ゴミ屋敷の彼
ある街の静かなアパートの窓口で、私は日々さまざまな事情を抱える人々と出会っていた。その中でも特に印象に残っているのが、60代の男性、Q杉さんの存在だった。彼は10数年当店のアパートに入居しており、仕事も順調そうで、いつも忙しそうに見えた。彼が家賃を支払いに来る姿は、どこか充実感に満ちていた。しかし、彼には一つの大きな問題があった。それは、片付けができないことだった。
私たちのアパートでは、定期的に巡回を行い、住居の外見を確認している。大抵の部屋はカーテンが掛けられ、外から見ても特に問題はないのだが、Q杉さんの部屋は異様だった。窓にはカーテンが張り付いており、窓縁には荷物やゴミが積み重なっている様子が見受けられた。それを見たとき、何かしらの危険を感じた。
訪問を決意し、Q杉さんに連絡を取った。彼は少し戸惑いながらも立ち会うことに同意した。訪問してみると、玄関の内側を一目見ただけで、彼の部屋がゴミ屋敷と化していることが明らかだった。部屋の中を進むにつれて、床の高さがどんどん上がっていき、奥の部屋には物が山のように積み重なっていた。リビングにはテーブルと布団があるものの、実際に使えるスペースはわずか2畳ほどで、その他は腰まである荷物で埋め尽くされていた。
担当者が彼にこの状況をどうしてこうなったのかを問うと、Q杉さんは苦笑いを浮かべながら言った。「仕事が忙しくて、なかなか家の片付けができなくて、気づいたらこんな状況に…」彼の言葉には、焦りと申し訳なさが滲んでいた。
このままでは部屋が傷んでしまうと判断した担当者は、私たちのアパートで行っている片付け代行サービスを提案した。「一度綺麗にしませんか?」と。Q杉さんは、申し訳なさそうにうなずき、「お願いしたいです」と告げた。
こうして、私たちはQ杉さんと共に片付けを行うことになった。私を含む5人の従業員が現場に向かい、驚きの光景を目にした。部屋の広さが少なくて救われる思いだった。これが一軒家だったら、1日では到底終わらないだろう。
作業は淡々と進んでいった。必要なものと不要なもの、ゴミを分別しながら、3〜4時間の作業で、あれほど散らかっていた部屋は見違えるように綺麗になった。床が見え、部屋のあるべき姿が現れた。清掃を終えた後、Q杉さんは感謝の言葉を何度も繰り返した。
しかし、数カ月後の巡回点検で、再び同じ状況になっていることを発見した。私は心の中でため息をついた。これを繰り返すことが数年続いていた。Q杉さんの片付けができないという問題は、彼一人の努力では解決できないことが明らかだった。そこで、私たちは月に一度の訪問を行う管理契約を結び、彼のサポートをすることになった。
人には得意不得意がある。Q杉さんの不得意を支えることで、少しずつ問題が解決されていくことを願った。今日も彼は元気に当店に家賃を支払いに来る。彼の人生をより良いものにするためには、住まいが綺麗であることが必要不可欠だ。私たちはこれからも、彼の背中を押していきたいと思っている。