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冷やかしの訪問者

土曜日の午後、薄曇りの空が広がる中、アパート賃貸の窓口である私の事務所の扉が静かに開いた。中肉中背の男性、C田さんが顔を覗かせた。彼は50代と見受けられ、どこか落ち着いた雰囲気を持っている。彼が部屋を探しているとのことだった。


「どうぞ、お座りください」と私は来客用の席に案内した。彼は少し緊張した様子で、希望の住所や間取りについて尋ねてきた。急ぎで探しているのかと思い、数件の物件を紹介する。C田さんは店内の物件情報を見回しながら、「他にはありませんか?」と疑問を投げかけた。


「希望の住所じゃなくても良ければ、いくつか他の物件もありますが」と私が答えると、彼は興味なさそうに「ふーん」と呟き、再び物件情報を見て歩いた。どうやら彼は急いでいるわけではないようだ。


大抵の急ぎではないお客様は、物件情報を確認したらすぐに帰るものだが、C田さんは違った。彼はじっくりと時間をかけて、情報を吟味しているようだった。今日は土曜日で、上司は外出中。事務所には私一人しかおらず、静かな時間が流れていた。


その時、電話が鳴った。私はC田さんに「気になる物件がありましたらお声掛けください」と伝え、来客席を離れて電話に対応した。電話応対が終わると、C田さんが私を呼んだ。彼は世間話を始めたが、私が話をお部屋探しに戻そうとすると、また話題は逸れていった。


この繰り返しに少々疲れを感じながらも、私は気持ちを切り替え、「今ご紹介できる物件は先程お伝えしたものになりますので、まだ引っ越しまで日にちがあるようですね。新しい物件が開くこともありますので、後日またご来店いただければと思います」と微笑みながら伝えた。


するとC田さんは、意外にも「また来るね」と言って退店していった。彼の背中を見送りながら、私は思わずため息をついた。色々なお客様が来店するが、C田さんはどうやら「冷やかし」の一人だったようだ。


賃貸不動産の窓口に立つ私にとって、一般的な引っ越しや、急遽部屋が必要な方々の事情は常に考慮すべきものだ。その中で、冷やかしに遭ったことに少し嫌な気持ちを抱いたが、彼もいつか本当にお部屋探しが必要になるかもしれない。そう思うと、無下にするわけにはいかないお客様であることに変わりはない。


気持ちを落ち着かせ、私は再び業務に向き合った。こうした日々も、私の仕事の一部なのだ。どんなお客様も、それぞれの背景を持っている。こんな日もあると、私は自分に言い聞かせた。

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