのに。

エレベーターの中で、2人、微妙な間。

あー耐え切れねーかも。


っつってもなー。さっきあんなクサイこと言っちまったしなー。

オレから声かけるの、躊躇われるよなー。


オレは、休憩室を出る直前の、自分が言った言葉を思い出す。

『オレ、がんばるからさ。お前からしたら今は全然仕事もできねーし、頼りないだろうけど、ちゃんと全部覚えるからさ。鈴木さんみたいになるからさ。そしたら、本当に、オレんとこ頼って来いよ』


あー。なんっつーこっ恥ずかしいことを言っちまったんだか。

もちろん、冗談のつもりはねーけど。

ちらりと横目で永野を見やった。永野のヤツ、全然こっちを見ねぇし。

さすがに今回は、永野にもオレが気をかけてること伝わったかな。



マーケティング企画部のあるフロアに着く。

オレが永野を探しに出たときのままだった。だーれもいやしねぇ。

オレと永野の席のあたりだけ、煌々と明かりが灯っていた。

「今日はもう帰るだろ?」

オレが問うと、永野は壁の時計を見た。

「うん、そうするよ。明日もあるし」

素直で大変よろしい。

ま、どっちにしても、未だやってくなんつったら、拉致してでも帰らせるつもりだったけどな。

「お前も電車通勤だったよな。駅まで送る」

「え? 別にいいよ。すぐそこだし」

おい、即答で断るな。

オレは、ため息をつく以外にない。

「お前なぁ、男が『送る』っつってんだから、『ありがとう』って素直に送られときゃいーんだよ」

永野が不思議そうな顔をしてオレを見ているのを感じながら、オレはパソコンをシャットダウンさせていった。

フロアを出て、ロッカールームの前で永野といったん別れる。

携帯電話を取りに行かなきゃなんねーし。

オレのロッカーは、出入り口近くにある。

また廊下に戻ったとき、まだ永野はいなかった。

とりあえず、携帯電話をチェックする。メールも電話も特に入ってはいないみたいだった。

「お待たせ」

永野の声がして顔を上げた。

「それじゃ、行くか」

オレは携帯電話をしまい、永野を促して歩き出した。


外に出てしばらく歩いた時、急に永野が立ち止った。

振り返ると、永野が俯いていた。

まさか、泣いてるんじゃねーだろうな……。

「永野? どうした?」

平然を装って、声をかける。

内心、すっげードキドキしてんですけど。

「浅倉」

「ん?」

「あの……『ありがと』」

言いながら顔を上げた永野は、あの時と――オレが一目惚れしちまったたときと――まったく同じ笑顔で。

あーヤバい、なんか顔が熱い。

ここでその笑顔は反則だろ。

永野に今のオレの表情を見られたくなくて、オレはまた前を向く。

「ま、気にすんな」

後ろで、永野が歩き出す気配がした。それが追いつくのを待って、オレもまた歩き始めた。


そして唐突に、オレは思いついた。

何で永野にお礼言われたのか、イマイチよくわかんねーんだけど。でも、せっかくのチャンスだ。使わせてもらう。

「そーだ、そんじゃ、お礼してもらおうかな」

我ながら、己の狡猾さに呆れる。

「はい?」

あ、永野のヤツ、明らかにうろたえてる。

まぁ、そりゃそうか。

突然、『お礼しろ』なんて言われりゃ、誰だって驚くわな。ヤクザじゃあるまいし。

ま、安心しろ。変な要求する気はねーし。ただ単に、お前を誘う口実が欲しいだけで。

その理由は何だってよかったんだ。

「――夕飯」

「え?」

「今週末、夕飯、一緒に喰いに行こーぜ。それでチャラ」

永野は驚いたようにオレを見て、そして笑いだした。

「なーんだ。お礼なんて言うから驚いた。じゃあ、金曜の5時までに、月末処理と鈴木さんの件が無事に終わったらね。なんでも好きなもの奢るよ」

オイオイ、条件出すのかよ?

「お? 言ったな? ぜってー終わらせてやる!」

「ホントにできるー? 鈴木さんのヤツ、ちょー難しいよ?」

「うっせー。浅倉大地様をナメんな」

っつーか、オレはお前とデートできるんなら、奢るとか奢らないとか、そのための条件とか、そんなのどーだっていいんだ。


永野がいつも使ってる電車の駅に辿り着いた。

なんとなく、離れがたい。

オレの独り善がりが、また、永野と一緒にいるための理由を勝手に作り出す。

「それじゃ、また明――」

バッグから定期を取りだしている永野の言葉を遮った。

「やっぱり、オレもここから帰るわ」

永野が僅かに眉根を寄せる。

「路線違うじゃん」

「いや、お前の降りる駅の2つ先で降りたら、そっから歩いて帰れるんだよね、オレん家。最寄駅じゃないってだけで、この路線でも結構近いんだよな」オレはICカードを取りだした。「行こーぜ」

これ以上永野が文句を言わねーように、オレは永野を促し、改札口を通った。

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