捜査①
ピンポーン
「おーい、結朱。きたぞー」
「お迎えありがとうございます。早速行きましょうか。」
そういって出てきたのは朱色の髪を靡かせるワンピースのよく似合う清楚系の美少女だった。
茜結朱は神輿谷大学の2年生で【レンタル大学生】の一員である。
結朱は時計職人の母と鍵職人の父の娘であり、その生真面目さや器用さを買われ【レンタル大学生】に加入した。
寺坂にピッキングを教えたのも彼女である。
彼女の主な仕事はピッキングと証拠品などの解析だ。彼女の器用さは随一のものであり、大学で彼女の右に出るものはいないだろう。
「まったく、新がもっと使える男ならなあ。結朱に頼ることもなかったのに。」
「え、俺十分頑張ってると思うんですけど…。」
「んなこと分かってるよ。」
神瀬は冗談で言ったのだが、それを真に受けて本気でガッカリしているような寺坂を見て適当にフォローをいれる。
もちろん寺坂だって冗談で言われたのは分かっているのだが、神瀬の役に立ちきれていない自分に失望しているのだった。
またこじらせてる…。
結朱は寺坂が神瀬に恋していることを知っている数少ない人物である。
寺坂は気づかれていることに気づいていないのだが、結朱はこっそりと彼の恋を応援している。彼の健気な努力を見ていて彼のことを応援しない者はいないだろう。
「着きました。ここのアパートの2号室です。」
ピンポーン
返事がない。
「やっぱ一人暮らしみたいだな。」
「平日の昼間ですしね。単に仕事でいないだけかも。」
どちらにせよ鍵を開けられる以上はその方が都合がいい。
「よし、さっそく調査開始といくか。」
「鍵開けるから待っててください。寺坂さんは自分で開けられるかやってみてください。」
そういうと結朱は自分のピッキング道具を寺坂に渡した。
「俺の技術で開けばいいですけど…。」
ガチャガチャ
「違う!そうじゃない!右じゃなくて左です!」
ははっ、頑張れ新。
結朱に叱咤される寺坂を見て神瀬は笑うのだった。
「もうっ私がやります。」
ガチャガチャ
「はい、開きました。」
「さすが。仕事が早い。新も見習ってくれ。」
「は、はい…。」
露骨にしょんぼりしている新を見て結朱は少し申し訳ない気持ちになる。
寺坂さんに開けさせてあげればよかったかな。
とはいえ寺坂ではいつ開くか分からなかったので仕方ない。
「じゃあ僕は見張ってるから、二人で調査してきてくれ。」
「え、私たちで調査するんですか?」
「だって新たには瞬間記憶があるだろ?だから調査役確定。で誰か来たとき、僕は結朱より隠れるのに苦労する。第一結朱じゃ隠れてる僕を助けることができないだろ?」
「それもそうか…。」
「電話で指示するから。一通り確認したら出てこい。気になるものがあったらちゃんと写真撮ってこいよ。あ、それとこんな感じの赤いマークを見つけたら言ってくれ。」
そういって神瀬は三角錐を紐で巻いたようなマークを見せた。
「分かりました。では行きましょう茜さん。」
神瀬は近くに停めてある車にもどり、寺坂たちは玄関のドアを開けた。
「おじゃましまーす…。」
『どーだ、玄関の様子は。』
「かなりきれいですね。」
『男物の靴とかないか?』
「とりあえずは見当たらないです。」
『靴は何足くらいある?』
「えーと…6足ですね。」
男物の靴はなしで6足か。
概ね一人暮らしで間違いないだろう。
『他になんかないか?』
「靴箱の上に石が並べられてます。風水とかですかね。」
『よくわからんがとりあえず写真撮っとけ。』
「はい。あとは特にないです。」
『じゃあ一番手前の部屋入れ。』
「えーと、風呂ですね…。げっ、結朱さんと代わります…。」
「あ、代わりました。」
『まったく、これだから童貞は…。』
「許してあげてください。入ったらすぐ下着がありました。」
『その程度で逃げ出すとは情けない…。』
「聞こえてますよ!」
神瀬の情けないという声に寺坂が反応する。
寺坂はモテはするが、女性に対する耐性というものがなかった。
そんなんじゃJKとの関係も進展しないですよ。
結朱はそう思ったが言うことはしなかった。
「とくに怪しいものは無いですね。」
『一応写真は撮っといてくれ』
「はーい。トイレも特になんもないですね。」
『次はリビングだな。』
「じゃあ寺坂さんに代わりますね。」
「全体的にきれいで、これといったものはないです。」
『棚も押し入れも全部開けて写真撮っとけよ。少しでも情報が欲しいんだからな。』
「机の上に薬が置いてありますね。」
『なんの薬だ?』
「分かんないです。名前も書いてないですね。写真撮ってきます。」
『いや、薬は持って帰って来い。』
「え、いいんですか?」
『どうせ誰かにばれることはないさ。』
「それもそうですね。それと名刺が見つかりました。」
『それも持って帰ろう。』
「そうですね。」
そういうと寺坂は薬と名刺をポケットにしまった。
『どこの会社で働いてるか分かったか?』
「白熊運送ですね。」
白熊運送か…。3人目の【予言者】と同じだな。
『さっき見せたマークの描いてあるものは見つかったか?』
「えーとさっきどこかで…あ、ありました。花瓶に描いてあります。でもこれなんのマークですか?俺見たことある気がするんですけど。」
ビンゴだ。
神瀬はニヤリと笑った。
それが見つかっただけで収穫はあった。
『新が見たのは僕の事務所でだ。他にそのマークのものはないか?』
「他は見当たらないですね。」
たまたまか、それとも関連があるのか。
もう一度他の【予言者】の家に行ってみた方がいいかもな。
「凜さん、写真撮り終わりました。」
『よし、さっさと撤収しよう。』
そういって神瀬は電話を切った。