月の帷に夜の花は眠る 前編ーグライハイム視点
事件の真相と謎は残る回です!
月と光と虫の声が夜の帷を濃くさせてる頃、グライハイムは重ねられた書類を整理しながらも夕刻の出来事で苛つきが収まらずにいた。
我が娘の制定式に事件が起こるなど、これほどに運命とは荒波に引き込ませてしまうのだろうか!
教会関連が何故アルセイヌを狙った不可解な利点、それにあの手の力や聖女誕生候補の登場。
問題は山積みとなり精神的にも疲労感が襲う。
「グライハイム1人で抱え込みすぎると老け込みますよ!」
カタンと飲み物が目の前に置かれて、視線を上向けば心配そうにケインがいた。そして奥側にはゲルフィンが壁に寄りかかって凹んでいる様子だった。
制定式の事件がここまでおおごとになるとはな。
「......確かにな。ってか老け込むは余計だぞ!」
「1人抱え込み体調崩して迷惑かけるよりも良いかと思いますよ、ほれ! さっさと愚痴ってくださいグライハイム。」
「愚痴れって、お前は。まあ...人払いでお前達2人を残して黙りも失礼だったな。」
アルセイヌの緊急処置は医師に任せているし時々様子を見に行ってもらってはいるが...まだ油断ならぬ状態だ。
「今回の動きはどうみるべきだと思う?」
「...国からの宣戦布告と最初は思いましたが、これは小さな飛び火と考え部下に調べてもらってますが...教会側の暗躍かと思われます。」
「教会側に知られたと?」
ケインは首を振り否定。次にはアルセイヌ様の存在の力を見て利用されたと考えるべきと付け加えて説明され、確かにとグライハイムも同意見と考えれた。
捕らえるべき存在があんな状態のせいもあるため尋問ができずにいるが。あの部屋の異常は独特な...何かを彷彿させるものがあった。
儀式をしていたのだろう、禁忌の何か?
アルセイヌの力...あれはあの教祖にとっても欲しいものだったと推測はできる。
しかし、尋問出来ぬほどにダメージを食らっている状態はどうにも、わからないことが多いのだ。
我々が駆けつけた僅かな間に何がと思わせるほど、辺りは酷い状況であり教祖の抜け殻のような表情。
「まだまだ調べておく必要があるな。」
今後を思うと気が滅入るが紅茶を飲むと気分的にも落ち着くが、よくわからないモヤモヤと嫌な予感が胸に湧いたときだった。
グライハイムの身体に影が差すのに気づき近くにゲルフィンが無言のまま立ち机の上に黒い残骸をおく。
なんだと思うが、よくみれば虫の羽根のように見える。
「ゲルフィン...なんだ、これは?」
「.......アルセイヌの側にいくつもあり、触ると砂に変わり果てるが魔力を通せば大丈夫だった......これは何かわかるか?」
「........!!」
黒蝶現象が起きていたのか?
グライハイムはゲルフィンの質問に頷き、羽根に対し困惑が滲む。アルセイヌが一度見せた現象の一部にあった黒い羽根、あれに似てる気がするからだ。
魔力を通せば触れるならばと触ろうとした瞬間だった。
銀色の蝶が目の前に現れ散る!
その時だ! 淡い空間にグライハイムは立ち尽くしていた。
ここは...教会の事件があった場所?
『...あの方が言っていた通り準備していて正解であった!! さあーー目覚め、供物となり復活すされるのだ!!』
歓喜の司祭が我が娘に長い長剣で突き刺そうとした時だ!
アルセイヌが魔法陣と共鳴するかのようにビクッと跳ねたとき、背中に黒い蝶の羽根が生えて長剣を弾く。
そして次の瞬間に動いていなかったアルセイヌがゆらりと立ち上がり司祭の方へと振り返りニタリと怪しげに笑んだ。
瞳は赤く血に染まるように真っ赤で、ときおり陽炎のように黒が揺らいでいる。
『ははは! これが彼の方が言われた現象か!! 欲しいぞ、さあーーー我が手に!!』
「気安く触るなゲスが!」
手をかかげてアルセイヌに触れようとするも、小さな手が大の大人の腕を握り締めるように止める。
戸惑いが滲む司祭にアルセイヌでありアルセイヌでないような声が聞こえ、次には無数の黒蝶がアルセイヌから生まれ司祭を包み込む。
すると司祭は最初歓喜した表情だったが徐々に苦痛と絶望を滲ませる表情となり気絶していた。
その状態をアルセイヌはしばし観察していたが、不意にグライハイムのいる方向を向いくる瞳は変わらず赤く敵意を滲ませ睨んでいた。
何故、睨んでと思ったとき周囲に人がいる事に気づいた。
怒号が周囲から湧き出しアルセイヌに群がるように襲いかかったが、黒蝶が羽ばたきかわす!
戦闘経験などないはずの娘の姿。
それが次々と倒していくこと数秒、最後1人となったときアルセイヌは口を開き小声で問うたが、その者は知らない!! と拒否の意志の態度を見せる。
「...やはり嫌い! この世界も何もかも!! 死になさい!」
手をその人にあてようとした瞬間に時が止まると同時にハッと意識が現実へと戻された。
「いまのは...現実か? それとも幻影?」
『現実であり、彼女の意識がある一部だ。』
頭を押さえ混乱する誰にも問うてない言葉に、聴いたことのある声が聞こえて驚き周囲を探すと現実世界は、まだ時間軸が動いていないのかゲルフィンが立ち尽くし固まっている状態だった。
しかしただ一つ時間は銀色の蝶がグライハイムの目の前で揺らぎながら羽ばたいて動いている。
「お前は...。」
『ふふ、いま少しお前の前に現れることができたのでな。アルセイヌの運命は過酷、魂の憎しみや絶望は世界を潰すほどに大きい。お前はその中の鍵の一つ、だからこそ起きた出来事を見せた。』
鍵? それはどういう意味だ!?
『ときが来たらわかる。遣いの者がアルセイヌの運命を導き、あの子の運命を切り裂いてくれる。......時間だ!』
おい! 待て!! と叫んだ瞬間には銀色の蝶は消えて時間軸が動き出す。
どうしましたか? ゲルフィンとケインから声をかけられて時間軸が動き出したことを認識したグライハイムは、深いため息を溢し2人に首を振る。
「なんでもない。ゲルフィン、この羽根は黒蝶の残骸だ。」
「黒蝶?...って確か!」
「そうだ、闇属性の特性さ。あの子は闇属性のスキルを持っているんだ。だからこそ悪いモノを引き寄せる、守ってやってくれ...あの子を。」
「ああ...今度こそ、必ず!!」
決意あるゲルフィンの言葉にグライハイムは安心して任せられると思ったが、先程の幻影にまだまだ動かねばならないと改めて考える必要を思案した。
****
今後の対策を練ってしばらく経った頃だろうか?
アルセイヌの専属メイドのエリカがアルセイヌの目覚めを知らせてきて部屋へと向かいノックすれば元気でどぞとアルセイヌの声がした。
グライハイムが部屋に入ると明かりはあるはずなのに......何処か存在自体が夜の帷の月に溶けてしまうのではと思うほどに儚さを滲ませベッドから起き上がっていた。
近寄ってみればオッドアイの瞳は何故か透き通るほど綺麗で夜の星のようだと思う。
「お父様...どうかしましたか?」
「あ、いや...なんでもない。気分はどうだ、運ばれて来たときよりは顔色は良さそうだが?」
アルセイヌは少し考えて首を傾げたが、自分の状態に大丈夫ですと答えてきたが熱があるかもと額に触れる。
するとみゃあ!! ち叫ぶアルセイヌの反応が可笑しいが熱があって心配にはなる。
手で測ればべつだん熱はないようで安心した。
「なあ.......アルセイヌ、事件の記憶はあるか?」