逃げ出し先に2
ある日の午後、店の扉が開き、5人の男達が重い足取りで入ってきた。彼らの目には、どこか死んだ魚のような光が宿り、互いに無言のまま視線を交わした。彼らは、ある施設から逃げ出してきた者たちだった。
彼らの背景を尋ねると、様々な事情が絡み合っていることがわかった。家族とは縁遠く、みな孤独に生きてきたことが見えた。中には、A市ではない地域から移り住んできた者もいた。そして、彼らの口から次々と施設への不満がこぼれ出た。
「1,000円もらっても、食費に消えるだけだ」
「ここにいると、何も考えられなくなる」
「携帯すら持てない」
「社会復帰したい」
「自由がほしい」
「この施設はおかしい」
彼らの話を聞くうちに、私は彼らが某施設に金銭的に搾取されているのではないかと考え始めた。生活保護は、最低限の生活を守るための制度であるはずなのに、彼らには1日1,000円、月に換算すると約3万円の食費しか支給されていなかった。彼らは、社会復帰を望む一方で、その自由を奪われ、利用されていたのだ。
驚きと同時に、彼らが部屋を必要としていることが明確に伝わった。頼れる身内もいない彼らのために、私は社長に面談を依頼した。社長に事情を説明すると、彼もまた驚きを隠せない様子で言った。
「貴方たちの自由を奪う権利はないよね。当店の部屋から新たに生活を立て直していってほしい。それぞれ頑張ってください」
その言葉を聞いた瞬間、彼らの表情が変わった。死んだ魚のような眼差しが、明るい希望の光を宿したのだ。
彼らは、近くの地域に住みたいという希望を持っていた。私はそれぞれ別々のアパートを探し、内覧を手配した。彼らが内覧に出かけている間、私は某施設に連絡を取り、退所の手続きを確認した。一般的に、施設を退所するには施設長の許可が必要だが、意外にもあっさりと許可が下りた。第三者が介入したことで、彼らがどうしようもなかった問題が動き始めたのだ。
内覧から戻った彼らに、私は市や施設への必要であろう手続きを簡単に伝えた。細かな説明などは当店ではできない。彼ら自身で切り開いていく一歩だ。
そして、無事に5件の部屋の契約を終えた。彼らは今日から、それぞれ自立した生活を始めることになった。退店前、5人揃って「ありがとうございます」と言ってくれた。その瞬間、私も思わず「こちらこそ、ありがとうございます」と一礼した。
彼らが社会復帰を果たす日は、決して遠くないだろう。そう感じながら、彼らを見送った。貧困ビジネスという言葉は耳にしたことがあったが、身近にも潜んでいることを知り、少し怖さを覚えた。人は弱っている時ほど目先の誘惑に惑わされやすい。誰にでも起こり得ることなのだ、と心の奥底で思った。