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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第2章 - 5/25
16/92

side Daichi - 7

月曜日。

オレは今、会社でマーケティング企画部宛の書類を仕分けしている。

永野が言うには、その部署の業務内容を知るには、届く書類と送る書類を見るのが早い、らしい。

そんなワケで、送る書類の方は新入社員の万里さん、届いた書類の方はオレが仕分けを担当してる。

届いた書類の仕分けっつーのは、書類の配信先と書類の内容を見て、マーケティング企画部のメンバーの担当ごとに分ける作業のことだ。

それにしても、なんだ、この書類の量!

開発部にも、かなりいろんな書類あるけど、比じゃねーな、こりゃ。

オレは仕分けした書類をそれぞれの担当者の机の上に置くと、残った書類の束の一部を手に取った。

永野とオレが担当してる分だ。

「永野、この書類はどーすんべ?」

分厚い……。

頭痛くなりそ。

「どれ?」

永野が椅子ごと近づいてきた。

キャスターが付いてるからいちいち立つよりその方が早いってか。

永野に手にしていた分の書類を渡す。

永野はパラパラとめくりながら、考え込むように顎に手を当てた。

薄手でふんわりした素材でできたレモンイエローのトップスに、細身のジーパン。ローヒールのパンプス。

時折、永野がモデルみたいに見えることがある。

髪は相変わらず後ろで結っているだけで、化粧も全然してねーのに。

オレが惚れてるからそう見えるだけなのか?

「んーいいや、これは私やっとく。他のは?」

永野がオレの机の上を見やった。あと2山分書類がある。

「この内の半分は、先月もやったからだいたいわかる。オレ一人でやるから、できたらチェック頼むわ。残りは、未だオレじゃあ手に負えねー件ばっかりだな」

オレの言葉を聞きながら、永野はその2山の書類を確認していた。

一応分けてある。先月教えてもらった分と、未だ教えてもらってない分。

未だ1回しか処理してねーけど、多分、合ってるはずだ。

せめてそんくらいはできねーと。

そうじゃないと、いつまでたっても鈴木さんに追いつけねー気がする。


それよりも、問題はこの量だ。

「これ、本当に今週中に全部終わらせんの?」

オレの問いかけに、永野が振り向いた。

「当ったり前じゃない」と両手に持った書類を片手ずつ突き出した。「この書類は取引先さんにお金支払わなきゃいけない件だし、こっちの件は今日中に処理しないと来月のイベント用の販促物の納品が間に合わないし、新製品の広告を出すのに役員さんの承認貰わなきゃいけないからコンセプト・プレゼンの資料を作らなきゃいけないし……」

聞いてるうちに、頭痛くなってきた。

マジかよってくらいあんのな。

先月は、オレも余裕なくて全然気付かなかったけど、こんなことを、毎月やんのかよって叫びたくなるくらい量がある。

「お前、今までそれ全部一人でやってたわけ?」

「そーよ」永野は、オレの質問を『愚問!』とばかりに3文字で片づけた。「まぁ、プレゼンは毎月あるわけじゃないし。今回はたまたま月末処理の時期と重なっちゃっただけだからさ」

いや、それを抜きにしてもかなりあるだろ。

信じらんねー。

「それに、今までは結構白井君にも手伝ってもらってたしね。けど、もう白井君にも別の担当の仕事があるから」

そう言いながら、永野はデスクの向こう側にいる白井をちらりと見る。

白井も、自分の名前が会話に出てきたのに気付いて、オレたちの方を向いた。照れているのか、苦笑気味だ。

「僕、そんなに永野さんの役に立ってないですよ。逆に足引っ張っちゃって、申し訳なかったくらいです。今だって、いろいろな件でしょっちゅう助けてもらっていますし」

「そんなことないよ、すっごく助かってたんだから。白井君、パソコン操作が上手だから、安心してプレゼン資料作り任せられた」

永野が笑顔を白井に向けた。

くそっ、なんか悔しい。白井も、そんな嬉しそうに笑うな。

オレもパソコン操作なら一通り以上できるのに。

「オレも、パソコンなら書類の処理よりはできると思うぜ? これでも一応、開発部にいたわけだし」

思わず口走る。

ってオレ、白井にまで妬いてんじゃねーよ。みっともねー。

「あ、そーか。じゃあ、このプレゼン資料、浅倉が作ってみる?」永野が自分の机の上にあるクリアフォルダを手に取った。「鈴木さんから資料は預かってるんだよね」

資料?!

なんか、ただの資料にしては分厚い気がすんだけど、気のせいか?

はい、これね、と永野が差し出してきた資料を受け取る。

「それを木曜日の昼までに終わらせて。木曜日の昼イチに一度私がチェックして、その後、鈴木さんに見ていただくから。代わりに、未だ浅倉に教えてない書類の処理は、全部私がやっとく」

今が月曜日の朝だから、木曜の昼までに終わらせりゃいいっつーんなら、ま、なんとかなんだろ。

「あぁ、わかった」

オレはそう答えると、クリアファイルから資料を取りだした。

プレゼン資料を作るための資料って、ややこしいな。

一体何のプレゼン資料を作れっつーんだ?

資料は手書きのものだったり、印刷されたものだったり、印刷されたものに所狭しとメモが加えられたものだったり、まちまちだ。

その中、見覚えのあるイラストを見つけた。

「お? これ、オレが去年まで開発してたヤツじゃん」

プロジェクトの途中で異動になっちまったヤツ。

もう、営業が本格的に動く段階まで来たんだな。

「あ、そうなんだ? 面白そうな製品だよね、それ」

あ、もうこの資料読んでたんだ。

相変わらず仕事が早ぇなぁ。いつこんな分厚いの読む暇があるんだか。

「開発の終盤で異動になっちまったから、実は気になってたんだよな。そっか、もうすぐ発売されんだな」

ちょっと感慨深い思いで、オレは手元の書類を見下ろした。

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