side Daichi - 6
突然だが、最近、会社に行くのが楽しい。
携わっていたプロジェクトの終盤で人事異動の内示を受けたときは、かなりへこんだが、移動先がマーケティング企画部だと聞いてあっという間に立ち直った。
マーケティング企画部には、永野もいるからだ。
オレ、すげー単純。
新しい部署への配属直前に、鈴木さんがオレを飲みに誘ってくれた。
鈴木さんとは、大学時代から、こうやってたまにサシで飲んでいる。
「浅倉の異動が決まった経緯を話しておきたいんだ」
鈴木さんの話によると、どうやらオレの異動は、会社にとって試験的なものらしい。
縦割り行政にならないように、横風を吹かせるのがオレの役割なんだそうだ。
「そんな大役、オレ、無理っすよ」
「まー、そう言わずに。頑張ってみろよ。実は、部長からその話を聞いたとき、候補者に浅倉を推したのって俺なんだよね」
「マジっすか? 鈴木さん、それは買い被りですって」
「そうか? 俺はそう思わないけどね」
「オレ、完全に開発に染まっちまってますよ? マーケティング業務なんて全然知らないですし」
「俺たちが何をやってるか知らないだけだよ。浅倉なら、すぐに慣れるさ。でも、確かに新入社員と一緒にOJTっていうのはキツいか……」
「それは新入社員の方が嫌がりますよ」
「そうだ、浅倉って、永野さんと同期じゃなかったか?」
「永野? えぇ、まぁ」
「じゃあ、浅倉のOJTは永野さんにお願いすることにしようかな。永野さんになら俺も安心して任せられるし、浅倉もいろいろと聞きやすいだろ?」
鈴木さんの提案に、オレは心の中で盛大にファンファーレを鳴らしまくってガッツポーズした。
3月末まで所属していた開発部は、とにかく男の園ってヤツだった。
男女比は95対5くらいか? よくわからん。
打合せのとき以外は、ほとんどパソコンと向き合ってたし。
開発部だから仕方ないっちゃ仕方ないけど、ハッキリ言ってむさ苦しい。
入社してからずっと、その世界しか知らなかったオレにとっては、マーケティング企画部の騒々しさと華やかさがやたらと新鮮に思えた。
でも、そんな些細なことはどうでもいい。
オレにとって一番嬉しかったのは、鈴木さんが用意してくれたオレの席だった。
新しい部署への出社初日。席を案内されたオレは、しばし呆然とした。
永野の隣の席じゃん。
これから毎日同じ職場で、仕事とはいえ堂々と話せて、席が隣で。
この環境で、会社に来るのが楽しくないって方がおかしいだろ。
永野と一緒に仕事をし始めて、もうすぐ2ヶ月が経つ。
その間に、オレは、今まで知らなかった永野の面をたくさん知った。
1つ。かなり仕事ができるということ。
早い上に正確。いろんな部署に顔が広い上、事前にネゴシエーションを取るといった気配りも忘れない。
2つ。後輩からも慕われ、先輩からも頼りにされているということ。
この部署、永野がいなくなっちまったら立ち直れねーんじゃねぇの? ってくらい、みんなが、なんでもかんでも永野に聞いてやがる。もうちょっと自分のことくらい自分でやれっての。
3つ。本当は、永野にはオレに業務を教えているような余裕がないこと。
他の人の業務まで手伝ってるんだから、当たり前だよな。整理されちゃいるけど、永野の机の上には常に何かの書類があるし。
4つ。それでも絶対、オレへのOJTに手を抜かないこと。
自分のことだけで相当忙しいはずなんだけどな。でも、教育方法はかなりスパルタ。オレも必死でやらねーと、マジで厳しい。他のヤツらみたく、永野の負担になりたくねーし。
そして、5つ。――いつも鈴木さんを目で追っていること。
わかるけどね、永野の、その気持ち。
鈴木さんは、男でも惚れそうになるほどかっこいい。
見た目ももちろんだけど、性格が男らしいんだよなー。
そんな人の近くで4年以上も仕事してりゃ、恋愛感情を持ったっておかしくねーって思う。
鈴木さんは、永野の気持ちには全然気づいてないみてーだけど。
もし鈴木さんがフリーだったとしたら、相当焦ってただろうな、オレ。
丁度タイミングよく、オレがちょうど永野の目線に気づいたのと同じ頃に、鈴木さんは結婚宣言した。
会社の終礼で。
永野の方を窺い見ると、その横顔は心から祝福してて。
なんで好きなヤツが結婚するっつーのに、そんなに笑顔なんだ?
まさかコイツ、自分の気持ちすらわからないほど、鈍感なんじゃねーだろうな?
そんときは、なんとなくそう思ったっけ。
でも、こないだのサークルのとき、鈴木さんの頼みごとをアッサリ引き受けやがったんだよな、永野は。
もしかしたら、オレの予想はまんざら間違ってねーのかも……。




