第五席:王様、人を集めてるってよ
「どもー、異世界 航です」
「異世界 拓ですぅ」
「二人合わせて」
「「ワタル&ヒラクです!」」
「なぁワタル、俺、魔王を倒してヒーローになりたいんだけど」
「魔王って強そうだよな。お前の力じゃ無理じゃない?」
「だから仲間を集めてパーティを組んでだな」
「お前が足手まといになって追放される未来しか見えない」
「……的確な助言をありがとう」
「事実を指摘されたからって落ち込むなよ」
「しかたない、ここは尊敬する師匠の教えに倣うか」
「師匠って誰?私の知ってる人?」
「コバンザメ」
「あぁ、ねぇ」
「うわぁ、立派な城門だな。この城でいいのか、そこに立ってる兵隊さんに聞いてみよう。こんにちは」
「なんだ、貴様は?」
「私、冒険者のヒラクと申します。魔王討伐のために人を集っている城っていうのはここですか?」
「そうだ。勇者様を中心に志願者が集まっているぞ」
「勇者が来てるんですか?」
「様を付けんか、木っ端冒険者風情が」
「見下し感が酷いな。勇者様はどんな人なんですか?」
「高貴な雰囲気を持つお方だ。パーティの皆さまも一騎当千の方々だし、これで魔王も終わりだろう」
「そうですか。ところで魔王の方はどんな悪党なんです?」
「詳しくは知らんが残虐で非道なヤツなんだろうさ、魔王っていうくらいだし。それに魔王城には金銀財宝が山のように集められてるらしいぞ」
「人間から奪って蓄えているんですね。それは許せないな」
「いや、そんな被害届は出ていないが、その財宝を取り戻せば城の苦しい台所事情も改善するという勇者様の言葉に陛下が乗り気になったと聞いている」
「なんだか闇が深そうな話だな」
「で、お前はなんの用だ?」
「俺も魔王討伐隊に参加したくて参りました」
「ふーむ、お前程度でも勇者様の肉盾くらいには使えるか。通っていいぞ」
「期待値も低いな~」
「ピピッ!……なに?それで……そうか、分かった」
「どうかしましたか?」
「魔導通信が入った。どうやら魔王の手下が陛下と勇者様の動向を調べるために潜入したらしい」
「それは一大事じゃないですか!」
「勇者パーティのスカウト、ルーカス殿が発見して勇者様ご一行が退治に向かったので安心していいぞ」
「じゃぁ騒ぎが片付いてから城に入るか――」
「ガラガラ!ピシャーン!!ドゴーン!!!」
「どうしたんですか、急に」
「あぁ、凄い音がしたな」
「いや、あんたが突然喚き出したんだろうが」
「あれを見ろ、城の天辺が丸焦げだ」
「魔物の攻撃ですか!?」
「いや、あれは魔法使いアリス♥殿の【ハイパーウルトラアルティメットサンダーストーム】だろう」
「頭の悪そうなネーミングだなぁ。しかもサラッとスキャンダラスなネタまでぶっこんでるし」
「スパーン!!プシューン!サラサラサラ……」
「今度はなんです?」
「あれは間違いなく勇者様の究極斬撃【バニシングスラッシュ】だ。これは時空魔法の応用で、敵を周囲の空間ごと切り取って異次元に――」
「この人、かなりの勇者オタクみたいだな。って、城が半分消えてるじゃねーか!」
「ピピッ!……なんだと!?まさか、そんな……それで今後は……ああ、そうか――」
「深刻そうだな。何か問題でも?」
「陛下が崩御され、皇太子殿下も亡くなられた。くそう、魔物どもめ」
「いや、どう見ても勇者の一撃が原因だろ。それで敵は?」
「潜入した角ウサギは裏の生け垣を破って逃げたそうだ」
「またウサギ!?城を消し飛ばしておいてホーンラビット一匹倒せなかったのか。しかも裏は生け垣って、ホントに金がないんだな~この城」
「陛下の件は慙愧に耐えないが、勇者様のおかげで危機は去った。不幸中の幸いとはこのことだ」
「不幸と幸いのバランスが悪すぎる」
「そして勇者様は憎き魔王を討伐の後に第一皇女リーリン様(8才)と婚姻を結び、王として戴冠されるとのこと。なおアリス♥殿は側室に決定したそうだ」
「勇者ヤベー。ただの強盗兼簒奪者にしか見えねぇぞ」
「即時討伐隊を組織するそうだから、参加するならお前も急いだほうがいい」
「まぁ国民が納得するならそれでいいか。それじゃぁちょっと行ってくるわ」
「危険な任務になるが、怪我には気を付けて良い肉盾になれよ」
「いやそれ矛盾が酷いな。いい加減にしろ」
――幕――