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第三席:スキルを獲得しよう

「どもー、異世界 航(いせかい わたる)です」

異世界 拓(いせかい ひらく)ですぅ」


「二人合わせて」

「「ワタル&ヒラクです!」」


「なぁワタル、成長過程は大事だろう?」

「赤ちゃんに転生して、その世界で成長していくってやつね」


「どんな魔法が使えるようになるか、どんなスキルを獲得できるのかってワクワクもんだし」

「でもヒラクの能力ってもう決まってるからなぁ」


「テンション下がるからやめたげて」

「うぃ」



『僕の名はアレン。王都から馬で三日ほどの距離にある村で生まれ育った。この世界では十五歳で成人を迎え、様々なスキルを得ることができる。僕はそのスキルを授かる儀式である洗礼式に出席するため、教会のある近隣の町へと向かっていた』


「ねぇシズクちゃん、洗礼式が終わったら町でお茶しよおよぉ。昆布茶にストロー二本挿して二人で飲もう?」

「やめろイアン。シズクちゃんが嫌がってるだろうが」


「うるせぇよ、弱虫アレン。これは二人の愛の語らいだ。グダグダ抜かすと殴るぞ!」

「くそ、父さんと同じ【怪力】のスキルが獲得できればお前なんか――」


「俺の父ちゃんは【魔物殺し】だぜ。てめぇなんかにゃ負けねぇよ」

「別にスキルは親子で受け継がれないですから、カンケーナイデスヨネ」

「なんだ急に弱気になりやがって。シズクちゃんも苦笑いだよ」


『教会に着いた僕たちは幾つかの村から来た少年・少女と共に聖堂に集められ、胡散臭い感じがする神父様の祝福とやらを受けた』


「ミナサマ、成人ノ儀、オメデトゴザイマス。コレカラノ人生ガ光ト共ニアリマスヨウニ。チナミニ私、胡散臭クハアリマセン――」

「な、なんだこの体を包む光は。これがスキルを授かるってことなのか?周りが白く霞んでいく。どこかで見たようなこの風景は……」


「お久しぶりですヒラク様」

「うわ、ビックリした。相変わらず大企業の新入社員みたいなその恰好は――誰だっけ?」

「もぉ、ヤマトですよ。ヤマトタケシ。十五年振りだからって忘れないでくださいよ」


『そのとき俺は前世の記憶を思い出した。そうだ、俺はイセカイヒラク。天才の名を欲しいままに数多(あまた)の企業を起ち上げ、巨万の富を得ながら不幸な事故で世を去った――』


「過去を捏造しても虚しいだけですよ」

「……で、何の用だ?」


「約束通り神の権能を渡しに来たんです。要らないなら帰りますけど」

「あのしょぼい能力か。なぁ、あのとき俺は騙されたんだろ?もうちょっとマシな力にチェンジできない?」


「今更無理ですよ。それにしてもよくこの歳まで生き残れましたね」

「頭からポットン便所に落ちたときと尻から妙な虫が出てきたときは、さすがに死ぬかと思ったけどな」


「あの虫は森に落ちてた果物の拾い食いが原因ですから、自業自得ですよ。」

「それにしても腹の奥から突き上げるような痛みは酷かったぞ。俺に何か恨みでもあるのかと」


「虫なりに何か思うところがあったのかも知れませんね」

「なんで?」


「個人情報に関わることですが、あれはカブトムシのヒラク様の転生されたお姿ですから」

「俺、恨まれるようなことしてなくね?それにしても、アイツもこっちの世界に来てたのか」


「セットで送ると書類が少なくて済むもので、つい」

「どうして俺たちがお前の仕事の手抜きに協力させられてんだ!」


「あんたがこちらのちーっちゃいミスをあげつらって、我儘ばっかり言うからだろうが!こっちもヒマじゃねぇんだよ!!」

「逆切れ!?」


「それにしても日本の生活水準に慣れた人にこの環境は厳しくないですか?」

「以前の記憶をすっかり無くしてたからな。この先、前世の知識を使って改善していくさ。そして金満王に俺はなる!」


「そこらのラノベみたいに上手くは行かないでしょうから、あまり甘く考えない方がいいですよ」

「そうなの?」


「あなた程度の庶民じゃ、魔物の素材どころか定番のマヨネーズに使う材料すら入手はほとんど不可能でしょうしね」

「まさか」


「例えば生で食べられる卵なんて、買おうと思ったら同じ重さの金塊が必要になります」

「そ、そんな……」


「ま、今一度人生をリセットすることも考えた方がよろしいかもですよ。次にこちらに来たとき一声掛けていただければ、できるだけお力になりますので」

「お前、過去の汚点(おれ)を消したくてしょうがねぇんじゃねぇか?虫の方は兄貴が踏み殺したから、残りの関係者は俺だけだしな」


「やだなぁ、それは邪推ですよ。力は確かに渡しましたからね。それじゃこれからも頑張ってください――」

「判り易く動揺して逃げやがった……お、周囲の景色が元に戻っていくな」


「コレデ皆サンハ、メデタク成人トナリマシタ。神ノ祝福ヲ。ナオ、私ワ胡散臭クアリマセンカラネ」

「念を押すところが更に胡散臭いな。さて本当にスキルが使えるのか試してみたいけど、誰でもってわけにはいかないしな……あ、アイツは――」


「俺、鼻毛の本数が解るスキルを獲得したんだぜ。昆布茶飲みながらシズクちゃんのも数えてあげるよ」

「またシズクちゃんにちょっかい掛けやがって――やめろ、ジャ・イアン!」


「誰だ!?――またお前か。アレンのくせに生意気だぞ」

「これ以上お前の言いなりになんかならないからな!食らえ【カース オブ ディッシュウオッシング】」


「うおぉー手が痛ぇ。何しやがった!?」

「もうお前は皿洗いも満足にできなくなった。手伝いをサボってお袋さんにこっぴどく叱られろ!」


「てめぇ、ウチの母ちゃんがどれだけ恐いか知ってるくせに、なんて酷いことを!憶えてやがれぇーれぇ-れぇ……」

「ざまぁみろ。……シズクちゃん、大丈夫かい?」


「ありがとう、アレンさ――」

「そんなに驚いて、どうしたの?」


「私、男の人がどれだけエロいことを考えているのかが見えるスキルを貰ったの。あなたとはもうお友達ではいられないわ。さよーならー」

「シズクちゃーん、って凄ぇ勢いで逃げ出したな。イアンよりよっぽどエロいこと考えてたのか、俺は。しょーがねぇ、家に帰るか」


――幕――

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