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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第2章 - 5/25
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side Karen - 7

「あのぅ…永野さん、ちょっといいですか?」

「ん? 万里ちゃん、どした?」

窺うような声で私に声をかけたのは、万里ちゃん。今年の新入社員だ。

私にもこんな時代があったのかと疑いたくなるほど、万里ちゃんは初々しい。

「この部分、ちょっとよくわからなくって」

「これ? 高田さんには聞いた?」

「えぇ……」

万里ちゃんは居心地悪そうにチラリと高田さんの方を見た。

「永野さん、すみませーん」デスクの向こう側から、高田さんの声がした。「ちょっと私も自信なくって。永野さんにもチェックしていただいた方が確実かなぁって」

高田さんは私の1期下の後輩ちゃん。

万里ちゃんのOJT担当なのだが、どうも未だ業務知識に穴がある。

『ただ処理をこなしている』と言う感じで、『なんでその処理が必要なのか』がわかっていないとでも言えばいいのかな。

「もー、しょうがないなぁ……。万里ちゃん、ここ座って? 高田さんもこっち来て一緒に覚える」

私は手近な椅子を二つ横に並べた。

高田さんが、照れ隠しなのか、えへへと笑いながら側に来る。

さすがに、手にはメモ帳。

それを見て、万里ちゃんも「あっ」と小さく言い、急いでノートを持ってきた。

私自身も、裏面の白いミスコピー紙とペンを用意する。

「この処理はね」

私は解説を始めた。


まずこの処理の目的。これが頭に入っていないのに、業務手順が理解できるわけない。

2人の中で処理目的がハッキリしたのを確認してから、大雑把な業務の流れの説明に移る。

業務というのは、必要だから発生するのであって、発生するにはそれなりの意味がある。

だから、その意味を考えれば、その業務は理解できるはず。

――というのが私の持論。

あくまでも私の、だけど。


「えっ、ここで資材部が絡んでるんですか?」

業務の流れの説明の中盤で、高田さんが目を見開いた。

「そーよ? 社内の購買関連は、全部資材部さんがやってくれてるでしょ?」

「そう言えばそうですよね」

「全然知りませんでした……。資材部さんとは全然関係のなさそうな業務なのに」

私の書いた解説画を見ながら、万里ちゃんも呟く。

「でも、会社って組織で動いてるから。一見関わりがなくても、いろんなところでいろんな部署と繋がってるんだよね。意外と多いよ、そういうこと」

高田さんと万里ちゃんが頷く。

私は説明の先を続けることにした。


「ありがとうございます。勉強になりました」

ようやく説明が終わり、私はペンを置いた。どうやらわかってもらえたらしい。

「私もです。やっぱり永野さんはすごいですね」

いや、高田さん、あなたは感心してる場合じゃないから。

「背が高くて、凛としてて、仕事もできて。永野さんが男だったら、私、絶対に惚れてます」

って、万里ちゃん、イキナリそんな愛の告白めいたことをされても……。

「ありがと。でも残念だけど、私、そっちの気ないよ?」

「だから、永野さんが男だったらって話ですよぉ。永野さんみたいにカッコいい男の人、どこかにいないかなぁ」

今からでも男になれるんなら、私だってそうしたいよ。

「コイツは?」

私は浅倉を指差した。

少なくとも万里ちゃんの言う『背が高い』と『仕事ができる』は当てはまる。世間一般的に言う『カッコいい男の人』には該当しそうだ。

「浅倉さん……ですか?」万里ちゃんは明らかに困惑している。「えっと、浅倉さんって、そのぅ、彼女さんがいらっしゃるんじゃ…ないんですか?」

「そうなの? 知らない」

本当に知らないんだよね。やっぱりいるのかなぁ?

「え? あっ、あのっ、でもっ、浅倉さんも素敵ですけど、強力なライバルさんがいらっしゃいますから」

「そうそう、他部署のお姉様方が怖いしねー」

高田さんが小さい声で横槍を入れた。

やっぱり、高田さんも同じこと思ってたんだ。

万里ちゃんが、何かに気づいたように俯いた。

どうしたの、と声をかけようとしたら。

「お前なぁ、本人の目の前で好き勝手話してんじゃねーよ」

「痛っ!」

何かが私の頭を叩いた。振り返ると、浅倉が書類を丸めた物を手に仁王立ちしている。

「はい、2人とも、理解したら自分の仕事に戻って仕事の続き! あ、座ってた椅子は元のところに戻しとけよ」

浅倉がテキパキと指示を出し、2人は苦笑いで席に戻っていった。


入社して、いつの間にか5年目。

私も、今年で27歳になる。

そして気がついたら、マーケティング企画部の中で、鈴木さんの次の古株になってしまっていた。

私より年長者もいるけど、他の部署から異動してきた人ばかりでマーケティング企画部歴は私より短い。

鈴木さんが教えてくれないわけじゃない。むしろ、相手が理解するまで丁寧に教えてくれる人だ。

でも、鈴木さんは、この部署に長い分どんどん偉くなっていく。

当然のことながら、偉い人には、実務について聞きづらくなる。

だから、なーんとなく「わからないことがあったら永野さんへ」が暗黙の了解になっちゃってるんだよね。

高田さんにしても、万里ちゃんにしても、未だ一人で仕事をすることに不安がっている白井君にしても、先輩方にしても。

別に、いいんだけどさ。

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