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希望の光1

ある町の小さなアパートに、当店の社長が一代で築き上げた賃貸業があった。彼の名は田中。かつてはサラリーマンとして安定した生活を送っていたが、ある日、自らの運命を変えようと脱サラを決意し、ひとつの中古アパートを買い取った。それが、彼の新たな人生の始まりだった。


しかし、田中はすぐに厳しい現実に直面することになる。大手の不動産会社がひしめく中、思うように集客ができず、彼のアパートには空き部屋が広がっていた。最初は業者に設備交換を依頼したものの、建物の補修や清掃などを自分でやることになる。彼は寝る間も惜しんで作業に追われた。それでも、入居者は一向に決まらず、維持費だけがかさむ日々が続いた。


「このままでは廃業するしかないのか…生きていけなくなるかもしれない」と、田中は不安に苛まれた。


そんなある日、彼はふと思った。「人任せにしているからダメなんじゃないか?」その疑問が心に残る中、運命的な出会いが訪れた。


それは、60代ほどの男性だった。彼は住む家も家族もなく、路頭に迷っていた。田中はその男性に、自身のアパートが空いていることを伝え、「住んではどうか?」と声をかけた。


「職もなく、家賃も払えない。迷惑をかけてしまう」と、男性は涙ながらに答えた。田中は心を痛め、「貴方はこのままでは死んでしまうかもしれない。ひとまず部屋を貸してあげるから、市に相談してみないか?何とかしてくれるかもしれない」と励ました。


男性は頷き、後日、二人は市役所に相談に行くことになった。そこで田中は【生活保護】という制度があることを知った。男性はその後、支援を受けることで新たな職に就き、生活を立て直すことができた。


その瞬間、田中の心にぼんやりとした考えが確信へと変わった。世の中には様々な事情を抱える人々がいて、家がないと働くことも難しい。彼らがアパートに住んでくれれば、私は家賃が入り、彼らの人生も変わる。地域からホームレスがいなくなることは、まさに三方良しの結果ではないか。


この出来事をきっかけに、田中は経営スタイルを独自のものに変えていった。人生には様々な背景を持つ人がいる。保証人をつけられない人、働き口がなくお金がない人。田中は、他の不動産では受け入れられない人々を受け入れようと決意した。


まずは、情報誌に短い広告を掲載した。すると、事情が異なるものの、住む家を失った人々からの問い合わせが増えていった。田中は、彼らとの面談を通じて、どのように生きてきたのか、その人の背景を独自に判断し、入居を受け入れるシステムを築いていった。


リスクはあったが、他社ができないことをやることで、田中のアパートはその年に満室となり、彼は大家として賃貸業を運営できるようになった。翌年にはアパートを数軒増やし、独自のスタイルで契約を進めていった。


田中は、事情があって入居した方々の元に定期的に顔を出し、声をかけていった。初めて会った日から見違えるように元気になるお客様の顔を見るのが、彼にとって何よりの喜びだった。


こうして、田中のアパートはただの賃貸物件ではなく、希望の光を求める人々の拠り所となっていった。彼の物語は、まだ始まったばかりである。

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