小鳥の声が響く部屋
アパート賃貸の窓口で働く私の日常は、様々な事情を抱えた人々が訪れることで成り立っている。今回は、特に心に残るR子さんのお話をしたい。
R子さんは80代の女性で、彼女の部屋には一羽の小鳥が住んでいた。身寄りもなく、彼女は高齢者の一人暮らしとして当店のアパートに暮らしていた。私たちのスタッフは、定期的に訪問して元気を確認するという取り組みを行っていた。外回りの従業員が訪れる際、R子さんの様子を見に行くのだ。
彼女はいつも笑顔で迎えてくれた。玄関先での訪問では、奥から小鳥の可愛い声がピチチチと聞こえてくる。元気確認とは、彼女のように一人暮らしの高齢者の方々の安否を気遣うためのものである。市や福祉の方々のサポートもあるが、孤独死という現実はなかなか避けられない。訪問した際に応答があると、こちらも安心する。
ある日、私はR子さんの元へ訪問した。いつも通りにインターフォンを押すと、彼女はゆっくりと応答し、ドアを開けてくれるはずだった。しかし、その日、ドアポストには新聞や郵送物がそのまま刺さっていた。再度インターフォンを鳴らすが、音沙汰はない。何かあったのではないかと、私は上司に状況を報告した。
上司の指示のもと、警察に連絡し、安否確認を行うことになった。室内からは相変わらず小鳥の鳴き声が聞こえてくる。リビングのソファには、眠っているかのように横たわるR子さんがいた。いつもの生活風景の中で、彼女の時だけが止まっていた。警察による発見確認の後、R子さんは静かに運ばれていった。
後日、事件性はないとのことで、R子さんの葬儀は市の方で執り行われた。
彼女のいなくなった部屋を片付ける手配をしなければならなかった。しかし、残されたインコをどうするべきか悩んでいると、当店の事務員の一人が言った。「主人がいなくなって可哀想に。私がこの子を引き取ろうと思う。」
その言葉に、私は心が温かくなった。事務員の優しさと、生き物を引き取る覚悟が感じられた。事務所内には、ほっこりとした雰囲気が広がった。
縁あって当店に入居されたR子さん。その家族とも言えるインコは、新たな主人のもとで少しずつ元気を取り戻していくだろう。私はR子さんの冥福を祈りながら、避けられない孤独死について、私たちができるもっと良い対策はないものかと考え込み、再び業務に戻った。