グリとグラの記憶
窓口で働く私は、毎日様々な事情で部屋を探している人々と出会う。そんな日常の中で、特に印象に残ったのは、F太さんとG次さんという80代の双子の男性の物語だ。
彼らは数年前から当店のアパートに住んでいて、事務所内では愛情を込めて『グリとグラ』と呼んでいた。絵本のキャラクターにちなんだこのあだ名は、二人の可愛らしさを象徴していた。お客様には決して口にしないが、私たちにとって彼らは特別な存在だった。
それぞれがアパートの異なる部屋に住んでいたが、毎月の家賃は何かのついでに二人で一緒に持参してくれる。高齢のため、私が集金に伺うこともできるが、彼らの健康を考え、体を動かす大切さを理解している私は、様子を見ながら声をかけることにしていた。何より、元気な顔を見ることができるのは、私にとっても安心材料だった。
だが、ある日、いつものように家賃を持参するはずの二人が現れなかった。嫌な予感が胸をざわつかせた。上司に相談し、彼は「安否確認をしましょう」と決断した。私は心配しながらも、上司の行動を見守った。
F太さんは無事に部屋にいたが、G次さんは残念ながらお亡くなりになっていた。その日、F太さんはG次さんと連絡が取れず、不安に思っていたという。上司の迅速な対応のおかげで、警察も事件性はないと判断した。
その後、F太さんは一人でアパートに住むことになったが、やがて彼は心身ともに弱っていき、退室せざるを得なくなった。G次さんが先立ってからのF太さんの変化は、まるで時間が彼の体を蝕んでいくかのようだった。
私たちは、夫婦や家族、大切な人と支え合って生きているとき、どれほど大きな力を得ているのかを再認識した。そして、その存在が欠けてしまうと、人はいかに脆くなるのかを思い知らされた。時の流れは残酷で、愛する人との別れは、心に深い傷を残す。
私は、この経験を通じて感じたことを胸に、限られた人生の時間を大切に生きていこうと決意した。F太さんとG次さんの思い出は、私にとって特別な宝物となり、彼らの名も、私の心の中で永遠に生き続けるのだろう。