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第四席:冒険者になろう

「どもー、異世界 航(いせかい わたる)です」

異世界 拓(いせかい ひらく)ですぅ」


「二人合わせて」

「「ワタル&ヒラクです!」」


「なぁワタル、異世界行ったらやっぱり目指すはSランク冒険者だよな」

「モブキャラになってスローライフとか悪役キャラだけど静かに生きようとか色々あるけど、ヒラクはそっちがいいのか」


「だってあいつら、今度こそ俺は静かに暮らすんだーとか言いながらそんな素振りもない、ただの性格破綻者じゃん」

「あくまで個人の感想ですからね」


「まずはギルドに行って、受付の姉ちゃんと仲良くなろう」

「下心が丸出しだな。でも登録は忘れるなよ」



「しょぼいとはいえスキルも貰ったし、かねてからの計画を実行するか。――ただいま、母さん」


「お帰り、アレン。スキルはちゃんと貰えたかい?」

「ああ、それでちょっと話があるんだ」


「お前の考えてることは解ってるわ。でもそれはダメよ。絶対にダメ!」

「でも母さん、俺はもう冒険者になるって決め――」


「ウチのミーコはね、そりゃぁ体は大きいし途轍(とてつ)もなく強いけど、やっぱり猫は猫なんだよ」

「うん?」


「町の闘犬大会程度じゃ無敵だろうけど、猫ってバレたら大変な罰則金を取られるんだ」

「んんん?」


「それともお前は猫を犬に偽装できるスキルでも貰ったのかい?」

「いや、違うけど」


「ちっ、それじゃやっぱりダメじゃないか」

「舌打ちって。もしかして偽装スキルに期待してた?」


「父さんが家を出て行ってからウチも大変なの。家計の助けになるなら何でもやりたいのよ」

「父さん、名のある冒険者になりたいって出て行ったんだよね?」


「まったく、いつか魔王を倒すんだ、とか夢みたいなことばっかり言ってさ」

「でも強かったんでしょ?」


「全然。【怪力】のスキルなんて大木一本を引っこ抜くのが精々だもの。いつだってアタシの【剛力】に泣かされてたのに」

「母さん凄ぇ」


「で、ミーコのことじゃないならなんの話?」

「俺も父さんと同じく、冒険者になりたいんだ」


「お前も私たちを置いて出ていくのかい?」

「ごめん、母さん。でもこれは俺の夢なんだ。兄貴も賛成してくれてる」


「まぁお前がいなくなれば食い扶持も減って少しは楽になるし、ミーコにもちょっとは良いものを食べさせられるようになるから、いいんじゃない」

「なんか思ってたのと違う」


「なに泣いてんのよ。でも【僕】とか言ってたのが洗礼から帰ったら【俺】だもんねぇ。男の子はちょっとの間に見違えちゃうわ。頑張りな」

「ありがとう、母さん。それじゃぁ俺は町のギルドに登録したら、そのまま旅に出るよ」


「そうかい。これは父さんが修行に使ってた【ヒノキの棒】だよ。餞別代わりに持っておいき」

「……ありがとう、母さん。ついでに一ついいかな?」


「なんだい?」

「俺、改名したいんだ」


「なんだって!?私の元カレの名前が気に入らないってのかい」

「そんな由来があったのか。父さんは知ってるのかな?――実は洗礼式でスキルを貰うときに神様からお言葉をいただいたんだ」


「なんて言われたんだい?」

「『お前は英雄への道を切り開いて生きる相を持っている。【ヒラク】という神名を与えよう』って」


「神様に言われちゃしょうがないね。まぁ別の元カレにも同じ名前がいたし、そっちでもいいよ」

「同名のヤツがここにも!?」


「気を付けて行くんだよ、ヒラク」

「馴染むの早っ!」



「ここが冒険者ギルドか。昼間のせいか人が少ないな。……でもなんだか裏の方が騒がしいような」


「いらっしゃいませ、何かご用ですか?」

「あ、受付のお姉さん。冒険者の登録をしたいんですけど」


「文字は書けますか?名前と数字くらいですけど」

「はい、大丈夫です」


「ではこの登録用紙に必要事項を記載して提出してくださいね」

「紙とかペンとか普通にあるんですね、凄いなぁ。俺の村じゃ滅多に見られませんよ、こんなの」


「それは創造主様の都合ですから」

「は?」


「だからぁ、この文明レベルなのに紙がどうとかガラスがなんだとか、砂糖が、塩が、胡椒が普通にあろうが、下級冒険者風情がファッション性の高い服やらレースの下着を身に着けてようが、それは全て創造主様の頭の中で整合が取れてればいい話なんです!」

「解りました、わかりましたらから少し落ち着いてください。……にしても下級冒険者風情って」


「申しわけございません、この手の話になるとちょっと熱くなってしまって。」

「眼が怖かったですよ。しかし人が少ないですね。新人は古参の冒険者に手痛い洗礼を受けたりするのかと思ってました」


「ここのみんなは優しいですから、そんなことはしませんよ。それに今日はちょっと問題が起きていて」

「なにかあったんですか?」


「ギルドの裏庭にモンスターが入り込んでしまって、マスター以下全員で捕獲作業中です」

「え、こんな街中でヤバくないですか?しかもマスターまで参加してるってかなり強い魔物ですよね?」


「マスターがペットにしてる角ウサギ(ホーンラビット)が脱走したんですよ」

「あ、悲鳴が聞こえる。あんな弱い魔物に全員出動って、大丈夫かなここのギルド」


「はい、これがギルドカードです。これでアレンさもFランク冒険者です」

「どうすればランクを上げられますか?」


「薬草集めとか弱い魔物退治をやっていればDランクくらいにはなれますから、無理せず命は大事にしてください」

「ありがとうございます。カードは木札に名前とランクが彫ってあるだけなんですね。それと裏側にギルドの焼き印ですか」


「薄い樹脂製のカードに血を一滴垂らしただけで討伐した魔物の自動登録とかキャッシュカード機能とか果ては通信までこなすなんていくら魔法があっても無理だと思いませんか?だいたい樹脂製ってなんだよ、この世界にはプラスチックも成形機も金型もねーつうの。それに――」

「あーもう、すみませんスミマセン私が悪うございました。あ、ほらみなさん帰って来ましたよ」


「お疲れ様でした。ウサちゃんは脱走中に変なものを食べてないか獣医さんに診てもらいます。みなさんもかなりダメージ受けてますね。治癒魔法を掛けてもらってからお風呂をどうぞ。サウナと魔導マッサージ機もご自由にお使いください。脱衣所にはタオルと浴衣も用意してあります。風呂上がりの冷えたビールとハイボール、カクテル類はマスターのおごりですが、下戸の方にはノンアル飲料も――」

「文明レベル、ねぇ」


――幕――

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