3.王妃様大救出!
「それって、私に答える義務なんてありますか?」
でも、ちょっとからかってみる。
さっきからずーっと、手のひらで転がされてたんだから。
ちょっとくらい、仕返しがしたいじゃん?
子供っぽいけど、事実子供だし。
なんて考えちゃう私は、可愛くないのかぁ。
前世でも散々言われてきたことだもん。
大丈夫、それがたった少し増えるだけだから。
「確かに、答える義務はありませんが……どこでその言葉を聞いたのかだけでもいいので、教えてくれませんか?」
え?
どうしてこの言葉を知ってるのか?
そんなの、私が転生者だからに決まってるじゃん。
その他の可能性も否定できないから、あんな言い方したのかな?
それにしても、この世界にも同じ言葉があって、記録として残ってるのかな。
なんか、知ってるっぽいし。
割と重要そうな言葉だよね、殿下の口ぶりからして。
こんな仕立てに出るのも今までの行動から、考えられないものだよね?
そんなに、知りたがるような、大事なこと?
確かに転生者は、知識といい文化といい、様々な点で役立てると思う。
でも……
「どうして知りたがるのかを教えて下さったら、私…口が軽くなってしまうかもしれませんね。」
殿下には、これでつうじるでしょ。
訳も聞かずに、教えて痛い目にあうのはごめんなので。
「それは……っ。転生者の、知識が必要なんです。このままだと、母上が……っ…て、すみません。……今のは忘れてくれて、結構です。」
殿下は思いつめたように、言った。
あっ……!
その言葉でようやく私は思い出したんだ。
殿下のお母様……つまり、王妃様が病を患っていたことに。
確か、殿下が12歳の誕生日を迎える時には、もう……このよをさっていたんだよ、ね。
この時代には、直せなかった病気。
どうして、忘れてたんだろう。
このままじゃ、あと数日で……
「王妃様の容体はっ!?」
私は居ても立っても居られず、そう声に出した。
私が机に勢いよく手をついたせいで、ティーカップがガチャンと音を立てる。
殿下は、驚き、唖然としていたが、やがて我に帰ると、重々しく口を開いた。
「母上は……今、ベットに寝込んでいて、……日々元気がなくなっていってます。……最近は、怖くて行かないようにしていましたが、昨日……突然容体が悪化した、と。お医者さんが言っていたのを聞きました。」
なっ、なんてこと。
「……今すぐ、今すぐに私を王妃様の元まで連れて行って!……じゃなきゃ、死んじゃうっ!!」
今日、だったんだ。
乙女ゲームの世界では、細かい詳細は出てなかった。
殿下が12歳の誕生日を迎えるまでに亡くなった、亡くなる前日に急に容体が悪化して、次の日の夕方には……と。
あと、ソフィアが関係しているとも……。
殿下の誕生日がいつかなんて知らないけど、私は殿下と同い年で、 私の誕生日が来たら、12歳。
それは、殿下も同じ。
設定には、確か誕生日、6月だって書かれて気がする。
今日は、6月の最初の週。
殿下の誕生日が、今日かもしれない。
しかも、私と初の顔合わせの日。
今日の可能性がすごく高い……
私は必死に叫んだ。
「わっ、わかりました。」
私の願いが通じたのか、殿下は了承してくれた。
殿下も私も口調が崩れてしまっているが、そんなこと気にしてる場合じゃない。
一刻も早く治療しないと、間に合わないかもしれない。
それだけは、避けなくちゃ!
「……っ、はぁはぁ。」
王宮は思ったよりも広くて、全力で走っても数分かかってしまった。
殿下がドアの前にいる騎士達に何やら話をし、私はやっと王妃様の部屋に入ることができた。
そして、王妃様を目の当たりにした私は……
「っなんてこと。」
声に出さずにはいられなかった。
それくらい酷い状態だったんだ。
やせ細って、くっきりと骨がわかる手足。
所々、出血もしている。
吐く息は、今にも途切れそうだ。
もっと、早く気づいていれば……!
はぁ、こんなの例え転生者が医者だったとしても、助からないよ……。
この世界に知識がなかったのはしょうがないけどさ。
王妃様の病気は……「がん」。
昔は、不治の病とされていた病気。
しかも、状況を見る限り、末期……。
ふーっ。
私は大きく息を吐いて、覚悟を決めた。
「回復」
呪文を唱えると、王妃様の体が光に包み込まれ、肌には赤みが出てきた。
すうすうと寝息を立てていて、さっきとは違い、楽になったみたい。
よかった。
成功したんだ!
初めて使ったから、正直、不安だったんだ。
うまくいって、本当によかったぁ。
ちなみに、殿下はというと、口をポカンと開けて、でも、不安そうに私と王妃様を代わる代わる見ていた。
ま、普通はそうゆう反応するよね。
ていうか、さっきと全然雰囲気が違うよ?
「殿下、もう大丈夫ですよ。王妃様のご病気は、治りましたから。」
安心させるため、私はなるべく優しい声で微笑んだ。
「元気になった」よりは、「治った」の方がいいよね。
「元気になった」だけじゃ、治ってないかもしれない不安が生まれちゃうからね。
ん?
なんか殿下の頰が心なしか、赤いような……気のせい?
「あっ、ありがとうございます!ソフィア嬢っ!」
殿下は少し涙目でそう言った。
この表情は可愛いかも。
年齢相応の表情だよね。
「ふふっ。どういたしまして!」
私も笑顔で応える。
人気No. 1で、腹黒で……国を背負っていくために努力してて、小さい頃から自分の立場を理解している。
でも、幼い頃の出来事から誰も信じられなくなってしまう。
本当は、誰かのために一生懸命になれる優しい人なのに。
苦い思い出の一つに、王妃の死もあったと思う。
それを回避できたけど……このまま、何事もなければいいな。
だって、実はすっごい甘えん坊さんだったりする。
1人で抱えすぎて、寂しくなって、誰にも言えないんだよね?
器用なんだか、不器用なんだか。
それも含めて、全部がアルベルト・ヴィ・ロジャース……私の、婚約者だ。
「も〜。泣かないでくださいよ、殿下。あなたに涙は似合いませんから。」
「……っ、はい!」
ポロポロと涙を流す殿下は、なんだかスッキリとした表情をしていて、太陽の光とリンクし、なんだか……輝いて見えた。
その後、私のお迎えが来て、お開きとなった。
まあ、近々ここにまた来そうだけど。
だって、回復魔法を使っちゃったんだよ?
それだけじゃないけどさ。
私はこれからのことを思って、ため息をついた。
私の平穏な日常は、今日でおしまいか。
ここまで読んで下さって、ありがとうございます!