【予言者】④
「ほんとに今回のは他殺なの?」
「他殺でしょうね。他になにがあるって言うんですか?」
水巻龍歌の疑問を寺坂が一蹴する。
「でも自分で持ってきた水筒を飲んだんでしょ?自殺かもしれないじゃない。」
「かもで言えば分からないが、自殺したい人物がわざわざ自分が死ぬ正夢を見たって相談に来るか?」
「そうですよ。むしろ彼女は生存を望んでいたはずです。第一あの場所で死ぬ理由がない。」
「それはそうだけど…。」
神瀬たちはここ一週間、最初に甘南備に言われた殺された3人について調べていた。
その3人については概ね捜査は終了していたのだが、昨日になって新たな被害者がでてしまった。
「しかし、今回のが他殺だったとして殺された4人になんの関係があるかって話ですよね。」
「そこなんだよなぁ。」
3人はホワイトボードに目をやる。
そこには殺された4人について分かるだけの情報が書かれていた。
1人目
能吏 美智香
7月15日生まれ 24歳
住所 神輿谷市芝区稲土22-1-5
仕事 アポロン通信会社員
既婚 旦那と二人暮らし
死因 刃物による刺殺
2人目
堀米 仁
5月20日生まれ 26歳
住所 祭市社区熊手13ー1ー8
仕事 神輿谷大学職員
未婚 一人暮らし
死因 マンションからの転落死
3人目
三役 伸介
12月22日生まれ 21歳
住所 神輿谷市帝区日吉6-6
仕事 白熊運送トラック運転手
未婚 一人暮らし
死因 交通事故
4人目
糸川 千代
3月1日生まれ 23歳
住所 神輿谷市芝区酒井8-4ー2
死因 毒殺
「共通点といえば住所が近い事くらいじゃない?」
「たまたまでしょうね。」
「センセーのところに相談に来るって段階である程度ふるいにかけられるからな。」
「じゃ、じゃあみんな20代なのは?」
「それもたまたまじゃないですか?」
「なんなのさっきから!黙ってるかと思えば否定ばっかして、もうっ!」
頭ごなしに否定ばかりする寺坂に龍歌が文句を言う。
「いや、みんな20代なのは少し気になるな。」
龍歌はほらみろとでも言わんばかりの顔で寺坂を見た。
寺坂は気にしていないようだ
「センセーのところに来る相談者の年齢層は幅広いからなー。」
若者ばかり【予言者】になってるのか、それとも若者しか【予言者】になっても相談に来ないのか。
「4人目について調べてみないと何とも言えないか。」
「免許証に書いてあったことしか分かってないですからね。」
神瀬は立ち上がり薄手のロングコートを羽織る。
「こんなくそ暑いのに上着なんか着るの!?」
「探偵にコートは必須なの。それに日焼けしなくていいぞ。ほら、龍歌も着てみろ。」
神瀬がコートを投げる。
「JKのコートなんて大きくて着れないわよ!あっ、でもいい生地。これなら暑くないわね。」
JKとは神瀬の愛称である。
その由来を知るものは少ないが神瀬がそう呼んでくれというので皆そう呼んでいる。
「龍歌はちっちゃいからな。」
「私がチビじゃなくてもJKのじゃ着れないわよ!」
たしかに龍歌は149cmと小柄である。対して神瀬は178cmと非常に大きい。
女性の平均身長からしても神瀬の服を着れる者は少ないだろう。
「栄養が足りてないんじゃないですか。」
「牛乳のめ。牛乳。」
「余計なお世話!もう伸びないわよ!」
今日はいつも以上に意地悪ね。
ふくれる龍歌をよそに神瀬たちは出かける支度をする。
「よし新、僕らは4人目の【予言者】の調査に行こう。龍歌はどうする?」
「私は大学に戻るわ。こんな暑いとこにいたら干からびちゃう。」
「じゃあ駅まで送っていこう。新、車出して。」
神瀬がそういうと寺坂は急いで車庫に向かった。