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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第2章 - 5/25
18/92

side Daichi - 9

眩しさを感じて、オレは顔を上げた。

原因は、窓からの西日。

窓のサッシに反射して、オレの目を直射していた。

オレは、立ち上がり、窓に寄る。ブラインドを下ろして、明るさを調整した。

こんなもんかな。ちょっと暗いか?

ま、フロアの照明があるから、なんとかなるだろ。

席に戻ろうと振り返ったときに、時計が目に入った。

18時半。もうこんな時間か。

あっという間に夕方だ。

仕事が忙しいと、時間が経つのが早い。


フロアには、もう人がまばらだ。

フレックス制の会社っつーのもあって、ほとんどのヤツがとっくに帰ってる。

マーケティング企画部には、もうオレと永野しかいねーし。

あの鈴木さんでさえ、結婚式が近くて準備が大変だとかで、最近はほとんど残業せずに帰ってるもんな。

そりゃオレだって、早く帰れるもんなら帰りてーよ。

でも、未だ仕事があるんだよなぁ……。

オレはまたパソコンに向かった。

目の前には、たくさんの資料と、今日ほとんど一日中開きっぱなしのプレゼンテーション・ソフトのファイル。

木曜日の昼までに終わらせねーといけない件。

自分から引き受けちまっておいて、今さら言うのがカッコわりぃのは百も承知なんだけど、実は、甘く見てた。

でも、白井にもらったファイルを見て、要求されてる完成レベルが、オレの考えてた程度よりも遙かに上だと知った。

永野のヤツ、あんなにたくさんの仕事抱えながら、毎回こんな精度の高い資料作ってんのかよ?

アイツの頭ん中、どーなってんだ? ったく。


そういや、永野。

ちょっと前にふらっとどっか行っちまったっきり、全然帰って来ねぇな……。


オレは、今日の出来事を思い出す。

万里さんのあの反応は、多分、オレに気を使ってくれてたんだろう。オレのことすっげーチラチラ見てたし。

新入社員だっつーのに、よく周りを見てる。空気読めるんだろうな。

それに比べて高田さんは、全然気づいてない風だったけど。おかげで、永野が変な方に納得しちまってたし。

そういや、永野のヤツ、昼休みにオレに『彼女作らないの?』って言ってきやがったんだっけ。

なんか触発されたのか?

っつーか、お前が言うな、お前が。

彼女いねーのは、お前のせいだっつーの。

いやー、あん時は、ちょっと焦った。

「『彼女にしたいってヤツが』できたら、そんときは考える」って言うつもりだったけど、まぁそんなことはどうでもいい。

あーあ、永野の弁当食ってみてー。

そういや、アイツ、料理とかできんのかね?


オレは椅子の背に体重を預ける。

そのまま、重さに任せて頭を背中側に倒すと、壁にかかった時計が、上下逆さまに見えた。

既に、さっきから15分も経っていた。

もちろん、仕事は一文字たりとも進んじゃいない。

あークソッ、集中できねー。今日はもぉ帰ろうかなー……。

「お疲れさまです」

オレに向けたらしい声がかかった。

身体を起こしてその声の主を見る。

同じフロアの別の部署の人。オレにとっちゃ大先輩くらいの年齢の人だ。

「あ、お疲れ様でした」

「君、もうこのフロアの最後みたいだから、戸締りよろしく」

声の主はそう言って、ちょっと申し訳なさそうに会釈して、フロアから出て行った。

あ、オレと永野が最終退出者なワケね?

右隣の席に視線を移す。

相変わらず、空のまま。永野が戻ってくる気配はない。

このままオレが帰るわけにもいかねーよな。

しゃーねぇ。探しに行くか。

オレは椅子から立ち上がった。

――心配だし、な。


とりあえず、同じフロアの休憩室に行ってみた。

誰もいない。

ここじゃねぇみてーだな。

でも、他に永野の行きそうなトコってあんのか?

全然見当がつかない。

そういや、永野ってたまに、30分くらい席外すことあるんだよな。

どこに行ってんだろ。

そんなことを思いながら、オレはエレベーターへ向かった。

上へ行くボタンを押して、エレベーターが来るまで待つ。

ポーンという音がして、扉が開いた。

目的の階を押すのに、手が宙で迷う。

最上階から、順に探しながら降りるしかねぇか。

オレは、『書庫』と書かれた一番上の階を指定した。

扉が閉まり、エレベーターがオレを上の階へと運んで行く。

内臓が一瞬ふわってなるあの感触の後、エレベーターの扉が開いた。最上階に着いたらしい。


このオフィスビルは、オレたちが働いている会社の物件で、各階がほとんど同じ構造をしている。

だから普段歩き慣れていないような階であっても、いつもの勘がある程度働く。

それを頼りに、オレは最上階の休憩室に向かった。

休憩室の中から、人の気配がする。ここにいんのかな?

オレは、そっとドアを開け、中を見渡した。

中には4~5人の社員が、それぞれ思い思いの方法で休憩を取っている。

窓の外の眺めがいいらしく、ほとんどの人が、窓際にいた。

でも、永野の姿はない。

ここでもねぇか。下の階、行ってみるかな……。

オレは休憩室を出て、階段に向かった。

1フロア分くらい、階段を降りた方がエレベーター待ってるよりも速いだろ。

階段の手すりに手をかけ、遠心力で身体を反転させる。そのまま、オレは階段を駆け降りた。


1つ下の階の休憩室からは、最上階の休憩室とは違って人の気配がしない。

電気も点いてねーみたいし。まぁ、未だ電気点けなくても明るいけど。

永野、ここにもいなさそうだ。すっげー静かだし。

ま、一応、覗いては見るか。

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