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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第2章 - 5/25
12/92

side Karen - 6

週が明けて、今日は月曜日。

私は会社のロッカールームで、大きくため息をついた。

会社が製造業ってことで、ケータイはそのロッカーに置いておかなきゃいけない決まりになっている。

ケータイのカメラで、社外秘の情報が漏れると大変だから。


代わりにと言うか何と言うか、制服のある会社じゃないから更衣室はない。

皆、自由な格好で出社する。

私はいつも、ジーンズと綺麗めトップス。

今日は明るい色のスキニージーンズに、シフォン地のカシュクールタイプのプルオーバーと、その中にレースをあしらったキャミソール。

基本的に内勤だから、普段の業務日であれば、ジーパンでも何も言われないのがとっても嬉しい。

スカートは履き慣れてないし。


それにしても、なんで月曜日はいっつもダルイの。

週末ボケが続いてる感じ。せっかくのフレックス制なんだから、もっと遅く出社すればよかったかな。

でも、今週はそんなこと言ってられなかったりする。

今週で5月が終わるから、月末処理に追われるんだ。

それはつまり、山のような書類を全部処理し切らなきゃいけないということで。

はぁあ、浅倉のOJTもあるのに……。

浅倉の席は私の左隣。

OJTがしやすいようにと、鈴木さんが有難くも配慮してくれた結果だ。

浅倉のOJTを初めたばかりの頃は、他の部署の女子社員の目がすごく痛かったけど、今ではもうすっかり慣れた。

と言うより、気にしないことにした。キリがないし。

だいたい、わかりそうなもんじゃない?

私と浅倉じゃ、お互いに恋愛感情なんて持てるわけないし。


「永野、この書類はどーすんべ?」

浅倉の口調は、仕事のときもプライベートのときも全然変わらない。

それって社会人としてどーなのって思うんだけど。

「どれ?」

私は椅子ごと浅倉に近付いた。

浅倉の示した書類は数種類あって、どれも処理を教えること自体が大変なものばかり。

いずれは教えなきゃいけないことだけど、今は時間のロスになるだけだ。

「んーいいや、これは私やっとく。他のは?」

浅倉の机の上には、未だたくさんの書類がある。

「この内の半分は、先月もやったからだいたいわかる。オレ1人でやるから、できたらチェック頼むわ。残りは、未だオレじゃあ手に負えねー件ばっかりだな。これ、本当に今週中に全部終わらせんの?」

「当ったり前じゃない。この書類は取引先さんにお金支払わなきゃいけない件だし、こっちの件は今日中に処理しないと来月のイベント用の販促物の納品が間に合わないし、新製品の広告を出すのに役員さんの承認貰わなきゃいけないからコンセプト・プレゼンの資料を作らなきゃいけないし……」

「お前、今までそれ全部一人でやってたわけ?」

「そーよ。まぁ、プレゼンは毎月あるわけじゃないし。今回はたまたま月末処理の時期と重なっちゃっただけだからさ。

 それに、今までは結構白井君にも手伝ってもらってたしね。けど、もう白井君にも別の担当の仕事があるから」

「僕、そんなに永野さんの役に立ってないですよ。逆に足引っ張っちゃって、申し訳なかったくらいです。今だって、いろいろな件でしょっちゅう助けてもらっていますし」

白井君が、苦笑交じりに口を挟んだ。

白井君の席は、私の向かい側。名前を呼んだのが聞こえたらしい。

「そんなことないよ、すっごく助かってたんだから。白井君、パソコン操作が上手だから、安心してプレゼン資料作り任せられた」

私の言葉に、白井君ははにかみつつも嬉しそうに微笑んだ。

それを聞いて浅倉が口を開いた。

「オレも、パソコンなら書類の処理よりはできると思うぜ? これでも一応、開発部にいたわけだし」

「あ、そーか。じゃあ、このプレゼン資料、浅倉が作ってみる? 鈴木さんから資料は預かってるんだよね」

私はそう言いながら、自分の机の書類の山の一番上に置いていたクリアフォルダを手に取った。


クリアフォルダの中には30枚くらいの紙が挟まれている。

鈴木さんがプレゼン資料のイメージのラフ画を手で紙に描いたものだ。

いつも鈴木さんが私に任せてくる仕事は、そのイメージ画を元に、紙面配布用の資料とプレゼンテーションソフト用のスライドショーを作ること。

ラフ画にはデータが入っているわけじゃないから、指示されたデータを集めて埋め込むこともしなきゃいけない。

それに、文字や画像の大きさ、配置、色遣い、1画面の情報量など、意外と気を使うことが多かったりする。

それを、紙面用とスライド用の2種類も作成するのだ。

この部署に配属された当初からそういう仕事をこなしてきた私でも、毎回かなり神経を使う作業だ。正直キツイ。完成までに数日はかかるんだよね。

確かに去年は白井君に手伝ってもらってたけど、それはあくまでもソフトウェアの操作だけで、データ調査や見た目の指示はほとんど私がやってたし。


しかも今回の新製品は、会社の新しい主力商品にする予定のもの。

でも、確かに浅倉なら、開発部にも顔が利くから資料集めにも苦労しないだろうし、今年の新入社員や白井君よりも早く的確に作ってくれそうだ。

「はい、これね。それを木曜日の昼までに終わらせて。木曜日の昼イチに一度私がチェックして、その後、鈴木さんに見ていただくから。代わりに、未だ浅倉に教えてない書類の処理は、全部私がやっとく」

「あぁ、わかった」浅倉は、早速鈴木さんの資料を見ている。「お? これ、オレが去年まで開発してたヤツじゃん」

浅倉の言葉に、私は驚いた。

「あ、そうなんだ? 面白そうな製品だよね、それ」

「開発の終盤で異動になっちまったから、実は気になってたんだよな。そっか、もうすぐ発売されんだな」

「そーよ。でもそのプレゼンを通さないと、世に出ないけどね」

「そりゃ困る。相当苦労したんだぜ?」

「じゃあ、もう一頑張りしてその資料を完璧に作りなさいな。そのラフ見たらわかると思うけど、鈴木さんも相当いろんな方面に対して骨を折ってくれてるみたい。その商品に期待してるんだと思う。浅倉が開発したなら、それに応えなきゃねー」

私は言いながら、浅倉の机の上を漁る。

書類の山から、自分の処理するべきものだけを抜き出すと、席に戻った。

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