1.攻略対象王子との初対面
はじめまして、作者の香那です。
今回初めて投稿させていただくので、わからない点も多く、誤字もあるかもしれません。
そんな時はコメントなどで指摘していただけると助かります。
「殿下、お初にお目にかかります。私は、ソフィア・ホワードと申します。」
ドレスの裾を少しつまんで軽く上げ、私は目の前の王太子に挨拶をした。
「そんなに畏まらなくてもいいんですよ?君は私の婚約者なんですから。」
柔らかな笑みでそう促す王子様。
側から見れば、理想のカップルなのだろう。
金髪碧眼で顔立ちの整った(今はまだ)美少年が微笑み、身分を気にせず自分の婚約者に優しく接しているのだから。
普通の令嬢だったら、きっと一目惚れしていただろう。
それくらいに幻想的な、まるで一枚の絵のように綺麗な光景だった。
周りの侍女達も、ほぅと息を吐き、王子に見惚れていた。
まあ、カッコイイもんね。
それには激しく同意する。
でも、この王子様が表面上だけだということを私は知っていた。
だって、ここは乙女ゲームの世界で、目の前の王子様は腹黒でドSなキャラクターなんだもん。
攻略対象キャラクターの中で人気は常にNo. 1だったけどね。
※『アルベルト・ヴィ・ロジャース』
乙女ゲームの攻略対象キャラクター。
完璧でなんでも簡単にこなしてしまう。
この国の第一王子で、王太子。
王太子という肩書きに寄ってくる人にうんざりしていて特に媚を売ってくる令嬢が苦手。
それを悟られないために、笑顔の中に感情を押し込めてしまう。
利用できる人材は、とことん利用する主義で腹黒。
幼い頃に最愛の母親を亡くして、その最期にそばにいられなかったことに後悔している。
最期にそばにいられなかった原因である、ソフィア・ホワードのことを憎んでいる。
また、過去に何かあったようで、ヒロインと出会うことでそれを癒していく。
おっと、思考がずれた。
話を元に戻すけど、どうして私がこんなことを知っているのかというと………実は私には、ソフィア・ホワードとして生を受ける前に生きていた記憶があるから。
つまり、前世の記憶があるのだ。
アイリス・ホワードという公爵家の令嬢として生まれる前は、日本という国で女子中学生として暮らしていた。
しかも、普通の女子中学生ではなく、“天才少女”と異名を持っていた。
大抵のことは一度見たり聞いたりすることで覚えたりできたため、毎日が平凡でつまらなく感じていた。
そんなある日、交通事故に巻き込まれて死んでしまったのだ。
その後、神様と名乗る球体の光る物体に、誤った死だったと伝えられた。
お詫びに別の世界で再び生きることができるという。
そこで、前世ではまっていた乙女ゲームの世界に転生させてもらったというわけ。
あと、能力もいくつかつけてもらった。
……確か、どんな病気・怪我でも一瞬にして治せる回復魔法とか、自分が思い描いた魔法を使える、とか。
まあ、その他諸々。
今までほとんど使ってこなかったんだけどね。
というか、使えなかった。
神様のミスとかじゃなくて、純粋に記憶を思い出してなかったのだ。
で、転んで屋敷の池にダイブしてしまった時に思い出したんだ。
前世の記憶と神様とのやりとりを。
この世界では、回復魔法を使える人が貴重で、聖女として人々から崇められる。
私が神様から能力をもらった時は知らなかったんだけどね〜。
あっ、記憶を思い出したのはつい先日。
王太子との初顔合わせがあるって言われて見せられた絵に見覚えがあったんだよね。
それでずっと引っかかってて、考え込みすぎて池にドボン。
我ながら、見事に落ちたな〜
なんて考えてたら、池に沈んでいくにつれて記憶が遡るように私の頭の中を駆け巡った。
もともと可笑しいと思ってたんだよね。
この環境といい、口調といい合ってない…というか、違和感を感じていたんだ。
だから、転生したんだって気付いて納得!
今までの不快感が全部飛んでいくみたいだった。
あの時の快感はすごかったなぁ。
でも、すぐに気がついた。
私の転生先が悪役令嬢だということに。
まぁ、わざと転生先を指定しなかったんだけど。
自分で指定したら、他人の人生を奪っているみたいで、なんか他の人に申し訳ない気がした。
悪役令嬢っていっても、バッドエンドは回避できそうだし、そんなに気にしてないんだ。
「ソフィア嬢、どうかされましたか?」
私がつい思い出に浸っていると、殿下が心配して?声をかけてくれた。
「あっ、いえ。すみません、少し緊張してしまって……」
慌てて作り笑いを浮かべる。
おっ、殿下の笑みが少し動いたぞ。
私の笑み笑みが、作り笑いだって、気付いんだ。
私はそれに気づかないふりをして、会話を進めた。
殿下は、自分に好意がある、情熱的な人が苦手だって設定だったよね?
だから、嫌われるために殿下に好意があるふりをする。
んだけど……
はぁ、しんどい。
何が悲しく婚約破棄されるとわかっている男性に媚を売らなくちゃならないんだろう……。
相手が殿下でさえなかったら、王族の次の地位を持っているホワード家なら婚約破棄できただろうに。
公爵家で他に同年代の女の子って、いなかったのかなぁ。
なんなら、その子を婚約者にバックアップするのに。
うーん、いまいち思い出せない。
まだ(前世の)記憶が戻ったばかりで、未だに整理しきれてないんだよね。
いや、これも私の明るい未来のため。
「あのっ……殿下はこの婚約をどう思っていらっしゃいますか?」
よし!聞いた!!
殿下が(婚約)嫌だったら、なんとかなるかもしれない。
そう考えた私は早速行動に出た。
「どう……って。しょうがないんじゃないんでしょうか。」
えっ。
帰ってきた答えは、想像とは違っていて、驚いてしまった。
てっきり、“完璧な答え”、模範解答みたいな、婚約者が喜ぶセリフを言うと思ったのに……
これが本性?
「……さっきと、随分雰囲気が変わりましたね。」
「へ?」
あ、油断しすぎてつい令嬢らしからぬ声が出てしまった。
私の表情を崩すためにわざと言ったの……?
「なんのことでしょうか?」
手遅れと理解しつつ、とぼけてみる。
雰囲気が変わった、か。
まぁ、事実ではあるのだけど。
「さぁ、なんでしょうね。」
殿下は面白いものでも見つけたかのように笑みを浮かべた。
さっきの貼り付けた様な完璧な笑みではなく、本当に心から楽しんでいるようだった。
これはこれで不気味ではあるんだけど。
「そうですか。ところで……(さっきからこちらの様子を伺っている、)あの茂みにいるのって、殿下の側近の方でしょうか?」
私は話題を変えようとさっきから気になっていたことを聞いてみた。
『今思えば、これが始まりだったんだ。私の、平穏な未来に幕が下りたのは……』
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
更新頻度はのんびりだと思うので、気長に待っていただければ幸いです。