夕闇の訪問者
優しい温かな父親の温もりに包まれて安心した途端に、唐突に恥ずかしい気持ちになる。
まさか誕生日にこんなに喜びで涙する子供がいるだろうか?
まあアルセイヌとしては嬉しいのだから、いまは気にしないことにした。
すると後頭部を優しいてつきで撫でてからポツリと小声で呟く声がする。
「絶対に守ってやる。この国の陰謀にお前を気付けさせん。」
国の陰謀? どういうことだと疑問が浮かんだ時父親が私を離し、窓際に近づくと同時に夜の光が集まる影が人型に変わり姿を現した。
背が高く金色の髪をポニーテールにした男性が黒い騎士服を着込んだ姿で膝を折って父親をみる。
アレ? この人何処かで見たことあるようなあ〜?
「夜分遅く失礼しますグライハイム様。警備より秘密裏により知らせが、やはり読みが当たったようで侵入してきたものが現れたようです!」
「そうか。ゲルフィン、私が直に動く。すまぬが娘を頼めるか?」
「主は命令してくださればよいのです、私は主の剣仰せのままに。」
「そうであったな、では頼む。」
御意にと立ち上がり一礼する姿に、あ! と気づく。
この人確かアルセイヌの父の右腕として動いてるゲルフィンさんだあ。
野良犬のように暗殺職を生業にしていたけれど、危ないところをグライハイムが助けたんだっけ。
でもストーリー的にはまだ後だった気がするんだけど。
「アルセイヌ、私は急用ができた。明日の朝ごろの朝食後にライナリアと一緒に少し庭を散歩するか。」
一瞬ゲルフィンさんの方に気が散ってたせいでグライハイムの提案に間抜けな返事をしてしまい。
あ、怒られるかと思ったんだけど、クスクスと笑い2、3度頭をポンポンさせてから、どうだい?って私の様子を窺うように見てくる。
イチイチ動作と表情が私の萌え要素をつつく父親に負けコクンと頷く。
よし! と軽くガッツポーズをするのを見逃さず、私を見てから優しい笑みを向けたあと、側においていたのかマントを羽織って部屋を出て行った。
グライハイムが出ていったあとは、ゲルフィンさんは私より距離をおき壁に背を預け腕組みし目を瞑って静かに待機している。
ふむ、目の保養には嬉しいんだけど。
こうも静かだと夜の静けさもあって困るんだよね。
それもさあー美青年が私を見てないけど存在が危険なんだよね。だって月に映える美って萌えませんか?
私は萌えます、はい。
って誰に力説してるんだろ。
そう思った時だった。
静寂は打ち破られて廊下より剣戟の音が鳴り響く。
「え? 何が!?」
唐突の出来事にオロオロして不意に思い出す。
確か屋敷に侵入者とか言ってたような。
うーむ、こんなイベントあったっけ?
いや...アルセイヌの幼少期ってあんまり描写がなかった気がする。あっても簡単な説明文とかしかなかった。
「落ち着いていらっしゃるのですねアルセイヌ様。」
うひゃあ! 変な声が出てしまうじゃんか。
急に声かけないでよ思案中に。
ってゲルフィンが心配してる表情を浮かべている。
なんでそこで心配をと思って、確かに子供だし不法侵入者がきたら怯えて泣きそうものだと気づく。
でも不思議と私は怯えとか何にも感じなくて冷静に物事を判断しているようだった。
「侵入者って、私を狙ってるの?」
手を視界に入れると......敵の目的が自分ではと思えた。
ゲームでも白い髪にオッドアイは国にとって畏怖の対象であり、その外見とか持つものは排除されたと記されていたからだ。
「......ふむ、てっきり父親に縋る子と思ってましたが、やはり主の子と言うことですか。そうです。なのでここで大人しくしていてもらえると助かりますの。」
「うん。」
私が素直に頷くと少しゲルフィンさんは驚くも、すぐに表情は消えて黙ってしまう。
沈黙が部屋を支配している中、廊下側では倒された音に剣戟が数分続く。
目が覚めてからの混乱は落ち着いてくると、空に見える夜の帳に導かれるように空を見上げると、月に小さな蝶が一つ舞っていた。