最終席:魔王を討伐するぞ
「どもー、異世界 航です」
「異世界 拓ですぅ」
「二人合わせて」
「「ワタル&ヒラクです!」」
「さぁワタル、いよいよクライマックスだぞ」
「ついに魔王と戦うのか」
「極悪非道なラスボスを倒して世界を平和に導くのだ」
「――」
「痛ぇな!なぜ殴る」
「なんかムカついたから。とりあえず進めてくれ」
「来ちゃった♡」
「貴様、何者だ」
「A級冒険者イセカイ ヒラクだ。お前を倒すためにここまで来た」
「ふむ、首からぶら下げてる木札には【D】と書いてあるように見えるのだが?」
「こ、これは更新を忘れてただけだぞ。本当だぞ」
「まぁ貴様が何級でも知ったことではないが、盛ったのがバレるのは恥ずかしいな」
「……一度言ってみたかったんだよ!D級になるのだって大変だったんだから……」
「素直なのは良いことだ。で、どうやってここまで来た?」
「ポンコツ勇者とその取り巻きが城外で大暴れしてるから、それを陽動にして潜り込んだのさ」
「多重障壁術を掛けた城門が、あれほど簡単に破壊されるとは思わなかったからな」
「俺も危うく巻き込まれて、瓦礫と一緒に別次元へ飛ばされるところだったわ」
「こそこそと城に潜り込んだところで、我が近衛が貴様のようなネズミ一匹に倒されるとは思えんが」
「四天王を名乗っていた皆さんなら、その扉の外で待機してるけどね」
「なに?」
「成り行き次第で自分たちの今後が決まるから、ドキドキしてんるんじゃないかな?」
「どういうことか説明しろ」
「順を追って話すとだな、城に入って最初の扉を開けたら密林が広がってるんで驚いたところからかな」
「部下が戦いやすいように空間を拡張しているのだ」
「へー、魔王も時空系の魔法を使うのか。勇者と似てるな」
「【勇者 ドリュガル】か。……ヤツは私の異母弟だからな」
「なんだと!?そんな重要な情報を何の伏線もなく出していいのか?」
「先代魔王がお忍びで帝都に遊びに行ったとき、人間の女を見初め城へ攫ってきた」
「おーい、聞いてる?」
「美しい娘だった。父は彼女に夢中になり、やがて産まれたのがアイツだ」
「ダメだ、完全に自分の世界に入ってる」
「そのおかげで、母は……くっ」
「かなりストレス溜まってたんだね。かわいそうに、魔王のお母さんは捨てられちゃった?」
「いや、その女と組んで先代魔王を叩き出し、城の財産を使いまくって喰っちゃ寝の生活をしてたら太りすぎた」
「そ、そうなんだ……じゃぁなんで魔王の弟はあんなになっちゃったの?」
「成長するにつれて、父親に顔が似てきただの、父親と同じクセがあるだのとからかわれてたから、かな?家を飛び出して暫くぶりに帰ってきたら勇者になっていた。中二病だったのだろう。」
「弟君のこじらせにも同情の余地はあるか。それにしても人間と魔族の存亡を掛けた戦いかと思ってたら、ただの家庭内の揉め事だったとは。ヤマトの話と全然違うし」
「慣れない魔王業にかまけてケアができなかった私にも責任はあるが、そんなことより話の続きだ」
「自分から話を振ってきたくせに」
「密林では無類の強さを誇るグレートボアのニョロ吉をどうやって倒したのだ?」
「名付けのセンスが壊滅的だな。密林を暫く進むと良い匂いがしてきたので、覗いてみたらニョロ吉が食事の準備をしていた」
「人間どもが攻めてきているというのに、緊張感のないヤツだ。まぁ美食がヤツの唯一の楽しみだから、仕方ないか」
「寛容な上司で羨ましいな。そこで俺は【カース オブ ティース】を発動した」
「私も知らない魔法、いや呪術か?」
「口の中を噛んで口内炎ができるのさ」
「そんな程度で?」
「だが、あれだけ長い牙を持つ者が噛むと」
「うっ」
「そう、上顎と下顎が縫い付けられてもの凄く痛い。俺の姿を見て『きさまなにものだ』と言い終わるまでに五回は噛んだし、それ以来口を開いてないかな。今後、美食家としては死んだも同じだ」
「なんて無慈悲な……だが次のアイアンゴーレムの岩太郎に口はないぞ」
「鉄なのか岩なのか解り難い名前だな。次の扉を開けると、岩石地帯の百メートルほど先に岩太郎が見えたので【カース オブ コーナー】を唱えた」
「そ、それは」
「障害物の傍を通るとき、足の小指をぶつける」
「ゴーレムにそんなものが効くものか!」
「そう思うだろう?しかしこの呪いは質の悪いことに、ただでさえ痛い小指の痛覚を数百倍に増幅するんだよ」
「うわ、きっつ!」
「俺の前に来るまでに何回ぶつけたは知らないが、たどり着いたときには既に土下座の体勢に入ってたな。もはや岩太郎が岩石地帯を歩くことは不可能だ」
「あのセットに掛けた金が無駄になると思うとゾッとするな。しかし次のファイアーバード ピーちゃんには牙もなく、空中に障害物もないだろう」
「名前のことはもういいや。そこで使ったのが【カース オブ パスト】さ」
「過去の呪いか。それはどんな術なのだ?」
「自分の黒歴史を鮮明に思い出す」
「は?それだけ?」
「その内容は俺にも見えちゃうけどね」
「それは恥ずかしいな。しかしそれで相手を倒せるとは思えんが……」
「自分の恥ずかしい過去を見たらどうなると思う?」
「顔や背中に嫌な汗をかく――」
「ふっ、あの燃え盛る体に水が触れたら何が起こるかな?」
「水蒸気爆発か!」
「その通り。外からの水は蒸発してしまい体までは届かないが、体から出た汗はその場で爆発を起こす。ピーちゃんの肌はもうボロボロさ」
「どれだけ恥ずかしい過去を見せられたらそうなるんだ」
「ヤツの名誉のために詳しく言うことはできないが、例えばメスのヒヨコの写真集を集めてる、とか」
「ピーちゃん、ロリコ――」
「そこまでにしてやれ」
「最後はサキュバスのエルファリエだが、彼女に酷いことはしてないだろうな?」
「名前がまともで良かった。彼女、妊娠しているんだろう?」
「そうだ、よく判ったな」
「外の騒ぎを聞きながら、心配そうにお腹をさすっていたからな。育児ができないように|肌荒れの術《カース オブ ディッシュウオッシング》を掛けてやろうかと思ったけど、他の連中の力も借りて説得を受け入れてもらったから何もしてないよ」
「そうか、良かった。だが!お前を斃せば呪いも解けるのだろう?」
「どうかなぁ。俺の術はこっちの世界に渡るときに神様から直接貰った特殊なものだから、俺が死んでも残るかもよ。治癒魔法も効かないし」
「お前、異世界人か。くっ、そんな危険な賭けに出るわけにはいかないか」
「エルファリエのお腹の子の父親は魔王だろう?もうこんな戦いは止めないか?」
「いや、私は父親ではない」
「またまたー。嫌がる彼女を上司の権力で無理やり孕ませちゃったとしても、美男美女でいいじゃないか」
「失礼な!私はそんなブラックな上司ではない。それにこう見えて私は女だ」
「――マジか!?」
「だがお前の言うことにも一理ある。無駄な争いは避けるべきだな。……これを」
「なんだ、そのごついナイフは。やっぱりやんのかコラ」
「これは刺した相手の魔力を吸収して時間を巻き戻す魔道具だ」
「それでどうしろと?」
「私を刺せ。過去へと戻り弟を可愛がってやればこんな悲劇的な事態は防げるかもしれない。お前も元の世界に戻れるだろう」
「元の世界かぁ、あまり未練はないんだけどな。しかし、なぜ今までやらなかった?」
「このナイフは相手の魔力を際限なく吸収する。私の魔力量ではどこまで戻ってしまうか判らないが、お前が異世界人なら元の世界へ戻った時点で巻き戻しも終わるだろうからな」
「なるほど。で、今までの記憶は残るのか?」
「刺した方は全て憶えているが、刺された方に未来の記憶はない。ただし、今回は私の記憶も残るように特殊な術を掛けておくよ」
「そうか、それじゃ行くぜ」
「軽いやっちゃなぁ」
「ていっ!」
「痛ったァ――」
………………
…………
……
「はっ、ここは……あの交差点の手前か!――日暮里よ、俺は帰ってきた。これで明日はステーキの大食い大会に……行くのは止めてネタでも創るか」
――幕――