始まりは、記憶から
「アスリーア、分からないところはない?」
私は、アスリーア・クリリアム。公爵令嬢であり、王妃教育を控えた王子、ジアル・デリィの婚約者だ。
「大丈夫ですわ。ジアル。」
お互いに呼び捨てで呼び合うほど仲が良くなっている。というか、もう。婚約者だが。好きな婚約者と過ごせて幸せな日々。
でも、何か忘れているような……。
「ううっ。」
急な頭痛がした。何かが頭の中に流れ込んでいくような感覚。
「大丈夫か!アスリーア。」
あまりの痛さにうずくまってしまう。私の意識は段々と闇へと飲み込まれていく。薄れゆく意識の中で、私がかつて経験していたのだろう記憶が頭の中に流れるような感じがする。記憶が流れ込んでいく程に頭痛も酷くなっていく。
そして。意識が途切れた。
「はっ!」
見慣れない真っ白なベットの上から飛び起きる。
「うぅ……。」
あまりの頭痛に頭を押える。
その途端。私の記憶が蘇る。それは、前世の記憶。
1部しか思い出せていないけれど、これだけははっきりと思い出せた。
前世の私は乙女ゲームをプレイしていて、ある。ひとつの作品が好きだった。というか、それしかプレイしていなかった。
『桜舞う夜に。』というタイトルの学園を舞台とした王道乙女ゲームだった。
悪役令嬢のアスリーアは特に嫌がらせが酷かった。だけれど、キャラクターデザインがうまかったのか、可憐なイメージのキャラで、悪役であれど、人気もあったキャラだった。
あれ?アスリーア。悪役令嬢……?
あぁ。それ、私でした。
「私、悪役ね。」
はい。声にも出てしまっていますね。学校医の人も、なんだコイツっていう目をしていますね。知ってます。
でも、驚きを隠せずにはいられない。
私は、よく漫画や、小説で見かける。悪役令嬢転生してしまったようだ……!
「そっか。私がね。」
でも何故、本来。主人公は王子ルートなどの攻略対象のルートには私のような悪役令嬢って、入らないわよね……。でも、私って王子ルートに入っている。なんで!ヒロインじゃないの。
まぁ。でも、王子、ジアルは優しいし過ごしていて楽しいから、
いいのかな。
まぁ。結果オーライかな!
「気にしない。気にしない!
私は前世から気にしない主義なのだ。
そんなことを考えていると、ジアルが、保健室にお見舞いに来てくれた。
「ジアル!」
「大丈夫?王妃教育も始めたばかりで疲れてしまったのかも。」
「そうかもしれないわね……。」
そうだった。私は王妃教育を始めたばかりだったのだ。
結婚……。か。でも、今の私は前の私、記憶の戻る前の私とは違ってジアルに恋愛感情の様なものは持っていない……。ような?
「ゆっくり休んでね。」
そう言ってジアルは部屋を後にしたのだった。
私は先程考えていたことについてもう一度思考を巡らせる。
王妃教育って、沢山授業を受けなくてはいけないのよね……?
そして、私はジアルに恋愛感情を抱いていない……。
私は王妃教育を受けるのが面倒……。
よし。ジアルには、申し訳ないけれど、却下させてもらおう。そうしよう!
まぁ。具体的には後で考えよう。
私は細かいことを気にしない。前世からそういう感じで生きてきたのだから!